第8話 待ち合わせ
少し短めです。
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スマホを見る。集合時間1時間前。集合場所に早く着き過ぎてしまうのは、遊び慣れていない人あるあるだと思う。
思えば、今日という日がとても遠く感じた。私の通う高校が中途半端に進学校なせいで宿題が色々と課されたからだ。私は勉強があまり得意じゃない。途中、勉強が得意な凪沙さんに聞きに行こうかなって想ったけど、バーベキューの日以来彼女とまともに顔を合わせられずにいる。偶にメールが来るけれど、彼女の名前を見るだけで無性にむず痒くなってしまい、最低限のことしか返せない。別に特別なことをしたわけじゃないのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
「だーれだ!」
物思いに耽っていたところ、不意に後ろから抱きつかれて、手で目を覆われた。どこまでも無邪気そうな声。その正体はもちろん……
「実里ちゃん、でしょ?」
「あったりー!やっほー!はるかちゃん、早いね!」
抱擁が解かれて後ろを振り向くと、実里ちゃんは曇り一つない笑顔をたたえていた。
「こんにちは実里ちゃん。私も今来たところよ」
本当はもっと前からいたけど、さも今来たばかりなことを装うやつ、一度やってみたかったんだよね。
「そっか!お、はるかちゃん、その服!着てきてくれたんだ!とってもよく似合ってるよ」
「そう?実里ちゃんのセンスがいいからだと思うよ。こんな服着るの初めてだから、少し恥ずかしいかも……」
私は今まであまりファッションに興味がなかったので、ろくな服を持っていない。唯一凪沙さんからプレゼントされた洋服があるんだけど、ライブに着ていくには少し動きづらそうだった。
そこで、私はおしゃれさんな実里ちゃんにメールで相談した。すると、彼女は私に合う服を何着かネットで見繕ってくれて、なんと買ってくれたのだ!
お金は私が出すよって言ったんだけど、「ついにはるかちゃんがおしゃれに目覚めたんだね泣。私とっても嬉しいよ!」と理由になってるのかよくわからないことを言われて断られてしまった。
届いた服の中から、一番動きやすそうだと思った服を今日着てきた。
「うんうん。はるかちゃん、スタイルいいからシンプルでいいんだよね。ヘソだしもバッチリ決まってるね!」
実里ちゃんが手をグーと突き出して私を誉め殺してくる。悪い気はしないんだけど、彼女の目がちょっと嫌らしかったのが気になった。
「実里ちゃんこそ、流石だね。可愛いと思う、よ」
一方の実里ちゃんはというと……女の子、それも彼女の推しがデカデカとプリントされたシャツを着ていた。他の人が来ていたらイタいなぁって思ってしまうんだけど、実里ちゃんが着ると不思議と違和感がない。今日はアイドルのライブに行くので、むしろふさわしい格好な気すらしてきた。
それは彼女の持つ顔面力ゆえか、はたまたオーバーサイズ気味に着ていたりと色々工夫されているからか定かじゃないけど、とにかく、うん。可愛い以外の感想が湧いてこなかった。
「ありがと!私の選んだ服を着てくれてのは嬉しいけど、はるかちゃんも持ってるじゃん。推しT。着てきてくれたら、ペアルックって自慢できたのに」
笑ってみたり膨れてみたり表情を忙しなく変える実里ちゃんと話していると、色々なモヤモヤを忘れられてとても楽しい。
「あとはなぎちんだけだね〜」
そう言って隣に座ってきた実里ちゃんは足をパタパタと揺らし始めた。つられて私も足を揺らす。
何も考えなくてもいい、悩まなくてもいいこのゆったりとした時間にホッとして、私は肩を撫で下ろした。
「ごめんね〜2人とも。待たせてしまったかしら」
間も無くして、前方から赤茶色の髪の美少女が駆けてきた。やや肩で息をしながら近づいてくる彼女からは、ほのかに甘い匂いがした。
「こんにちは、凪沙さん。そんなに急がなくても大丈夫だよ?」
「そうだぞ、なぎちん!私なんていつも遅刻ギリギリだからね」
「……それは威張って言うことじゃないと思うなぁ」
「あはは……」
手を腰に当て、渾身のドヤ顔を決める実里ちゃんに冷静なツッコミを入れる凪沙さん。そして、どちらの肩を持てばいいかわからず、曖昧に笑う私。いつもの構図だ。
「やっぱり久しぶりな感じがするね。こんな風に3人揃って遊ぶの」
入試とか春休みとか、期間にしてみればあまり長くはないけれど、確かな懐かしさがあった。
「そうだねー。じゃあ、今日はいっぱい遊ぼっか!」
実里ちゃんが私と凪沙さんの間に立って、2人の手を取る。小さいながらも安心する感触が手に伝わる。
「ちょっと、歩きづらいわよ実里ちゃん……」
「いいじゃん!減るもんじゃないんだし」
早く行こうと言外に訴えるように、実里ちゃんは私たち2人を引っ張っていく。私たちより小柄な背中も今は誰よりも大きく見えた。
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