第8話
3階に着いた。そして僕たちはすぐさまこの階のボスがいる場所を探す。しかし3階層目はまたもやスケルトンが僕たちの前に立ちはだかる。
『うおおおお!!』
と、叫びながら突進してきた威勢いい姿も虚しく、ナーシンに粉々に切り刻まれた。
続いて新キャラ、オーガの登場。こん棒のようなものを振り回しながら巨体で突進してくる。
『うがああああ!!』
しかし足がとろいのでナーシンにすぐさま背後を取られバラバラにされてしまった。
更に続いてゴーレム群れがナーシンに突進してくる。
『ゴゴゴゴ!!』
しかしまたもや……もうなんか説明も面倒くさいのでお察しの通りである。
とにかくこの3階には雑魚モンスターとは言えど粒ぞろいを盛りだくさんに用意したはずなのだがことごとく瞬殺されてしまう。
こんな光景を見たくてこんなに敵を設置した訳では無いのでナーシンが清々しい程に木っ端微塵にしていく様を正直喜べない自分がいる。
3階まで来てまさかこんな猛威を振るわれるとは……3階はまだまだ改善の余地がありそうだな……ぐぬぬ……。
あらかた敵を倒し終え、しかし一汗もかいていないナーシンを見て悔しそうに親指を咥える僕の元へ彼は戻ってくる。
「どうしたんだイミリア?なんだか不服そうに見えるのだが……」
「え!?いや!?全然そんなことないよ!?それより早く3階のボスを探そう!なんかあっちな気がするな~!」
最初から場所を把握してる僕は誤魔化すためにボス部屋へ続く道の角を曲がろうとする。
「イミリア待て、1人で行くと危ない……」
ナーシンの心配は見事的中し僕はバッタリと徘徊中のリザードマンに出くわす。
あ、やべ……。
『うおおおおお!!』
リザードマンは鋭利な爪で僕の服を引っ掴み噛み付こうとする。が、リザードマンは僕の喉元を噛みつかんとするすんでのところで動かなくなる。そしてリザードマンの首がポロリと落ちるた。僕はすぐさまナーシンが目にも止まらぬ速さの斬撃で首を切り落としたのだと気づく。
「大丈夫か!?」
すぐさまナーシンは僕の肩をつかみ、確認するように僕の体を見渡す。
「怪我は無いみたいだな……良かった」
ナーシンはホッとした様子だ。いつもキリッとした眉毛が安心して少し八の字になっているのがとても愛らしく感じた。
「ごめん……心配させてしまって……」
「謝る必要は無い。イミリアが大丈夫ならそれでいいんだ。だが1人では危ないから俺と手を繋いで歩こう」
ナーシンは僕の前に手を差し出してくる。
「あ、ありがとう」
僕は躊躇うことなく手をとる。
うわー、ナーシンとの手ってグローブの上からでも分かるくらいごつくて男らしくて大きくて何より暖かい。おじさん頬ずりしちゃいたいなー。いかんいかん、そんなことしたら流石の僕でも少しばかり引かれてしまうかもしれない。しかしナーシンはなんでここまで素性もしれない僕に優しく尽くしてくれるのだろう?自分の国の大事な国民だと思っているから?いや、僕のことを旅の踊り子だと言い始めたのはナーシンだしな……
「ナーシン、ちょっと質問してもいいかな?」
僕の手を引いて前を歩くナーシンに疑問をぶつけてみることにした。
「どうした?」
「なんでこんなに献身的に守ってくれるんだい?知っての通り、僕は旅の踊り子(という設定)で君の国の国民でもないのに……」
そもそもここの塔のラスボスだから君に淘汰される奴だし。
するとナーシンはピタリと止まり、僕の方を見る。
「それは……」
ナーシンは背が低い僕の目線に合わせて腰を落とす。
「貴方のような可憐な人を1人にはできないからだ」
「……え」
「人目見た時から思っていた。俺は貴方を守らなくてはいけないと……否、守りたいと思わせてくれる存在だ」
そこまで!?確かに僕は可憐で純新無垢(見た目だけ)で紛うことなき美青年だし、だからこそこの可能性は最初から頭に浮かんではいたのだがその言葉ってもしかして……いや、確実に僕のことが好きなのでは!?これ、告白と受け取ってもいいのでは!?
僕は「っしゃ!」とガッツポーズを決め込む。
いやー、気づいていましたか僕の溢れんばかりの魅力に。そりゃそうだよね分かるよ、うんうん。
「どうしたんだイミリア?」
「あ、いや、そんな言葉を言って貰えるとは思ってもみなかったからつい……えへへ」
「そうなのか。そういう風に何かに喜んでくれる所もやはり可愛らしい」
そこまで褒めてもらえるとなんだかくすぐったい気持ちになる。
「そ、そんなに褒めなくても式の準備はちゃんと……///」
「やはり昔街にいた野良犬に似ていて可愛らしい」
「犬だなんて…いぬ?」
いぬ?犬?イッヌ?犬ってあのイッヌさん?え?どゆこと?好きな人をすぐに動物に例えるタイプなのかな?え?
突然の犬発言にポカンとしているとナーシンは続ける。
「昔貴方のような可憐で小さくて目が大きくて毛並みもそっくりな子犬が街の中にいたんだ。ドミンという名のとても可愛らしい犬だった。街のみんなで可愛がって育てていたのだが他の野犬に虐められて子犬のうちに死んでしまったんだ。俺はその子犬を守れなかった事を悔いていたがそのうち忘れてしまっていた。そのことを貴方をひと目見た瞬間思い出したんだ」
「…………ほお?」
「きっとこれはドミンが自分みたいなか弱い存在を守るようにと俺に言っている気がした。だから俺は貴方を全力で守る、いや、守らせて欲しい」
「……つまり僕をその子犬と重ね合わせて見ていてそんなに世話を焼いてくれていると言うこと?」
「……まあ、そんなことろだろか」
「……」
「どうした?」
急に黙りこくる僕の顔を心配そうに覗いてくる。
まったく……。
「まったく、流石はナーシンだね!僕の思ってもみないことを言い出す天才だ!」
ははっ!っと笑うとナーシンは少し驚いた様子だったがすぐにニコリと笑ってくれた。
「天才だとは光栄なお言葉だ」
やれやれ、この僕がまさか野良犬に例えられるとは。この500年間で僕にそんな不躾なこと言う奴が現れるだなんて思ってもみなかった。ふっ、おもしれー男。全くもってナーシンには驚かされてばっかりだ。
「はははっ!ふう、よく笑った。さあ、笑い疲れないうちに先に進もうじゃないか」
「ああ、そうしよう」
ナーシンは無言で手を差し伸べてくる。僕は頷いてすぐにその手を握る。
流石の僕も相思相愛じゃない事に残念な気持ちが無いわけじゃない。が、早々上手くいく恋ばかりでは物足りなさを感じていた僕にはうってつけのお相手だ。それに僕と共にいて一生惚れない人間などこの世にはいない事を僕は知っている。いつか僕にどろどろに惚れ込んで離れられなくなる日が来ることを楽しみに待つことにしよう。
そんな思惑を知らぬまま、ナーシンは僕とまた仲良く手を繋いで先へ進むことにした。
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