二十匹目 シーフードピザは食べづらい
熱々でチーズのとろけるピザを慎重に持って、元侯爵令嬢だなんて思えないほど大きな口を開けて食べる。そして広がる小麦の香りとトマトソースの深い旨み、油と塩気のチーズ。海鮮のむちむちもにゅもにゅな食感が楽しい。
「む゛っ!!」
でもちょっと食べづらい。少しでも傾ければはじの方のタコがピザから落下してしまう。下にお皿があるからいいけれど。あと、殻付きで乗っているアサリ。これどうしましょう。
チラリとエドアルド様の方をみると……さすが王太子殿下。ピザの食べ方をマスターしている。お上品だわ。
「どうした? 殻の皿ならそこにあるぞ」
言われた通りピザの上に乗っているアサリを殻を外して乗っけ直す。最初から身だけを乗せれば……と思うけれど文化にケチはつけないわ。特にこういう意味不明なものには。いつのまにかぺろっと一枚目は食べ終わっていた。
「エドアルド様……」
「わかった。わかった。焼くから待ってろ」
最近知ったのは、こう、上目遣いでうりゅんと見上げるとエドアルド様は弱くなる。しめしめ。なんだかピザ焼いてるところって見ていたいから私も厨房についていく。
「あのエニョアルド……エドニャルド……ニェドアルド……うぐっ」
「ップ。ハハハ」
タコを多めにして欲しかっただけなのに……。どうしてこういう時に限って噛むのかしら。もう盛り付けて窯に入れられてしまったじゃない。
「その、エドアルドは長くないか?」
「ではエド様、まだですか?」
「もう少しだ……ほら焼けたぞ、ピザ」
そうして流れるように出来上がった二枚目。ああ、よだれが垂れそう。早く食堂に戻ろうと言おうとして見上げると……愛称で呼ぶように仕向けた本人が固まっていた。いや、チーズが固まったら困るのでやめてください。
「坊ちゃん、お客様がお越しです!」
そんな固まっているエド様を押して食堂に行こうとしていた時だった。ロッソ夫人が珍しく焦った様子でそう伝える。
え、こんな時間にお客様? しかも離宮に?
「エド様、お客様ですってよ!」
「ハッ、ここは一体!? ……って客?」
今日はそんな予定はなかったはずだがとぶつぶつ呟いているエド様と一緒に玄関に向かう。そこで待っていたメイドさんに誰が来たのか聞くと……、
「は? カミッラが?」
女性名だ。どうやら訪ねてきたのは女性らしい。あれだけ私が好きなエド様に限って浮気はないと思うけれど……一体?
「とりあえず、応接間に案内してくれ」
「かしこまりました」
「ノラ、カミッラはだな」
その瞬間バンと開いたドア。赤髪黒目の胸元の開いたドレスを着た女性が怒ったような泣いているような顔で入ってきた。後ろに止めようとしているメイドさん方がひっぱっている。
……何が起こったの? え、さっきまでのどかにピザ焼いてましたのに。
「この泥棒猫っ!!」
そうしてその女性……おそらくカミッラさんは叫んだ。ドロボウネコ……ネコ……猫?
私の頭の中は、厨房に置いてきたピザと猫だった記憶が渦巻いていた。
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