第49話 少なすぎる高級コース料理
「さ、さあヘンリエールさん。こっちだよ」
「うん……」
こんばんは、ヘンリエールです。
今日は仕事終わりに同期のダニエル君とディナーを食べに来ました。
本当はもう何人か一緒に行く予定だったんだけど、何故かみんな残業だったり別の用事が入っちゃったりで二人だけで行くことに。
なんかちょっと……うーん。
「ここのお店……」
〝グランメゾン・ベローチェ〟
……めちゃめちゃ高級そうなレストランだわ。
レストランっていうか、むしろホテル……
「よ、予約していたダニエルです」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
店員さんに案内されて、エレベーターで最上階へ。
「ねえダニエル君、わたし普通のお店って聞いてたからそんなに持ち合わせが……」
「だ、大丈夫、ここは僕が出すから」
「それはさすがに悪いわよ。みんなのキャンセル料とかもあるだろうし……」
「ご予約は2名様と伺っておりましたが……」
「こ、こほん!」
「失礼いたしました」
「…………」
なるほどね、みんなグルだったってわけか。
はあ……こうなったら食べるだけ食べてさっさと解散しよう。
「こちらへどうぞ」
店員さんに案内された席は、夜景がきれいなホテルの最上階。
まあ、景色は良いけどね……ラーメン屋さんのカウンターの前でチャーハン作ってるのを見てる方が楽しいけどね。
「こちら食前酒と前菜になります」
しばらくダニエル君の話に適当に相づちをうっていたら、細長いグラスに入ったお酒と大きなお皿にちょこんと乗ったカルパッチョが運ばれてきた。
「そ、それじゃあヘンリエールさん。今夜は来てくれてありがとう……君の瞳に、乾杯」
「…………かんぱい」
これ笑っちゃだめなやつかしら?
「森羅万象の恵みに感謝を。いただきます……」
食前酒のシャンパンを口に含むと、心地よい微炭酸とマスカットの風味が口に広がる。
うん、お酒は美味しい。
「ふむ……この干し草を熟成させたような芳醇な香りと、滑らかな舌触りが……」
ダニエル君がなにか言ってるけどまあ良いや。
「カルパッチョも……うん、美味しい」
美味しいけど……量がなあ。
これじゃあ市場の試食コーナーにいるのと変わらないじゃない。
「ヘ、ヘンリエールさん、今日も美しい耳をしているね」
「は?」
お酒で気が大きくなったのか、ダニエル君が意味不明なことを言ってくる。
「そう、まさにこのカルパッチョの美しい盛り付けのように……」
「早く食べたら?」
この後も、なんか正面でうだうだ言ってるダニエル君の相手をしつつ、試食サイズのちっさい料理をひたすら食べ続けた。
―― ――
「本日はありがとうございました。こちらお会計になります」
「6万エル……カ、カードで」
「かしこまりました」
「ご馳走様、ダニエル君」
「い、いや、ヘンリエールさんに楽しんでもらえてなにより」
「次は絶対みんなで行こうね」
…………。
……………………。
水商売って大変なんだなあ。
【グランメゾン・ベローチェ/高級フルコース】
・お店:夜景が綺麗。標高が高い。
・値段:クソ高い。
・料理:美味しいけどクソ少ない。
ヘンリエール的総合評価:15点。
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