2
「それは違うぜ雛若さま。戦ったのは全員だ。雛若さまだって先頭に立って矢を放っただろ。それに何より、俺を庇ったせいで雛若さまはこんな目に」
最後まで言葉にすることはできなかった。込み上げてくる感情を噛み殺さなければならなかったからだ。だが、噛み殺した感情は収まらなかった。口の中で拡散して鼻と目に至った。
鼻の奥がつんと痛み、目の裏が熱くなる。直後、視界が滲んだ。
小太郎は腕で目を
「なに言ってんだい」
雛若が鼻を鳴らした。まだ声は
小太郎が握っていた雛若の手に、力がこもった。雛若が手を引く。小太郎は手を離した。
「あんたがいなかったら、私だけじゃなくてみんなやられてたかもしれないんだ。もっと胸を張りな」
引いた手が、小太郎の頭を
「だからさ、あんたしかいないんだよ」
下を向いた小太郎の
「いないって、何がだよ」
決まってんじゃないかと雛若は言った。
「次の邑長だよ」
「え?」
どよめきが広がった。雛若は続ける。
「勇気があって正直で、ちょっと頭は足りないところがあるけど、いつだって何にだって全力でぶつかっていく。何より天下無双の怪力の持ち主だ。そんなあんたを置いてほかに邑長にふさわしい奴がいるかい」
「待ってくれよ雛若さま。誰よりも邑長に
「私はねェ」
もう駄目さと雛若は息を吐くように言った。
「そんなことねえよ」
「あれを」
小太郎の顔から視線を外して、雛若は言った。
それに反応したのは従者だった。
「は」
従者は一礼して部屋を出ると、大きめの四角い板を持って戻ってきた。板は従者の
従者は群がる邑人たちの合間を縫うように歩いてくる。邑人たちは自然と従者に道を開ける。
従者は小太郎の脇で立ち止まった。
膝を突く。
板を床に置く。
小太郎は従者に体の正面を向けた。
「これは?」
尋ねる。従者は答えず、板に掛けられていた布を取り払った。
布の下から出てきたのは――。
赤い袖なしの
「みんなを頼んだよ」
雛若が言った。
振り向く。
雛若は目を閉じていた。
「雛若さま」
呼んだ。
返事がない。
「雛若さま」
さっきより大きな声で呼びかけた。
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