剣だった。

 さやを握り、柄を引き抜く。

 赤い刃がのぞいた。


「日緋色金の剣だ」


 おお、と一同がどよめく。喜三郎も弥二郎も目を広げて赤い刃に視線を注いでいる。

 小太郎は刃をさやおさめた。

「せっかくあの千代包ちよかねとかいうおっさんが落としていったのによ、おまえが拾いもせずに帰っちまうから届けに来たんだぜ」

 もうちょっと歓迎してくれてもいいと思うけどなァと男はおどける。

 弥二郎が小太郎の右耳にささいた。

「誰だこいつ」

「おいらも知らない」

「おいおい冷たいじゃねえかよ」

 男がすがるように手を伸ばす。

「カイナ神社で名前はすでに名乗ったはずだぜ。俺の名前はイカリだってな。そして――」

 おまえに天下を齎す男だとも、とイカリは言った。

「怪しい奴だな」

 喜三郎が顎を撫でながら疑った。

 弥二郎も切れ長の目をさらに薄めて問い詰める。

「信じてほしいと思うなら、信じられるだけのあかしを見せてみろ」

 しょうがねえなァと面倒くさそうにカイナは言った。そして、

「小太郎」

 と呼んだ。なんだと小太郎は答える。

「今から俺の言う通りにしてみろ」

「どういうことだよ」

「良いから良いから。何も獲って食いやしねえよ。今ここでできることだし時もかからねえ。だから心配すんなって」

 小太郎は横目に弥二郎を見た。弥二郎は小さくうなずいた。

 ここでできるならいいだろうと小太郎も思った。弥二郎もいるし喜三郎もいる。邑人たちだっている。奇襲を仕掛けられても避けられるくらいの距離もある。

 小太郎は答えた。

「なんだよ。言ってみろよ」

 いい乗りだねえその調子だとイカリは言う。

「じゃあ、まずは手を横に伸ばしてみな。片手でいい」

 言われた通り、小太郎は右手をまっすぐに横へ伸ばした。剣は弥二郎にあずけた。

「おっと、後ろを向いたほうがいいな。それから邑人の方々もちょっと横へどいてくんな。正面にいたら痛い目に遭うぜ」

 しかし邑人たちはすぐには従わなかった。イカリに疑いの目を向けている。

 小太郎は言われたとおりイカリに背中を向け、邑人たちに言った。

「みんな、悪いけど今は従ってくれないか」

 小太郎が言ったからか、邑人たちは左右に割れた。背後は喜三郎と弥二郎が固めてくれているから、万が一イカリがおかしな行動をとった場合の心配はいらない。

「それでどうしろってんだい」

 小太郎は背後に問うた。腕は伸ばしたままだ。

「風を感じろ」

「どういう意味だ、それは」

「風の熱、向き、強さ。それらを頭の中に思い描くさ。やってみりゃわかる」

 目を閉じた。

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