第47話 お金がほしい究極の理由

「あらためて、二人と考えてみたい。どうして、お金が欲しいのだろう?」


 パパは質問した。ずいぶん前に、二人の子どもたちがした質問でもある。


「それは、欲しいものを何でも買うことができるからだわ」


 カノは、自信をもって答えた。


「お金がたくさんあれば、我慢する必要がなくなると思うよ。欲しくてもガマンするって、けっこうつらいから。友だちが持っているものを、いいなぁって眺めるのはね……」


 ハルも続く。


「お金がたくさんあれば、我慢をしなくても良さそうとは面白いね。たくさんのお金があれば、買うのに迷う必要もないかもしれない。気になるものを全部買ってしまえば、良いからね」


 パパは、二人の答えに同調した。


「そうよ。悩みが減りそう」


「あ……、ひょっとして、ぼくらみんなが、お金を欲しがる理由は……悩みをなくしたいからかもしれない」


「お、ハルくんなかなか興味深い。悩みをなくしたいからとは、どういうことだい?」


「えっと。お金がたくさんあれば、まず食べ物、着るもの、住むところに困らない。それに使いきれないくらいお金があれば、もう自分の時間を削って働く必要もなくなるよ。自由になると思う」


 ハルは、しっかりと自分の意見を述べた。


「そうだね。お金が欲しい究極の理由は、『自由』を得たいからだろう。自分の人生の時間は、有限でとても貴重だ。限りある時間をなるべく『自由』に過ごしたいと思うのは当然だろう。『自由』に生きるために必要なのは、何か? それに一番近いものとして、現代の社会では『お金』になる。『お金』は多くのものと交換可能な便利さがある。万能ツールだ。たくさん『お金』を持っていればいるほど、『お金』と交換できるものは増える。高価なものなどね」


「そうだよねー。お金がたくさんあったら、何も苦労がなくなりそうだよっ」


 カノも、うんうんとうなずいて応じる。


「でもね、そうとも限らない。やっぱりどんなにお金持ちになっても悩みはあると思うよ。大金を持っていたって、体調のすぐれない時はあるだろう。その時は、みんなひとしく、はやく元気になりたいと思うものさ。お金を持っていたって、大好きな人とケンカをすることもあるかもしれない。急な雨に降られて、げんなりするかもしれないよ」


 パパは、考えを進める。


「そりゃそうだけど……うーん」とカノ。


「お金がたくさんあったら、生きていくのが楽になるのは事実だよね。欲しいものが買えて、自由な時間が増えて」


「そのとおりだろう。二人に覚えておいてほしいのは、基本的にみんなお金が欲しいということ。だから、きちんと自分の目で見きわめて、お金を使う判断をしていくことが大事なんだ。世の中には、お金を簡単に使わせる仕組みがいたるところにある。自分の時間を削って苦労して手に入れたお金を、そんなことに使っていいのかと考えるクセができると良いね。まぁ、まだ働いたことがないから、実感がわからないかもしれないけどね」


「パパの言いたいこと、わかるよ。『お金は時間の結晶だ』って言っていたこと、すごく大切なことだと思うんだ」


「それから、気をつけて欲しいことがある。お金ばかりを求めてしまうのは、危険だということ。手段が目的になってしまうかもしれない。より多くの『自由』を求めて、『お金』を手に入れようとしているのに、その自由さを捨てて『お金』を求めてしまう人たちがいる。家族と過ごす時間を犠牲にしてしまったり、働きすぎて身体をこわしてしまったりね。そうなってしまっては、しあわせから遠ざかってしまうのではと思う」


 パパの説明に、二人は聞き入る。


「ほんとにそうなってしまったら、なんだか悲しいわ」


「お金を欲しがってしまう理由の一つが、成功の証というところもあるからね。お金をたくさん稼げば、あの人は人生の成功者だと周りから見られる。だから、もっとお金が欲しくてなってしまうというわけだ。でも、それは、真の成功者だとは、パパは思わない。人生の成功は、いかに、しあわせに過ごすかだ。好きな仕事について、アイデアを練ってたくさんの人に喜んでもらい、それで手に入れたお金を本当に望むものに使う。家族や大切な人たちとの楽しい時間を過ごすといったことにだね。忘れてはならないのは、『お金の問題は、人生に直結する』ということだよ。いままで色々話してきたとおりね」

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