第38話 -Side:白面- 不思議不明!? 今回はなんでこうなった?

 鏡に映る幼い少女の姿。

 その姿に人々は『裏闘技場コロシアムの女主人』、『荘園スラムの管理者』   

 『幼き暴君クィーン』などの名で呼んでいる。

 だけど、俺はこう呼ぶ。


 『白面フェイスレス』のルシア。


 『灰被りアッシュ・グレイ』のルシアから分かたれた魂の一つ。

 『碧水アクアライト』のルシアとは表裏一体の魂の双生児。

 そして、俺がキャラクターメイキングし作った3人目のルシア。


 しかし、なんで白面の身体に入っているのだろう?

 俺はまだ理解が追いついていない頭の中で考える。

 『道』での一件で、俺の中に白面の魂の一部が入り込んで入る。

 とは言えディストランナーズの世界にも碧水ルシアはいるのに、白面なのはなぜだ?

 考えられるのはルシアでは遂行しにくい依頼だからとかか?

 様々なことが思いついていくが、一旦、俺は姿見の前で大きく深呼吸する。

 もっとも白面ルシアの身体はクローンボディをベースに大部分を機械サイバー・ウェアへと換装されている所謂サイボーグなので、機能的には深呼吸は必要ない。

 あくまで精神の為の動作だ。


 スゥ~、ハ〜


 どこか他人のような呼吸音が聞こえてくる。

 それでも俺は少し平常心を取り戻した。

 ともかくディストランナーズの世界異世界へと来たことは間違いない。


 そこで俺は精神を少し身体からズラすイメージを思い浮かべる。

 すると俺の中に、自分ルシアを俯瞰で見るイメージが浮かぶ。

 『ブレイズ&ブレイブ煉獄』の時と同じで身体の操作をゲーム感覚で行えるらしい。

 いつもの様に俺はノートを呼び出しキャラクターシートを開く。

 キャラクターネームにはしっかりと『白面のルシア』と書かれている。

 どうやら間違ったとか、シナリオギミックではなく本当に今回は白面の身体で対応する必要があるらしい。

 そして、俺はそのままスキル欄、アイテム欄と目を通していく。

 いくら自分の作ったキャラと同じだからといって、全て同じとは限らないからだ。


(ディストランナーズはアイテムやスキルが豊富なので、間違えやすい事もあるんだけどな)


 俺はアイテム欄それを見ていると不意に声が聞こえてきた。

 慌てて周囲を見回す。

 この空間は俺がそう認識しているだけで、実在しない空間。

 そこで俺に直接語りかけられる存在なんて限られている。


(サファリナ?)


 俺はそう呼びかけるが、返ってきたのは別人の声だった


(ひっどいな〜、私のこと好き勝手してるのに他の女神ひとの名前呼ぶなんて!)

(もしかして白面か?)


 俺はその声にギクリとして、恐る恐る尋ねた瞬間た。

 すると小さな煙が現れ、そこから『白面』のルシアが姿を現した。

 外の幼女の姿ではなく、普段俺に語りかけてくる成人女性としての姿で。


 ……ただし3頭身くらいに縮んでおり、いつものドレスではなくTシャツにジーンズといったラフな格好だったが。


(お前……、なんで縮んでるんだ?)

(最初に出る疑問はそこかい!)


 思わず漏れた本音に白面がツッコむ。

 まぁ他にも気になることはいっぱいあるのだが、見た目のインパクトが強くてね……。

 ともかく俺は白面に視線を合わせて話しかけた。


(確かにそこは重要じゃないか、ともかくなんでここにいる?)


 俺の質問に白面は腕を組みつつ自慢げに胸をそらす。

 本来ならルシアより豊かな胸だけど、体型に合わせてか、かなり大人しくなっているなぁ……。


(なんか変な視線感じるんだけど?)


 ヤッベ、余計な思考が漏れ伝わったら面倒なことになりそうなので、慌てて考えを打ち消した。

 そんな俺を睨みつつ白面は(まぁ、いいわ)と話を続けた。


(いい?私の身体はほとんどサイバーウェアに換装されてるのは分かるわね?)


 白面の問いかけに俺はうなずく。


(サイバーウェアの操作には専用の支援AIを入れるのは知ってるでしょ?)

(ウェア制御デバイス『ヒトコトヌシ』だろ?)


 白面の問いかけに即答すると、彼女は満足そうに大きくうなずく。

 デフォルメ体型のためか、ひとつひとつの動作がオーバーだが、それはそれでマスコットぽく可愛らしい。

 ともかく『ヒトコトヌシ』は本来人間の器官としてあり得ない能力を有するサイバーウェアを人体の延長線として使用するために脳髄に埋め込むデバイスだ。

 そして、『ヒトコトヌシ』には疑似人格AIが組み込まれており、会話形式での制御も可能だ。


(もしかして『ヒトコトヌシ』のAIカスタム機能を利用して?)

(御名答!)

(それって魂の一部を俺に移したみたいに?)


 俺の問いかけに白面はニヤリと笑う。

 普段なら凄みがあるのだけど、やはり今は可愛さが先に立つなぁ。

 ともかく、それは後で聞けばいいので、状況確認のため話を進める。


(で、状況はどうなんだ?今回は事前情報無しで来てるんで、すでに依頼受けてるとかなら教えてくれ)

(そうねぇ……)


 その問いに対し白面は少し考えると、1枚の紙を取り出し俺にわたしてきた。

 俺はそれを受け取り目を落とす。


(これって!)

(そ、『レコードファイル』よ)


 レコードファイル

 簡単に言えば、TRPGのセッション内容をメモする用紙だ。

 手元のシートには、すでにシナリオ名が記されており改めて確認する。


電脳浄土ニルヴァーナ魔宴サバト


(こ、これって……!)


 シナリオ名を見た俺は、思わず絶句する。

 このシナリオも既知のシナリオだ。

 そして、このシナリオなら白面の中にいるのも納得だ。


 なぜなら2つの側面から事件を追う連続シナリオ。

 つまり1人のプレイヤーが2つのシナリオ、2つの視点から1つの大きな事件を追うことになるのだ。


 そして、前半のシナリオでは企業や裏組織など、事件を追うことになる。ならばルシアより白面の方が適任と言えるだろう。

 そこが今回、白面の身体へと入った理由なのかもしれないし、この後はルシアとともに人間世界の影で蠢くものと対峙していかないといけないのか……。


(はぁぁぁぁ~~)


 俺は大きなため息をついた。

 シナリオが分かった時点で覚悟したつもりだったが、やはり気が滅入る。

 今回は単純に敵を退治すればいいだけじゃない。

 サイバーパンク世界なだけに組織や個人との交渉もしていく必要があるのだ。

 普段から仕事で営業やっているからある程度は慣れているとは言え、現実の仕事から離れても人との交渉事はなんだかなぁ……。


(とりあえず、状況理解したら早く動きなさいよ)


 俺の悩みなんかは気にしていないとばかりに白面がせっつき、ついでにその小さく短い足でこめかみ辺りを蹴ってくる。


 耳元でポクポクと軽快な音が響く。


(ていっ!)


 とりあえずうっとおしいので、虫を払うように片手を振る。


ぱしっ!


(うにゃあああぁぁぁぁぁぁ!)


 たまたま振った手にあたった白面がくるくると回りながら遠くへと飛んでいった。

 俺も思わず「あっ」と言ったまま固まってしまう。

 まあ、ここは俺の精神内なので遠くまで飛んでいってしまうとかはないだろう。


 俺は自分にそう言い聞かせると、仕事を始めるため意識をもとに戻し始めた。


(わたしを、置いていく気か~~!)


 遠く小さくなっていく白面の声が空間に響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る