5
剣だった。
赤い刃が
「日緋色金の剣だ」
おお、と一同がどよめく。喜三郎も弥二郎も目を広げて赤い刃に視線を注いでいる。
小太郎は刃を
「せっかくあの
もうちょっと歓迎してくれてもいいと思うけどなァと男は
弥二郎が小太郎の右耳に
「誰だこいつ」
「おいらも知らない」
「おいおい冷たいじゃねえかよ」
男が
「カイナ神社で名前はすでに名乗ったはずだぜ。俺の名前はイカリだってな。そして――」
おまえに天下を齎す男だとも、とイカリは言った。
「怪しい奴だな」
喜三郎が顎を撫でながら疑った。
弥二郎も切れ長の目をさらに薄めて問い詰める。
「信じてほしいと思うなら、信じられるだけの
しょうがねえなァと面倒くさそうにカイナは言った。そして、
「小太郎」
と呼んだ。なんだと小太郎は答える。
「今から俺の言う通りにしてみろ」
「どういうことだよ」
「良いから良いから。何も獲って食いやしねえよ。今ここでできることだし時もかからねえ。だから心配すんなって」
小太郎は横目に弥二郎を見た。弥二郎は小さく
ここでできるならいいだろうと小太郎も思った。弥二郎もいるし喜三郎もいる。邑人たちだっている。奇襲を仕掛けられても避けられるくらいの距離もある。
小太郎は答えた。
「なんだよ。言ってみろよ」
いい乗りだねえその調子だとイカリは言う。
「じゃあ、まずは手を横に伸ばしてみな。片手でいい」
言われた通り、小太郎は右手をまっすぐに横へ伸ばした。剣は弥二郎に
「おっと、後ろを向いたほうがいいな。それから邑人の方々もちょっと横へどいてくんな。正面にいたら痛い目に遭うぜ」
しかし邑人たちはすぐには従わなかった。イカリに疑いの目を向けている。
小太郎は言われたとおりイカリに背中を向け、邑人たちに言った。
「みんな、悪いけど今は従ってくれないか」
小太郎が言ったからか、邑人たちは左右に割れた。背後は喜三郎と弥二郎が固めてくれているから、万が一イカリがおかしな行動をとった場合の心配はいらない。
「それでどうしろってんだい」
小太郎は背後に問うた。腕は伸ばしたままだ。
「風を感じろ」
「どういう意味だ、それは」
「風の熱、向き、強さ。それらを頭の中に思い描くさ。やってみりゃわかる」
目を閉じた。
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