舞踏会に招待されてピンチ
「どこを見ている!殿下がお通りになる通路でもあるのだぞ!」
床に尻もちをついた私に男子生徒が叫んだ。一体何なの?と思いながら上を見上げると、ガタイが良い男子生徒が仁王立ちしていた。
「レディに厳しい言い方は感心しないな。ボクのことを怖く思ってほしくないよ」
立ちはだかっていた男子生徒の奥から柔和な声が聞こえた。男子生徒を除けて私に近づいてきた男子生徒は、ナント先ほど食堂で見た第一王子ではないか。
「前を見ながら歩こうね?転んだら痛い思いをするよ?」
床にお尻を着いたままの私に手を差し伸べてくれる。手を差し伸べられたものの、目上も目上の王族である方の手を簡単に触っても良いものか迷っていると、第一王子が穏やかな声で手につかまるように言ってくれる。
「遠慮しないで。さあ、手につかまって」
「す......すみません」
おそるおそる第一王子の手に触れて立ち上がらせてもらうと、第一王子は私にケガが無いか聞いてくれた。
「ケガは無い?友人がすまないね。ボクのために張り切ってやってくれているのはありがたいんだけど、人にイヤな思いをさせるのは良くないね」
注意を受けた男子生徒は焦りながら反省の意を述べる。
「殿下、申し訳ございません。改めます」
「うん。でも、ボクにではなくこちらのレディに言うべきだね。レディには優しくせねばならないよ」
「しかと心得ました」
「君、申し訳なかった。令嬢にとるべき態度ではなかった。だが、わきまえておいてくれ。殿下にぶつかる恐れがあったのだから」
側近らしき男子生徒は、注意付きだったけど謝罪してくれた。あれほど怒っていたのに鶴の一声で簡単に謝ってくれるのね。
「私こそ不注意で大変申し訳ございませんでした」
「では、解決だね。ところで、レディの名は何という?」
まるく収まったと思った矢先に名前を聞かれるとは......こちらでもブラックリストに載ってしまうのだろうか。第二王子に引き続き、第一王子からも目をつけられてしまうかもしれない恐れに焦る。
「わたくしはフォルテ伯爵家のセイリーンと申します」
「ああ、スワロウの妹だね。キミの一族は魔力に優れていることで知られているよね。魔法課の部署でも評判が高い。スワロウの妹もさぞ優秀なんだろうね」
「いえいえ、そんなことは」
「謙遜しなくていいよ。ボクは魔法が好きなんだ。スワロウに魔法について意見を求めることもよくあるよ。セイリーン嬢が良ければ、もう少しキミのことを知りたいのだけどダメかな?」
王子にダメなんて言えるわけがないのでイエスと応えるべきなんだろうけど、えーとこういう時に言うふさわしい言葉ってなんだったっけ?
「…で…殿下のお心のままに」
確かこんな風に応えておけば良いはず。以前、オランジェに習った都合の良い言葉の1つだったかと記憶している。さっそく役に立って良かった!
「では、今度、王城で開く舞踏会にキミを誘ってもいいかな?学生たちがメインの気軽な舞踏会だから緊張しなくていいよ。ボクが在籍する2年生を招待するつもりなんだけど、有能な人物も招待したいと考えていたから」
「わたくしが有能かどうかは分かりませんが......承知いたしました」
「そんなにカタくならないで。後でセイリーン嬢の屋敷に招待状を届けさせるね。キミと魔法談議できるのを楽しみにしているよ」
「あ......ありがとうございます」
慌ててお辞儀をすると、第一王子は不思議そうな顔を一瞬したけれど笑顔で側近たちと去って行った。また、お辞儀の仕方を日本式でしてしまった。それよりも、どエライことになってしまった!と背中に冷や汗が流れるのを感じる。
(魔法談議って言われても全然詳しくないし!しかも舞踏会ってことは踊るってこと!?)
クラクラしながら馬車寄せに歩いて行くと迎えにきた馬車に乗りこんだ。
(王子様から舞踏会に誘われて魔法談議をしなくちゃならない!どうしよう!)
舞踏会に招かれたということはダンスができないといけないだろう。あいにくダンスの練習はまだこちらの世界に来てから一度も経験していない。舞踏会がいつ開催されるのかについても確認する余裕が無かった。
屋敷に帰宅して出迎えてくれたオランジェに事の次第を話すと、オランジェもとても慌ててお母様への報告にすっ飛んで行った。やはりただ事ではない事態だったのだ。
取り急ぎ、ダンスの先生を手配してもらえることになり、作法についても急ピッチで確認していくことになった。
帰宅したお父様やお兄様が殿下からの舞踏会のお誘いに驚いたのは言うまでもないだろう。
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