Chapter7 鈴の調べは消去され、月は地面に落下する。太陽は空に昇れるのだろうか?
Episode29 家族の分岐路
それからの
ノアと比べると、
例えば、「元気が無い、どうしたのか?」と聞くと、笑顔を見せ「なにも問題ないわ」と答える。
「いっくん。
「ハルはどうしたい? 好きなんだろう?」
ただ、ずっと傍にいてほしいと思っていた。
「そんなんじゃないよ。僕の両親から託されたんだ。妹だよ」
『妹』その言葉に傷付いたように胸が痛む。
そのまま通路の影に隠れ、完璧に気配を消した。
嫌なことを言い出す前の少し歪んだ顔をしていた。
彼は時に利己主義になる。
それは悪いことではない。
ハッキリと切るべきものを選択するが、それは周りの為であり
それが時々、
「なぁ、ハル。お前の両親との関係だって本当の事を言っているとも限らないだろ? 人体実験をさせられていたら、心の底で恨んでいたって不思議じゃないって」
壁の隅で
人体実験。
それを恨みに思うほど恵まれた環境じゃなかった。
その日に起こる事をやり過ごすしか方法が無い人間に取って、人体実験の為でも大切にされるのは嬉しい事だった。
恨んだり憎んだりするなんて考えたことも無い。
いくら
あの夜、小さな公園で
話した内容のどれを取っても、
「いっくん、
「ハルがそう思うならいんじゃね。ただ、ここまで
後ろ手を振り部屋に帰っていく。
時間が解決するのを待つしかないのだろうか?
「エルフの耳が現実世界でもあればいいのにな」
✽✽✽
鈴菜に突然連絡がとれなくなったのは、冬休みに入る終業式の日だった。
父親に外泊する旨のメッセージを、メールで送った後に姿を消したのだ
鈴菜は知人の家に遊びに行っても、外泊はしたことがない。まして、そこまで親しくしている知人は、
学校とは不思議なもので、スクールカーストの上位に居る者は、必ずしも優秀で目立つ生徒ではない。
鈴菜は一目は置かれているが、女子の中では浮いた存在なのだ。
女子グループに所属していない鈴菜が、知人の家に泊まりに行く。悪い予感しかしない。
母親の鈴子が異変を感じ、
鈴菜の母親はUbfOSを主体とした広域のネットワークにしか接続されていない。
そのためノアが鈴菜を
スマートフォンを介してインターネットにつながっているはずの、鈴菜の
また、イピトAIに紐付けられた、持ち主以外が使用した場合も救難信号が発信される。
ここまで行方がわからないとしたら、他のイピトAIに制御が移り、意図的に隠されているとしか思えなかった。
しかし、優秀な暗殺者である
また、校内のいたるところを探したが、何の手掛かりも見つけられない。
イピトAIが関わっているのなら、シアンの関与を疑うしかない。
この件に鈴菜を巻き込んだのはシアンだ。
「鈴菜が自宅に帰ってない。アンタが鈴菜を俺たちに引き合わせたろ。なんか知らねーの?」
途端に周りの同級生たちがざわつく。
学校でよそよそしい
噂が噂を呼び、三角関係が拗れただの、どちらかが浮気しただのとんでもない憶測が飛び交っていた。なんとも同情的な生ぬるい視線の餌食にる。
「……」
知っているな、と直感的に思った。
だが、口を割るつもりはないらしい。
「ていうか、なんで暗号通信のパスワード変えたの? 後ろめたいことがあるんじゃないの?」
シアンは冷めた瞳で
シアンの素の表情が出ている。
「もう一個聞いていい?
シアンは侮蔑を込めた目を向けてきた。
自分の仲間を疑っているのか、とでも言いたそうな目線だった。
シアンは拒絶の意志を見せて
だが、父親に聞いてもシアンに質問をぶつけても、納得いくような答えは返ってこない。
これまでの行動を考えると、ある一つの結論が出てしまうのだ。
物理教師の
シアンと林教授は協力関係にあり、
だが、
自分の父親が良心以外の邪悪な考えで、
そして、信じたいのだ。
両親と
万が一父親が
兄弟以上の親友だ。二人で過ごした時間は誰よりも長い。
(俺は、その時が来たら父親を切り捨てられるのか?
苦しい気持ちをぶつけるように壁を拳で殴った。
林教授は
---続く---
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