27 キャラクターについて語ろう! 前編

 今回リライトで大きく変更した点のひとつは、綾香が怪異と関わるきっかけの部分です。


 オリジナル版では、綾香が「杏奈から相談されること」で怪異と関わります。この部分をリライト版では、綾香が「杏奈に声をかけること」へ変更しました。


 その理由のひとつは、杏奈の行動を理解するのに難しい部分があったからです。


 ただ、これはです。そのところはお間違えのないようにお願いします……!



 作中で杏奈は信じることが出来ない人物として描かれていると思います。綾香だけでなく、彼女は神様も信じていません。彼女が恋のおまじないに付き合ったのも、友人との関係を壊したくないからでした。


 私は杏奈が綾香を頼る過程に疑問を覚えました。

 彼女は恋のおまじないに付き合った後、目に異常が出て、はっきりと見えないけれど化け物の気配を感じ取っています。そのことを不安に思って綾香へ相談しますが、綾香が化け物を退治する過程で、目から血を流したことで引いてしまいます。その後、彼女は病院に行き、症状が治まったことで綾香を信じることを辞めてしまいました。


 私は「異変と怪異を結びつけるのが早すぎる」と感じました。書籍でもこの傾向を見かけたことがあるため一概には言えませんが、読者がキャラクターの心情変化について行けないのではないかと考えました。

(少なくとも私は、怪異と密接な関係にあった江戸時代の精神を持ち合わせておらず、また妖怪ウォッチも履修していないため、早すぎると置いてきぼりを感じてしまいます……)


 医者に行っても症状が悪化し、日に日に強まる化け物の気配……。原因を考えて思い至ったのは祠で恋のおまじないに付き合ったことだけである。杏奈が信じないキャラクターだけに、そういった過程がないと綾香に相談しないのではないかと考えました。


 ただ、これは好みや感じ方に個人差のある部分だと思います。私はキャラクターの心情変化を丁寧に書いてもらわないと理解ができないのです……。


 私好みに杏奈が怪異を信じる過程を書く。もしくは、はっきりと化け物の姿を杏奈に見せ、信じざるを得ない状況にしたとしましょう。


 そう考えてみると、今度は綾香を信じない部分で疑問が残ってしまいます。


 杏奈が綾香を非難する終盤の場面で、彼女は綾香が血のりを使ったと発言しています。これは杏奈の思い込みによる発言ですが、綾香が相談されてから血を流すまでの間に、血のりを準備する時間はありません。となると杏奈は、綾香が血のりを持ち歩く人間だと考えたことになります。彼女がこれまで綾香のどんな奇行を見てきたのかはわかりませんが、血のりを常備していると考えるのは思考が飛躍しすぎではなかろうかと感じました(もし大きな理由もなく血のりをお持ち歩きの方がいましたらすみません)。


 前述にある通り、読んでいる時には気づきませんでしたが、リライトのために改めて考えるとひっかかりを覚えます。

 

 このひっかかりを解消するため、リライト版では綾香から杏奈に声をかけてもらいました。これなら綾香は血のりを準備仕放題です。最初に杏奈が怪異や綾香を信じる必要もありません。

 

 ……ですが、この変更には、大きな問題があったのではないかと考え始めました。


 終盤の場面で発覚する「杏奈が綾香を信じていなかった事実」は、話の中で大きな衝撃を与える出来事です。オリジナル版で杏奈から相談を持ち掛けられた時に、綾香は「私を信じるかどうかはアンタに任せるけど。」と発言しています。綾香にとって杏奈から信じてもらうことは些細な事のようにも読み取れますが、少なくともこの時点では「杏奈が綾香を信じている」と考えるのが妥当でしょう。「杏奈が綾香を信じていなかった事実」は「杏奈が綾香を信じている」からこそ、大きな衝撃につながる出来事となります。リライトでは、この部分が弱くなってしまったかもしれません。


 それともうひとつ、この変更でリライトでは、杏奈というキャラクターを語る機会をなくしてしまいました。「杏奈が綾香を信じていなかった事実」は、衝撃が大きいぶん、杏奈に対する疑問や興味を生じさせるものです。オリジナル版では過去パートの最終話を三人称の杏奈視点にすることで、綾香に対する感情や、神様や見えないものへの考え方を説明しています。そうした杏奈というキャラクターを知ったうえで、読者は彼女の死を体験します。


 この過去パートの最終話について、私は「ホラー展開」に振ったからこのような書き方になったのだろうと考えていました。リライトするにも関わらず杏奈の死のパートは2回しか読んでいません。苦手な部類のホラー描写だからです……。

 臨場感を感じさせるホラー描写を書くのが力量的に難しかったのと、この話が「綾香の語り」であることを優先して、リライト版では「綾香に杏奈の死を聞き届けさせる」という展開に変更しました。

 最終的にオリジナル版より5,000文字も増やしておいてあれですが、杏奈のパートを入れると収まりが悪そうだったのも理由のひとつです。


 私は牛捨樹さんの作品で、生きたキャラクターが描かれていることを高く評価しています。ストーリーやテーマ性ももちろん高いですが、一番を決めるのならキャラクターかもしれません。主人公だけでなく、怪異にとらわれてしまった人、犠牲となる人……。そうした端々のキャラクターとも深く向き合い、表現している点が最大の特徴だと感じています。


 作品の根底にある考え方は、これまでの話の中でも見受けることができます。最近では『≒現実包囲網』編で特に感じました。杏奈というキャラクターを語ることは、牛捨樹さんの作品で重要な位置づけなのではないか、と頭を悩ませています。リライト版では、弁明する機会を奪ったまま杏奈を死に向かわせてしまいましたから……。


 思いのほか長くなってしまったので、今回はこの辺で!

 次回は、いよいよ「なぜ彼女を登場させたのか?」について語ります! (ダジャレです!)


 では次回!

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