第24話次の歩み

四人は自由ギルド指環屋の私有地に入った。

翠卿が「お前の領域は生命の危機を感じさせるな。こんな所に客が来るのか?」

「俺のギルドは予約制だしここに来れない人は客の内に入らない。それに今日は領域レベル四だからここにいるだけで消滅しかねないし」

「最大レベルはいくつだ?」「五だよ」

ロロとホーグに衝撃が走る!

「今ここの時点で少し負荷が掛かってるのにギルドの領域はこの比ではないのよね?本当にどうかしてる」「何人消滅した?」

ナラクは二人の質問に答える。

「比べられないから取り敢えず生命維持と護りに全振りしといた方が良いよ。後、誰も消滅してないよ。そうなる前に追い出してるから」

質問した二人は信じられない!自分のギルドの本拠地をこんな領域にする必要があるのかと。

ナラクはそんな顔を見て「この程度でアホ面になっても俺の歩みは止めないよ。それにここの領域は理想には届いてない」不満を口にする。

翠卿は進んで行く。ナラクはその前を歩く。二人は頭の中を整理出来ないまま後をついて行く。

「ナラク」「何だよ師匠?」「この空間を何故このようなデザインにした?」

二人には今一番聞きたい答え。翠卿なりの二人への助け舟。

「簡単だよ。指環を創るのに必要不可欠だからこういうデザインなんだよ。指環を創れないなら一生理解出来ない。だからその質問は不粋だよ。本当に自分の学生には甘いよな」

翠卿は微かに笑いナラクの言葉を訂正する。

「私は弟子に一番甘い。学生はいつも通りだ」

「知ってるよ☆だから俺は指環屋になれた」

「ならお前も兄弟には甘いな」

「当然だろ。血の繋がりなんてものが通用しないのを学院でどれだけ観てきたか。俺達の繋がりは視えなくて深い!こんな関係翠都では俺達ぐらいだよ」

ナラクの発言に二人は大切にしてきたものを思い出す。ホーグは笑いながら「そうだったそうだった。俺達はそうだったな。この頃色々あって忘れてた。俺達の繋がりは俺達にも視えない。だが確実に存在する。思い出したら他の奴らにも会いたくなって来たな」昔を思い出し今を生きているのも思い出す。ロロは

「全く、本当にそうね。私も少し焦ってたみたい。そんなの私らしくないのにね」余裕を取り戻した。

ナラク達は立て札まで来た。ナラクは辺りをエナジーフィールドで探る。

「成程、どうやらケンカになって自分達で擦り減らして飛ばされたみたいだ」

ロロも魔力展開で探る。

「なんかどうでもいい理由っぽいわね。誰が誰に相応しいとかここで言い合う内容ではないわね」「生命力を擦り減らすと結構なりやすいから。この頃なかったから忘れてた」

ナラクは立て札に触れる。

封鎖と書かれていたのを立入禁止にした。

すると奥から言いしれないものが流れてきた!

翠卿はケタケタと笑い、二人は生命維持と護りに全振り。ナラクはギルドの領域に入って行く。まだ笑んでいる翠卿もそれに続き、二人は警戒しながら続く。

ナラクはいつも座っている椅子に触れ座る。更に翠卿とロロ、ホーグの椅子も出す。それぞれ椅子に座り二人は息をつく。翠卿は

「成程、ここはお前の中に入っているような感覚に襲われるな。但しそれを感じられるものはそうはいないだろうな」感心しきり。

「さてとロロ姉さん、本題だ。どういう指環なら良かったんだっけ?」

「いきなりね。でもその為に来た訳だし。ふむ、そうね。私をどういう魔導師だと想ってるかは聞きたいわね」

「炎術を主体としたオールラウンダーって感じかな。普通炎術に治癒術を組み込める魔導師は今の所ロロ姉さんしか知らないからね」

「それではまだ足りないわね。知ってるくせに答えないのは狡いわよ」

「その上でどんな奴と戦う為なのか奥の手って呼べる手札を隠し持ってる。俺からすればただの攻撃が切り札扱いにした方が便利だと思うけどまあこんな感じ?」

「こういう時のあんたは本当にかっこいいわよね。今からでも遅くないわよ。私を抱きなさい!」

「何でそうなるんだよ?とにかく何に力を入れたいんだよ?」

「そうね、まずはそっちを片付けないと私を抱く気にならないのね。いいわ私の望みはバリエーションよ」

「それってさっき俺に撃った炎術を色んな使い方をしたいで良いんだよね?」

「本当にそういうのには頭が回るわよね」

「それでどうすんの?」

ナラクの問いにロロは考え込む。

そこにホーグがナラクに「俺用の指環は無いのか?」「ホーグ兄さん用?ちょっと調べさせて」

ナラクは指環を使いホーグを調べる。結果。

「ホーグ兄さんにはやっぱり指環は使えないから諦めて地道に頑張って」「何で俺は使えない?」

ナラクは首を傾げ「どうにもならないものをどうにかすると最悪の結果しか残らないうえに自滅行為だからマジで諦めて」この世の理を説く。

流石のホーグもナラクの本気度が伝わった!何も言えなくなったホーグに一つだけ朗報。

「でもホーグ兄さんは運が良いよ。このタイミングで俺のギルドにいるんだから」

「それはどういう意味だ?」

ナラクはわざと「ロロ姉さん決まった?」ロロの考えを訊く。

「そうね。決まったわ」そう言ってヴィジョンをナラクに見せる。それを視たナラクは大笑!

「うっわ!ロロ姉さんらしくて面白い!良しこれを組み込んだ指環か。ふざけた指環が創れそうだ。うし!始めるか!」

立ち上がったナラクはこのギルドにのみある円釜の出入り口の前に立った。

「さてとまずこれを片付けないとな」

ナラクの言葉に反応した円釜が安価品を出現させ宙に浮く。それに驚いたのはホーグ。

「まだ処分してなかったのか。しかも大切に扱ってるようにしか視えないぞ」

「そりゃあエネルギーに変えるんだからそういう風に扱うでしょ」

「何を言ってる?」「まあ視てな」

ナラクは両手で包むようにエナジーを送る。安価品はそれに反応し光り始める。ナラクは指環のエネルギーを円釜に送って行く。光り続けた指環は次第に崩れて行き、指環は無くなったが光の環が残る。ナラクはそれを右手で握り潰す!右手を開くと光の砂になったものたちは円釜の中に吸収された!

するとギルドの全領域が大地震。急展開にホーグだけがついて行けない。翠卿は笑み、ロロは興奮し、ナラクはひたすら制御!

大地はうねるのだがひび一つ出ない。

ナラクは両手を合わせ領域そのものに干渉し深く深くエネルギーを浸透させると領域の大地は震えるのを止め光り輝いた!

ナラクはすぐにロロとホーグにエナジーフィールドを展開!

光が収まるとナラクは円釜のヴィジョンを出現させ確認する。

「よっしゃーー!キターーー!!」

ナラクは右拳をショートアッパー気味のガッツポーズ!

その喜びようにロロとホーグは目が点。だが翠卿は違った!

「クククククク、ハッハッハッハ!。やりやがったなお前。これ程のもので創る指環、本当にお前は最高の弟子だ!」

翠卿のはしゃぎっぷりに二人はついて行けていない。ただ一つナラクのエナジーフィールドの外に出るのが自殺行為だと自身の経験が警告して来る!ここでようやくロロは訊ける状態に。

「ナラク何が起きているのか説明してくれない?」「説明?ああそうか二人には必要か」

ナラクは円釜の出入り口から離れずに続ける。

「この領域のレベルが六になった!」

ピースサイン!

ロロは記憶していたものを引っ張り出す。

「この領域に入る前は最大レベルは五だって言ってなかった?」

ナラクはやれやれのポーズ。

「それは安価品を吸収しそのエネルギーを完全にエーテル化させたのを全て領域に注ぎ込んだ結果、レベル六になったんだよ。本当にマジで最高!」またピースサイン。

「ああそうそう、まだそのエナジーフィールドから出ないようにね。今この領域は流石の二人でもそこから出たら消滅しかねないから、だから立たないで」

またまたピースサイン。ロロは

「待ちなさい!それだと私が動けないわよね?ここにずっと座ってろとでも言うつもり?」

ついて行けない腹立たしさに八つ当たり。

「大丈夫だよ。その為にデザインとシステムはもう創り終わってる。後は機能させるだけだからまあ視てなよ」

ナラクはエーテル制御を始めた!

それを視たロロやホーグだけでなく翠卿も驚きを隠せない!それらを気にせずもう既に動き始めている機能を確認しながら今出来る全てを組み込んだ円釜に再構築。するとナラクにエーテルが流れ込む!

それにロロとホーグは立ち上がろうとすると上から圧が掛かって動けない。翠卿の仕業。

「黙って視ていろ。私の唯一の弟子が自滅などと言う不様はせん」

ナラクは自分の魔力と通わせ自身も再構築する!それはほんの三秒で終わった。そして一呼吸。ナラクは全身のエネルギーを確かめる。

「良し!無事修了」

円釜に指示を送ると領域のレベルが三まで落ちる。そして二人に展開したエナジーフィールドを消す。それを感じ取った二人は立ち上がりナラクに詰め寄った。

「ナラク何でエーテルなんて扱ってるの?危ないでは済まされないのよ」

「そうだ。魔導師にとってエーテルは猛毒と変わらないんだぞ、知ってるだろ?」

二人の剣幕を「そう言われても指環を創る時いつもエーテルを使ってるから問題無いよ」サラッと流した。そこでナラクは本題に移る。

「それよりロロ姉さんの指環を完成させないと。だから詰め寄るのは終わりで」

ロロは自分の指環が気に掛かって詰め寄るのを止めるがホーグは確かめる。

「お前いつからエーテルを使うようになった?それを教えてくれれば引き下がる」

「八になってからかな。指環を創るのに必須だと知っちゃったからね」

二人には心当たりがあった。その頃から二年程やつれているように見えていたから。問い質そうとするといつも翠卿が止めに入ったのも。まさか原因がエーテルだとは気付かなかった。

「それよりさロロ姉さんの指環を創らせてよ。再構築した円釜を早く使いたくてウズウズしてるからさ」

ホーグは思い知らされる。エーテルを使えるようになるのにどれだけの苦行を潜って来たのか

想像するだけで恐ろしいのにそれをやり遂げたからこその今のナラクの実力。それで弱い訳がない!

「ああ好きにしろ」

「なら少し距離を取ってもらっていい?念の為に護りも全振りにして。そうでないと円釜に呑み込まれる可能性があるから」

「指環を創るのにもさっきと同じく削られるのか?」「エナジーフィールド、機能しなかった?」「してたから今こうして俺達二人は生きてる」

ナラクはちょっとした疑問が浮かぶ。

「ロロ姉さんとホーグ兄さん、実力が上がった感触はない?」

二人は自分の力を探る。

二人は驚愕!!

「何これ!?明らかに駆使出来る魔力レベルが上がってるわよ」

「俺の騎装の性能も数段上だ。どうなってる?」

「それが領域レベルが六になって発生した余波で得られた経験値だよ。因みに指環を創る時も得られるよ。その代わり識騎士程度の強さがないと俺がどれだけ護っても消滅する。だから今からする指環創りも耐えられれば経験値が得られるよ」ロロは当然の疑問。

「ナラクにもその経験値は入るの?」

「姉さん達より入るよ。俺がソロで戦って二人はそれに付いてきてるだけだから」

二人は色々納得がいった。指環を創る度にこれ以上の経験値が手に入るというならナラクが強いのにも頷ける。何よりたまに同じ翠卿クラスの同世代がいきなり強くなった理由は間違い無くこれの影響!

「良いわ。さっさとやんなさい。私達は全力で護るから」

ナラクは気分良く円釜の出入り口に光の柱を発生させてから紅に染まった珠を出現させる。それを円を描くように超速回転。五秒で手首サイズの環になり、更に十秒で指環になり更に十五秒で深紅の指環に!

三十秒掛けて指環の力を安定させると輝く!

輝き終わるとナラクは光の柱から指環を右手で取り出す。

「良し!はい、これがロロ姉さんの指環だよ。自分が魔力を一番使う指にはめて」

ナラクはそう言って指環をロロに渡す。

自然と右中指にはめるとぴったり。

力が湧き上がるこの感覚にロロは興奮!

「ナラク!あんたで試し撃ちさせなさい!」

ナラクは距離を取り右手で挑発。もう手慣れている。ロロは〈バーンフレア〉を三連射!!

第一闘技場で放ったものとは数段上。それを三連射。普通に考えればそこには焦げ跡しか残らないだろう。だが爆炎が燃え上がっている所からロロの首筋を掠める一撃、当たれば死が確定。そんな一撃を放ったナラクは爆炎の中から何でもなかったかのように出て来た!

「あんたは私の自信を簡単に崩すわね」

爆炎をかき消すロロ。このやり取りについて行けないホーグ。ナラクは

「戦い方の一つとして面白いでしょ」笑む。

そこに翠卿。

「今の一撃はエナジーマグナムだな?」

「そうだよ。一番狙った所に撃てるのがエナジーマグナムだからね」

「学院でも同意出来る者は一人もいないだろうな。全く、エナジーの最高峰とされる三つのエナジーを使えるのは私が知る限り今現在お前しかいない。その自覚が無いだろ?」

「その自覚は必要かな?」「無いな」

二人は爆笑!

この会話にロロは「先生!今の本当ですか?」

睨む。先生は

「本当だ。ナラクは十の時にはモノにしていたぞ」軽々と答える。そこにナラク。

「エナジーセイバー、エナジーマグナム、最難関のエナジーフィールドこの三つは指環を創る基礎になるから一つでも欠ければ指環は創れない。だから指環創りをしているから強いんじゃない」ロロは「成程ね」しっくり来た。

だがここでホーグ。

「どこが成程ね何だ?どう考えてもナラクの異常さが際立っただけだろ」「それで充分でしょ。あんたは何が不服なのよ?」「何で俺の指環は無いんだ!?」

ナラクは言わないといけないホーグの精神の弱さにウンザリ。

「相当な経験値が手に入ったんだからそれで満足してよ」「出来るか!」

ナラクはヤレヤレ。

「ホーグ兄さんには適性と才能が無い。だから創れないんだよ」

「それをどうにかするのがお前の役目だろ」

「何が不満なの?俺には子供が駄々をこねてるようにしか見えないよ」

「何でロロにはあるのに俺に無いんだ?」

「言っとくけど仮にホーグ兄さんの指環を創れたとしてもロロ姉さんとの差は余計につくよ」

ホーグだけでなくロロも疑問でしかない。ロロは「それ、どういう意味なのよ?」頭の整理をしたくてたまらない。

「簡単だよ。指環ははめてからがスタートでそこから組み上げて行かないといけない。ロロ姉さんはそれが出来るよ。だけどホーグ兄さんは耀騎士の本当の奥の手、耀装が使えない時点で指環は手に余る」

「そこで何で耀装が出て来る?」

「だから察してよ。それでも聞きたいなら答えるけど」「答えろ!」

仕方ない兄さんだと思いながらナラクは過去を思い出す。

「前にさ…耀騎士に指環を創った経験があるんだけどその人は指環の力を使って耀装を使えるように組んで行って自滅したんだ」

「は?」余りにもマヌケ丸出しなホーグ。

「最初にさ、指環の力を使っても耀装は使えるようになりませんよって言ったんだよ。なのにそれをして自滅した」

「どうしてだ?」

「調べてみたら耀装と指環との相性が最悪でさ。だからそれ以降騎士に指環を創る時はちゃんと伝えた上でそれでも必要だって言う騎士には創ってる」

「自滅した騎士はどうなった?」

「雑貨屋の従業員やってるよ」

「騎士の力を失ったのか?」「そう」

ホーグはうなだれる。

「大丈夫だよ。ホーグ兄さんなら耀装を扱えるようになるから」「その根拠は?」

「師匠が耀装を扱えない騎士を自分のクラスに入れないよ」

ホーグは先生を見ると翠卿として頷く。

「地道にやって行けば良いんだな?」

「それしか道はないよ」

「なら帰る。いつまでもこんな危ない領域にいられないからな。それでは先生さようなら」

翠卿に頭を下げ、領域から出て行く姿は迷いが無くなっていた。

「なら私も宿に帰るわね。もうしばらくは翠都にいるしね。それでは先生また」

ロロも頭を下げ出て行った。

「それで師匠は結局何を確かめに来たんだ?」

「お前の今の実力をな」

「見え透いた嘘はやめてくれよ。そんなもんはもう確かめられただろうしここまで来る理由にはならない」

「やはりお前には通用しないか。ほら」

翠卿は右手でポケットから取り出した物をナラクの右手に転移。

何かの加工済みの爪。

「もしかしてここを狙ってるのがいるのかよ師匠?」師匠はただナラクを視る。

ナラクは爪を魔力展開で調べる。それで何の為の代物か発覚。

「師匠は本当に俺に甘いよな。有り難く貰うよ」

ナラクは円釜の出入り口にその爪を入れると領域全体の強度が増した。

「これであれが来てもこの領域が崩壊しなくなったよ、ありがとな師匠」

師匠はやっと立ち上がり

「お前を手に入れたいものはもうそんなにはいないだろうが念の為だ」領域の出入り口に歩を進める。

そこにナラク。

「学院に戻るんだよな?なら家のドア使いなよ」

翠卿は振り向いて

「大丈夫なのか?」この領域とナラクの心配。

「安心しなよ。あのドアはこの領域で一番どうかしてるから」

「ならその言葉に甘えるか」

翠卿はギルドハウスのドアを開けて入って行く。

行く先は翠卿の間!

「クククククク、確かにどうかしてるな。ここに繋げられるゲートなど無いと思っていたがあったな」

ナラクを弟子にして心の底良かったと思わずにはいられない翠卿だった。










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