第32話 【聖女】と噴水
「マヤ・ニアポリート……。あなたは、いつから応接室の中に……」
「もう、マヤ・ザネシアンです。最初から居ましたよ? キアラ様は、気付きませんでしたか?」
もちろん、キアラをからかうマヤの嘘である。
ゼロサレッキの空間魔法で、部屋の外からワープしてきたのだ。
生きている人間は異空間に
短距離転移でも、莫大な魔力を消費してしまうが。
「王都の時といい、あなたはどんなズルをしているのですか!?
「ズルとは人聞きの悪い。まだ力の差が、理解できないようですね」
マヤが指を打ち鳴らすと、さらに4体の
「
【
それもそのはず。
1体だけでも、勝ち目がない相手だ。
「私はこの地に、死霊の王国を築くつもりです。誰にも邪魔はさせません」
高位
【
応接室の床に手と膝を突き、
「ちょっとぉ! 最後まで、頑張るのですぅ! 頑張って、キアラをここから逃がして……」
【
項垂れていた頭が上がり、キアラの
そこに、いつもの精悍な顔は存在していなかった。
「ひっ! ひぃいいいいいっ!」
キアラは悲鳴を上げる。
【
王都の時と同じだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■
「……ハッ! ここは?」
意識を取り戻したキアラは、ガバッと身を起こした。
周囲を見渡してみれば、ウィンサウンド城の応接室ではない。
ウィンサウンド市街地にある、広場だった。
キアラは噴水前のベンチに、寝かされていたのだ。
太陽の位置は、まだ高い。
ウィンサウンド城の応接室で気を失ってから、さほど時間は経っていないようだ。
ベンチから降りたキアラは、護衛である【
その瞬間、彼女は思い出した。
応接室で、白骨と化していた【
「骸骨になったのに、動いていたのですぅ……。きっとあの【
キアラは気付いた。
周囲を行き交う通行人達が、やたらと自分をジロジロ見ている。
最初は自分が、可愛すぎるためかと思っていた。
だがどうも、視線は顔ではなく下半身に集中しているようだ。
視線を下へと向ける前に、子供の声で原因が分かった。
「ママ~。あのお姉ちゃん、お漏らししてるの~?」
スカートや下着が、べちゃりと貼り付く感覚。
【
慌てたキアラは、そのまま腰まで噴水にザブン。
お漏らしの証拠隠滅を
しかし神官服のスカートが透けてしまい、余計に恥ずかしい思いをする羽目になった。
ウィンサウンドの住民達も、同情したようだ。
1人の主婦らしき女性が歩み寄り、キアラの腰にタオルを巻いてくれる。
「どうした? 神官のお嬢ちゃん」
「何があった?」
と、皆が心配している。
その時、キアラは
ウィンサウンド住民達の注目が集まっている、今がチャンスだと。
領主の妻マヤ・ニアポリートの正体をぶちまけ、居場所を奪う絶好の機会だ。
「聞いて下さいなのです! 皆さんは、騙されているのですぅ! 辺境伯の妻マヤ・ニアポリートは、【
青ざめ、表情を引きつらせる住民達。
巻き起こる、ざわめきと悲鳴。
キアラが期待したのは、そんな反応だ。
しかし――
「知ってるけど……。いまさら何を言ってるんだい?」
住民達の反応に、キアラは
「【
キアラがマヤと【
「あ!? てめえ、ヨソモンだろ!? マヤ様のことを、悪く言うんじゃねえよ!」
「これだから、神聖教会の連中は……。死してなお戦い続ける戦士達に対する、敬意がない」
「マヤ様は、この地を守った英雄だよ。中央の価値観を、私達に押し付けるんじゃないよ!」
住民達の怒気に押され、キアラはヨロヨロと
「え……英雄? マヤ・ニアポリートが……? あの女はウィンサウンドに、死霊の王国を築こうとしているのですぅ! 辺境伯閣下はすでに殺され、
両拳を握りしめてブンブン振りながら、お漏らし【
住民達の半数は呆れて興味を失い、残りの半数は怒りのあまりキアラを黙らせようとした時だった。
「それは恐ろしい話ですね」
まだ声変わりもしていない、少年の声が響く。
人垣が割れてキアラの前に現れたのは、ピンクブロンドの髪と青い瞳を持つ美ショタ様だった。
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