第25話 作戦未完? ベールを脱ぐ光

 先に動いたのは死騎士だった。

 全身鎧をまとった巨大が、その姿に似合わない素早い動きで迫ってきた。

 その右手に握る剣を振り上げる。

 体格のせいでよく分からなかったが、その剣は両手剣グレートソード程もある巨剣だ。

 その剣を安々と振り回すその筋力は、同時に恐るべき破壊力の源にもなる。

 その巨剣の一撃を振り下ろさんとした時、マハトが動く。

 愛用の盾を前方に掲げ、前へと歩み出る。

 例え盾があろうともまともに受ければ腕を折られかねない。

 その一撃を受け止めようと言うのか?

 さすがに無理だと、ルシアはけん制のため短剣を投げる。

 しかし、その短剣が届く前に巨剣が振り下ろされる。

「うおおおおおっ!」

 ダメだと俺が思った時、マハトは雄叫びをあげた。

 さらに一歩踏み込むと盾を使い、巨剣を握る死騎士の手を殴りつけた。


 盾を使い相手を殴る特技『盾打』の上位特技である『打ち返し』。

 これは敵の攻撃のカウンターとして『盾打』を行う特技だ。

 ゲーム的には相手の攻撃判定に合わせて判定をおこない、判定に勝てば攻撃を無効化し僅かだがダメージを与えられると言うものだ。

 そしてこの特技の真骨頂は、発生したダメージが1点でも相手のHPに入れば(防御力は有効)、相手の武器を次のターンまで使用不能にする『束縛』のバッドステータスを与えられることにある。

 実際に起こることは攻撃者の手を攻撃することで敵の攻撃を阻み、その際のダメージが大きければ一時的に攻撃者は手が痺れて武器を持てないのだ。


 マハトがどこまでの効果を狙ったかは分からない。

 だが、死騎士は手の動きを阻まれた事で攻撃が止められていた。

 カン、カン

 その中、ルシアが投げた短剣は死騎士に命中したが、当然のように鎧に弾かれて乾いた音を立てた。

「遊んでる場合かよ。」

 静かに、だが厳しい口調でイルバが言う。

 今回に関しては完全な自分の判断ミスなので何も言い返せない。

 俺は無言のまま、死騎士へと駆け出す。

 その横でイルバもまた無言で弓に矢をつがえた。


 ルシアが駆けていく際、マハトと死騎士は立ちつくしていた。

 マハトも手札を切った事による疲労からか動けない様だ。

 互いに手が出せない状況たが、こちらには手数がある。

 死騎士が動けないのであれば、俺たちは一気に攻めるだけだ。

 猛然と速度を上げルシアは死騎士に迫る。

 その横を音を立てて矢が飛び去る。

 敵が動かないなら小細工は不要とばかりにイルバが全力で引き絞った矢を放ったのだろう。

 その一撃は狙いを澄ました様に飛び、死騎士の左胸に突き刺さった。

 ……いや、ただの長弓であって弩弓クロスボウじゃないんだぞ?

 偉業も無しに分厚い鎧を貫通ってなんだあの威力……。

 走りながらも心の中で啞然としていると、今度は死騎士の全身が炎に包まれる。

 オイフェが『炎』の秘紋ルーンを発動させたのだ。

 秘紋術ルーンマジックは複雑な紋章や特殊な触媒が必要なため手間がかかるが、発動すれば無二の威力を誇る。

 現に死騎士は全身にまとわりつく炎を消し去ろうと身体をがむしゃらに振り回しているが、一向に消える気配はない。

 そこへ、一気に駆け寄ったルシアが長剣を振り上げる。

「神霊の加護を!」

 同時に発せられたラファの『聖別』。

 武器に神霊の力を宿し、不死や魔族など神のことわりに反するモノにのみ与えるダメージを増加させる奇跡。

 その加護により淡い光を放つ長剣をルシアは一気に振り下ろした。

 死騎士は鎧も魔的な物だったのだろうか、聖別された長剣は鎧ごと死騎士を袈裟斬りに切り裂いた。

「やったか!?」

 思わずマハトが叫ぶ。

 その前で死騎士が兜を落とし、片膝をついた。

 空いた左手で傷口を押さえつつ、それでも大地に突き立てた巨剣を支えに倒れないようにしている。

 ゆっくりと傷口から全身へと光が広がっていく。

 聖なる光は不死の者には毒と同じだ。

 光が全身に回ってしまえば、後は消滅するのみ。

 それでも俺とマハトはそれでも注意深く構え直す。

 消滅を確認するまで何が起こるか分からないからだ。


 そしてそれは起こった。

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