第3話「特別授業」

 特別授業は体育館「氷の伽藍」の片隅で行われた。


ガリソンは黒板を背に授業をしている。


「戦いは先ず相手の魔導を封じる事。


お前らに毎朝歌わせているのが


ただの讃美歌だとでも思っていたか?


あれは全部、魔導を封じる呪言だよ。


教典なしで歌えるか?」


「はい!先生!」


ルカが挙手。真剣そのものだ。


つい特別授業であることを忘れる。


ガリソンは片目をつぶってお小言。


「ルカ、先生はミハルとククルに授業している。


お前には復習して欲しいのだよ。」


ルカがしゅんとなったのを見て、


ガリソンはコホンと空咳をした。


「大丈夫、ルカ。あなたは本当に覚えが早いよ。


今度は周囲に目を配れる様になってくれるね。」


いつになく穏やかに励ますと、授業を続ける。


 「毎朝の讃美歌は魔導を封じる歌。


戦いの初手は相手の魔導を封じる事。でもね、


魔導封じのやり取りは研究しつくされてしまった。


それでも魔導を封じられる場合はある。


備えてこそ一人前の魔導士。俺は拳と蹴りだ。」


3人の子供たちは真剣に聞き入っている。


「さて実践だ。いいかな?」


ガリソンはいつになく真剣。


地下の訓練場で、ミットを持ち


2人の少女の蹴りや拳を軽々と受ける。


そしてククルに視線をやって呼びかけた。


「ククル、お前は避けることを覚えろ。


防ぐことよりも、今は避けることだ。


いいな。二人の動き、俺の動き、よく見ておけ」



 ガリソンのトレーニングは1時間程で終わった。


話を続ける教師ガリソン。


「さてルカ、ミハル、ククル。


魔導のミルクは最高においしくなるのだよ。


一汗かいたこんな時にね。」


3人の教え子は美味しさに驚嘆する。


ガリソンは座学を再開した。


「指南書の2。


攻撃と防御の魔導の違いについて確認しよう。


例えは悪いがね。誰かを殴るとする。


その『勢い』は自分から相手へ向かうだろ。


けれどお腹を殴られる時は手で守る。


勢いが外へ向くか、内へ向くか。


それは距離の差となって現れる。


これを『攻と守』と呼ぶ。」



 目を輝かせる3人の教え子たち。


ガリソンは頭をポリポリ掻いて言った。


「最後に大事な事を教える。


指南書に載っていない、とっておきの教えだ。」


期待が頂点に向かう三人の子供。


「魔導の目的はな、幸せになることだ。」


ガリソンの教えに拍子抜けした三人。


しかしルカは抗議する。


「私は今、十分幸せです。


ミハル達と一緒に先生の授業を受けてるから!」


赤面するミハル。ククルは理解していない。


ガリソンは思わず照れ笑いをして呟く。


「おいおい。修業が進むとね、


どうしても見失いがちなんだけどな。」


ガリソンの特別授業は夕暮れまで続いた。

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