第11話取材報告
応接室に戻ったナラクに
「どうでしたか?」ポトアは尋ねる。
実は武神と戦神を見て回ってから傭神の区画に入ってブレイズの面々と会った。そこで運良くウトを見れた。
「優勝候補最有力者に会えたよ。あれなら傭神から戦神になるのも時間の問題だな」
「なら指環を身に着けられますか?」
「無理だった。実力があれば身に着けられるなら指環はもっと色んな人が身に着けてるよ」
「それは少し残念ですね。養成所では首席だったんですよ」
「これからどういう道を行くかで仕上がりは違ってくるんだろうけど、あれがどうなるか興味が湧かないから正直どうでもいい」
ナラクはそれよりキネルの方が気になった。
「昼飯食べるのは良いですけど俺を見ながらはやめてくれません?」
キネルはパンにバターを塗りながらずっと食べ続けていたがナラクの願いを聞いた。
パンを手放さずに
「それで出来そうなギルドはあったか?俺も大体観たから情報の共有といこうぜ」要求。
こういう人なのを知っているナラクはさっきまで座っていたソファーに体重を預ける。一呼吸してから感想を言い始める。
「キネルさんの言う通りでしたよ。ギルドエアロルが三つ全て獲る可能性はありましたよ。あそこまで鍛え上げるのはグレード3では当たり前なんですか?」
キネルは記憶を巡らす。
「エアロルが特別だろうな。バルカっていうギルドマスターが中々の手腕でな。そこのエースを上級荒神にまで押し上げたのは間違いなくあの女だからこそだな」
「でも本人は上級武神なのは?視た感じ中級荒神ぐらいには行けるのに行かないのはデンガとの差をあまりつけないためですかね?」
「デンガってお前が今回指環を創ったギルドのマスターだよなぁ?」
「ギルドブレイズですよ。そのギルドマスターとギルドエアロルのギルドマスターが付き合いが長そうなんですよ」
バルカの姿を思い出す。
「エアロルのギルドマスターがデンガに惚れてそうなんです」「マジか?」「マジです」
キネルは持っていたパンを口にねじ込んで飲み込んですぐ
「ムナ、喋るなよ」釘を差す。
今まで気配を殺してるつもりだった今日の司会者は三人に対して意味が無いのに気付かされる。ムナはノートを四つのソファーの中央に置かれているテーブルに置いてから
「私ってそんなに信用されてないんですか?」
首を傾げる。ポトアもソファーに座って切り出す。
「可愛く言ったら何でも許される訳ではないんですよ。人生を左右しかねない時もあるんです。もし言おうとしたらナラクさんにあなたの人生を台無しにしてもらいますから」
「ん?いいのか?人として生きていけなくしても?」ポトアだけでなくキネルも頷く。この条件にナラクは笑う。
「ムナだっけ?言って良いぞ。久し振りに人を奴隷以下にするのも悪くない。くく、いいね。どんな感じにすると皆に喜ばれるかな?二人共、何か良いアイデアないか?それとも本人のリクエストに応える方が良いかな?」
ナラクは本気でムナを見る。虐げても問題が無いというのであればこんなに都合の良い相手はいない!それを明確に感じ取ったムナは恐怖恐怖恐怖!
「勘弁して下さい!この人なら本当に出来るんですよね?この件には全く触れないと誓います。だからその目で私を見ないで下さい!」
ムナは立ち上がり
「本当にお願いします!」頭を思い切り下げる二人は仕方ないとナラクに告げる。キネルから
「悪いな、今日はお楽しみがないらしい」次にポトアは
「ちょっと残念でしたね、どう人生が終わるのか観たかった気もしましたがしょうがないですね」ナラクの力が観れなくて残念がる。
だがナラクは違った。
「いつでも気が変わったら言って良いですよ。間違いなく人未満になりたくなったら是非!確実にやめられるので!」
ナラクの口元が爽やかに歪む。
ムナは絶対に言わない、魂に誓って言わない。やっと司会者としてやっていけるようになった今を投げ捨てるつもりは無い、固く固く誓う!
そんな必死さが顔に出ているムナを見て二人は大丈夫そうだと安心。ナラクは残念そうだが気持ちを切り替える。
「それでもエアロルは三つ共獲れないでしょうね、武神と戦神は獲れるでしょうけど」
三人は何でそんなすぐ切り替えられるのか?ポトアとキネルの中から出て来る理由はこれがナラクだから。ムナは混乱。それに気付いたナラクは
「どうしました?今にも死にそうなほど追い詰められてるけど、何か問題でもありました?」
本当に心配する。
ムナは思い出した。上司に言われていた。ナラクにお前の常識は通用しないから、刺激しないようにするだけで良い。もししてしまったらどうなるかはお前の魂に取り返しのつかない痕を刻みつけられると。両手の平をヒラヒラさせてから
「大丈夫です。世の中にはこういう人もいる。それを知れただけで充分です」愛想笑い。そこにキネル。
「安心しろ。もし人を辞めさせようとする奴が出て来たらナラクに言えば救けてくれるぞ」
ムナは、えっウソ、という驚きを隠さない。そこにポトアは
「そうですね。私も救けられた側ですからそこは自信を持って言えます」激賞!
ムナはナラクを見つめる。ナラクは首を傾げ
「俺は自由ギルド指環屋のギルドマスターやってるんだから当然だな」断言。ムナは慌てる。
「待って下さい!さっきのやり取りにどこが人を救ける要素があるんですか?明らかにやば過ぎな人でしょ、この人!」その場に立ち上がって抗議!
「それにしても神の位って人気があるんですね。別にならなくても良いのになりたい奴が次々に出てくるんだから人材には困らなさそうですよね」ナラクはムナを無視して更に
「正直、金を稼ぎたいだけなら他にも方法はあるのにそれに気付かないんだよな、何故か」
神の位をいじる。それにキネルが反応。
「例えば何だ?」ナラクはポトアの方を見て
「騎士のマネージャーとか他にはコイン商とかも結構儲かりますよ」例を挙げる。
ポトアに異論は無いのだが
「確かに騎士のマネージャーは儲かりますよ。でも綱渡りが上手く出来る人にしかオススメは出来ませんね」難しさを吐露。
ムナは副業をするつもりは無いのだが興味深くはある。なのでコイン商にも興味が出て来た。何よりあのやば過ぎな指環屋が例として挙げるのであればそれ相応の旨味を感じたので世の中の勉強として訊く。
「ならコイン商はどうなんですか?」
「ああ止めとけ、あれはナラクみたいな奴でなければやって行けねぇからな」
キネルは即答!ポトアも頷く。そう言われると気になって仕方ないムナは二人に向かって問う。二人はナラクを見て、互いに見てポトアが問い返す。
「あなたは魔導師ですよね?」「はい」「ランクは?」「Cランクです」「なら駄目ですね」
「どうして駄目なんですか?」「ナラクの言うコイン商のコインは魔導品です」「どこに問題が?」「コインに精神を乗っ取られますよ」
「え〜~~~!それ本当ですか!?何でそんな危ない仕事を例に挙げるんですか?」
ムナはナラクに抗議!ナラクは涼しい顔で
「適応出来れば本当に儲かるからだよ」更に
「コイン商はコインとの対話が必須で蔑ろに扱えば咬みつかれるけどDランクでコイン商やってる人もいるしな」特例を挙げた。
魔導師は一番下がFランクから始まり一番上がSランク。Dランクは一人前。Cランクは玄人。ナラクはBランク止まり、但し齢十になってから更新をしていない。
納得の行かないムナにキネルが説く。
「ナラクにとって稼ぎやすいんであって他の魔導師にはオススメ出来ねぇな」
頭を抱えるムナにナラクは質問。
「それで何時から本戦は始まるんだ?」
ムナは気を取り直して懐中時計を取り出して確認。
「もうこんな時間、実況席に行きますよ」
何かもうヤケクソ気味のムナ。その様を見て三人共笑い、ムナと共に応接室を後にした。
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