第4話 マネージャー①

ミツル君と距離を詰めるにはどうすればいいかな……前を歩くミツル君の姿を目で追いながらぼんやりと考える。高校デビューを果たして早3週間、一緒に登校するようになったり、偶に学食に行くようにはなったりしたけど、いまいち親密度が上がっていないような気がする。大体のコミュニケーションは凪沙さん伝いだし……これじゃあ、中学の時となんら変わらない。


「はるちゃん、浮かない顔してるね?何か悩み事でもあるの?」


「ん、あいや、なんでもないよ」


「そう、何か困り事があったらなんでも言ってね?私たち、親友でしょ?」


し、親友!?凪沙さんが私を親友と!?今まで片親友だと思っていた私たちの関係が、ついに正式に両親友と認められた!!


「私たち、し、親友……?」


「そうよ〜私たち、とっくの昔から親友でしょ?」


「う、うん。ありがと」


「こちらこそ、ありがとだよ」


もうとっくに桜の花は散っているけれど、凪沙さんに親友だと言ってもらえて、今日の通学路はいつにも増して華やかに見えた。


_______________

「今日で新歓期間終わりよね」


「そうそう。どの部活に入るか決めた?」


「えっと、わたしは――」


昇降口をくぐると、部活動勧誘のポスターが貼られた掲示板前にたくさんの人が集まっていた。


「結局はるちゃんは部活入らないの?」


「うん。私運動苦手だし、楽器とかもできないし……」


勉強以外取り柄がなく、人に自慢できるような一芸を持ち得ない私に部活動に参加するモチベーションなどなく……


「凪沙さんは部活入らないの?ほら、バスケ部とか」


対する凪沙さんは小学生の頃からバスケットボールをしているらしく、中学時代は1年生の頃から部活のレギュラーを勝ち取っていた。バスケをしている時の凪沙さんはとてもかっこいい。いつもはぱっちりと開いたやや垂れがちな目も、バスケをしているときはキリッと鋭くなってとても綺麗だった。


「うーん。私も無所属かなぁ。バイトとかやってみたいし。それに、これからはもっとはるちゃんと一緒に遊びたいし」


「っわたしも、凪沙さんともっと遊びたい、かも」


今日の凪沙さんは、というかあの学食での一件以降、やけにグイグイくるようになった気がする。よくそんなこそばゆいことが言えるなぁと感心じみた感想を抱いてしまう。中学のときはあんなにミツル君にベッタリだったのに、高校に入ってからはそんなことないし。彼女にも何か心境の変化があったのだろうか?


「それならさ、2人ともうちでマネージャーやらない?」


突然投げ込まれた爆弾発言。ま、マネージャーだって!?


ミツル君は爽やかな雰囲気に反して?と言うのは失礼か……ともかく野球部に所属している。私も凪沙さんと一緒に大会の前とかはミサンガを編んだり、お弁当を作ってあげたりした。いやいや、そんな思い出に浸っている場合じゃない!


「ま、マネージャー?」


「うん。もし2人が引き受けてくれたら心強いかなって。うち、人手不足らしいし」


「だってよ、凪沙さん……どうする?」


容姿端麗、性格天使、幼馴染、マネージャー……メインヒロインとしての要素をコンプリートする絶好のチャンス。こんな機会、当然凪沙さんは見逃すわけもなく……


「うーん。私はいいかなぁ。確かにミツ君が頑張っている姿を間近でみたい気持ちはあるけど……」


悩む素振りを見せる凪沙さんだったが、目線はずっと私の方を向いている。さながら何かを訴えているようだった。


「そっか。春風さんはどう?」


「うぇっと……私も、パ――」


――ミツル君と距離を詰めるにはどうすればいいかな――今朝思い悩んでいたことがふと頭をよぎった。そうだ。今まで凪沙さんがいるからと遠慮していたけど、これは彼と距離を詰める絶好のチャンス!


「……興味あるから、見学してみてもいいかな?」


私は拳を握り締め勇気を振り絞って返事をした。足が震える。もし、断られてしまったらどうしよう。ミツル君は凪沙さんにマネージャーになって欲しいのかなって。


「はるちゃ「もちろん!今日の放課後、早速練習があるからよかったら見に来て」」


凪沙さんが何かを言いかけていた気がするけど、ミツル君の声にかき消されてしまった。


「うん、よろしくね」


初めてミツル君に笑顔を向けられた気がする。うまく笑えていたかな。


___________________


「あ、あの……凪沙さん?」


「なにかな、はるちゃん?」


凪沙さんの様子がおかしい。他の人と話すときは天使様なのに、私と話すときだけは、その柔らかな雰囲気の中に一本の棘が混じったかのような剣呑さを孕んでいる気がする。より具体的に言うなれば、笑顔が怖い。漫画でありがちな顔の上半分にトーンが入った感じ。とても圧を感じるのだ。


「ええと、特に用はないんだけど……」


凪沙さんの気に触ることをしてしまったかなと、普段は受けに回っている私には珍しく自分から声をかけた。


「そう……あのね、はるちゃん」


「はい」

 

今は6限が終わり、SHRの開始を待っている隙間時間。凪沙さんは私の名前を呼んで、もったいぶったかように距離を詰めてくる。


「凪沙さん、周りの人が見てるよ近いよ」


私はパーソナルスペースを守るべく、彼女から距離を取ろうとした。しかし、私の足が動く前に彼女の手が私の手首をがしっと掴んだ。少し痛みを感じるほどに力が込められた彼女の手は、心なしかいつもより熱く、震えている気がする。

 

「今日の見学、私も行くね」


「う、うん」



いつになく真剣な表情な凪沙さんは、手首を掴んだ手にさらなる力を込めてにそう囁き、自分の席についた。


今、ようやくわかった気がする。今日の朝、私に言わんとしていたこと、そして彼女が私にだけ不機嫌気味だった理由が。凪沙さんはメインヒロインで私はサブヒロイン。今まで忘れていたけど、私たちは恋敵。彼女だって必死だったのだ。最後に勝つのは彼女か私か。私だって


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