28 キャラクターについて語ろう! 後編
プロット以外にも、オリジナル版とリライト版で大きく違う点がひとつあります。
それは登場人物を一人追加したことです。
……今まで一切触れずに4回もエッセイをお届けしてしまいました。もしオリジナル版とリライト版を読み、このエッセイも読んでいるという稀有な方がいらしたら、やきもきしていたことでしょう。
ご説明いたします。
リライト版では久留米伊予(以下 伊予)というキャラクターを新しく登場させました。彼女を登場させた目的は、主に2つあります。
1つは杏奈と対比になるキャラクターが綾香と別に欲しかったからです。
オリジナル版で綾香と杏奈は対比の関係になっています。「綾香も馬鹿な行いをしたが、杏奈はそれ以上に馬鹿だった」「綾香は大塚(と神様)を信じた。杏奈は綾香(と神様)を信じなかった」などの点で対比が見られます。馬鹿な行いをしたことを悔い改めず、信じなかったことで杏奈は死に至りますが、綾香は馬鹿な行いをしたことを悔い改め、信じたことで味方に囲まれた幸せな人生を歩んでいます。
リライト版ではこの対比を分かりやすくする目的で伊予を登場させました。
杏奈は幼いころから綾香を知る人物ですが、綾香の霊感を信じずに命を落とします。一方、初対面の伊予は、綾香の霊感を信じて生き延びます。同時に登場させることで、明暗が分かりやすいのではないかと考えました。
前回、私はリライト版で「杏奈が綾香を信じていなかった事実」によって起きる衝撃が薄かったかもしれないと書きました。この部分の補強として、もう少し伊予をうまく使うことができたのではないかと考えています。綾香が怪異と関わる時点で必要なのは「読者に杏奈が綾香を信じていると思わせること」です。とても言い方が悪いですが読者を騙すわけですね。
杏奈があからさまに綾香を信じるそぶりを書くと嘘になってしまいます。伊予に疑わせることで、杏奈が綾香を信じていると見えるように書いたつもりでしたが、力量不足だったと思います。
脱線してしまいましたが、話を本筋に戻しましょう。
伊予を登場させた目的のもう1つは、テーマの補強のためです。
リライトをするにあたり、私は「信じるとは何か?」をテーマに掲げました。このテーマを示すストーリーの主張は大塚の言葉です。雅弘は綾香の話を聞き、家族や大塚、千晴が綾香の味方であることを実感して大塚を頼る決断をします。その決断に至る補強材料として「綾香は幼馴染に信じてもらえず見捨てる決断をしたが、初対面の伊予とは友人になり今も関係が続いている」という要素を追加しました。
伊予の存在がノイズになっていないかは心配なところですが、千晴に探偵役をさせるアイデアにもつながりました。あれこれ真面目なことを書いていますが、登場を決定した一番の決め手は趣味です。せっかく千晴がいるなら探偵をさせたいじゃないですか(雅弘に芦原の役割を押し付けたことは謝罪します。アホの扱いをしてすみません)。
余談という名の推し活ですが、綾香の事務所でアルバイトをする事務員の千晴は『上野恭介は呪われている』のスピンオフ作品『秋葉千晴は退屈している』で活躍しています。こちらは連作短編ミステリーで、主人公の千晴が事務所に持ち込まれた謎を、持ち前の観察力と推理力を生かして解決していきます。
リライト版で千晴に探偵をやらせておいてあれなのですが、プロットの改変で大きく悩ませたのは、新しく登場させた伊予よりも既存のキャラクターたちでした。主人公の雅弘や大きな出番のない千晴はともかく、綾香と大塚への理解が足りていないことに気づかされました。
綾香や大塚に新しい行動をさせるならば、それ相応の理由が必要です。この理由というのはプロットを改変するためではなく、その行動をキャラクターが取る理由です。新しい行動が、そのキャラクターの行動原理に反していないかを考える必要があります。何より私が作品のファンですから、キャラクターをストーリーに沿わせるような行為は言語道断です。
行動原理を考えるには、キャラクターのことを知らなければなりません。この問題は一人で解決できないため、作者の牛捨樹さんに質問をしました。新しい行動(展開)は、作者がリライト版を読むお楽しみ要素でもあります。ネタバレしないよう気を付けつつ、時に誘導尋問のごとく、細かいことまで訊ねました。
質問のやり取りを重ねるうちに、キャラクターだけでなく作品自体への理解も深まりました。特に作者が隠していた“間違えられない分岐”を掘り起こしたのは、個人的ファインプレーです。私は『タイム・リープ あしたはきのう』で作者のこだわりよりも作品を優先することを学びました。その時にいただいた返信は、リライト版で嬉々として使わせていただきました(あんなおいしい要素を隠しておくなんてもったいない!)。
『神に遭う路地』編は面白いだけでなく、深みのある作品だと思います。質問で発見した隠し要素もそうした深みを与えるものですが、一番は綾香というキャラクターの葛藤でしょう。
綾香は家族から霊感を否定されることなく受け入れられたことで、高い自己肯定感を持つようになりました。また自分を励ます母親の言葉から「後悔しない生き方」を選んできました。自身が持つ霊感を隠さずにありのまま振る舞い、他人の目を気にすることなく生きています。自信に満ち溢れた人物です。
「自分を信じること」が自信につながる。そう考えるなら、綾香の生き方はテーマを体現しているといってよいでしょう。彼女はストーリー上、一貫して自分を信じ続けました。彼女の自信は、幼馴染の杏奈から信じてもらえなかったことや彼女を見捨てる決断をしたことで揺らぎますが、大塚の言葉で立ち直ります。第352話『クソオヤジ』にある『extra』でも、綾香は大塚の言葉を思い出し、自分を信じ続けたから今の幸福があることを実感します。
ですが、自信というものは一歩間違えると過信につながります。それを書いたのが、綾香の化け物に対する姿勢です。
バックストーリーを経て十五歳になった綾香は、杏奈にとりついた化け物を今まで通り倒そうとして、しっぺ返しを食らいます。意識を失い、病院で目を覚ました彼女は自分の過信を認め、大塚への怒りを抑えて話を聞く姿勢を持ちます。その時点では大塚のことをまだ信じていませんが、話を聞くうちに怒りが消え「信じる」ことにつながります。
さも最初から気づいていたかのように解説していますが、恥ずかしながら、質問の答えをいただいてから読み解いていった部分です。今回のリライトでは、こうしたテーマの表し方というのも大いに学ばせていただきました。
リライト版『神に遭う路地』編の言い訳はいかがでしたでしょうか? ストーリーの三大要素であるテーマ、プロット、キャラクターの観点から本作を語ってみました。
次回はリライト編の終わりとして、リライトから学んだことを中心に語りたいと思います。
では次回!
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