第二章「革命軍」

はじまりの音1

 有栖がうちに来た日の午前3時


 家のインターホンが鳴った


 この時間に家に来るのなってみなくてもわかる


 寝間着のまま、モニターなんて見ないで玄関に向かった


 「貴樹着替えてこい。華蓮も一緒にだ」


 玄関にいたのは次期当主が次男東方 貴令(きれい)だ


 「すぐに準備します」


 「敬語はいい、今日からは弟だ」


 「わかったよ、兄さん」


 貴令兄さんはそのまま玄関に座った


 ロビングには上がらない。それほど急ぎの用らしい


 それに「弟」と


 僕が本家家に戻るということは共和国の問題が急激に進んだんだろう


 いくら何でも早すぎる。早めに覚悟を決めれてよかった


 僕は急いで華蓮の部屋に向う


 だが華蓮はすでに支度が済んでいた。聞こえていたんだろう


 「早くしなさいよ・・・多分・・・何でもない」


 華蓮はそのまま玄関に向かっていった


 はじまるんだ。制圧が。戦争が。ぎゃく・・・いや考えないでおこう


 僕の力がどこまで使われるか、どのように使われるかわからないが「東方」に戻るということはすべての使うということだ


 有栖には悪いな早速一人にさせてしまう。いや今の有栖なら友達くらいすぐにできる。そう思うと少し寂しいが今はそんなこと言ってる暇はない


 着替え終わってそのまま玄関に行く


 華蓮はすでに車に乗っていた。貴令兄さんもあの時の現場にいたからそこからあまりいい関係とは言えない


 「お待たせしました」


 僕が乗り込んで数秒立たずに車は走り出した


 東方本家ではなく空港へ


 「そんなに急ぐんですか」


 「ああ革命軍が動き始めた。目的は不明だが散り散りになって活動していたやつらが急に同じところへ進み始めた。共和国郊外大陸を区切る障壁の近く。何かの施設だとは聞いているが情報が統制されている」


 同じ場所か。そこに何があるのかはわからないけど。革命軍が欲しているものってなんだろう


 「それにやつらの早さが問題だ。もう集まりかけていると情報が入ってきた。決起から身をひそめていたやつらだ。向こうで多少数を減らしたとはいえ、主力は一人も減っていない」


 数が減っている。当たり前だ。国に歯向かっている。政府にもだ。仕方のないことだとは思うけどやっぱり・・・


 「俺たちが向こうに着くころにはすでに集結しているかもしれん。仕事は早いぞ貴樹、覚悟はできているな」


 「はい」


 僕はそれしか言えなかった。覚悟はしている。それでも怖い


 兄さんから数枚の髪を渡された


 「ならいい、この間の資料のかけたページだ。姉さんが抜き取っていたんだ。全く弟思いはいいがお前のためにはならんだろうに」


 やっぱりこの間の資料はいくつか足りてなかったらしい。目をとしておこう


 「これは・・・」


 それには作戦の概要とそれに決起した原因とされるものが書かれていた


 作戦のほうは単純だった。殲滅だ。政府の印も押されている。予想していたとはいえ気分は最悪だ


 原因は・・・


 準一等級の能力者とその他二十名が起こした暴動を沈めるべく王が派遣された


 暴動は一時的に収まったがそれは王がその暴動を起こした者たちに組したためである


 暴動が起きた原因については書かれていない


 王がそのリーダーになったことにより徐々に数を増やし、革命軍起こすまでに成長していった


 「暴動が起きた原因はわからないんだ」


 「いや、おそらく共和国は把握しているだろう。もしかしたら政府もな」


 「でもそれを南がつかめなかったってことはよほど他所に漏らしたくなかったってことか・・・」


 それを知らされることもなく日本に要請が来た


 共和国が知られたくないこと。政府が情報を止めていること


 何が起きているのかは終わっても知ることはできないだろう


 不可解ではあるし本家も得体のしれないことに巻き込まれているのはわかっているだろう


 普通だったらこんな情報だけでは本家は動かない


 でも世界政府からの命令は絶対だ。そむくことはできない


 そむけば孤立だ。おそらく地区ごと


 この日本を守るのは日本の盾であり剣である東方の責務だ


 首を縦に振るしかない


 「この件には爺さんも参加する。ことはすぐに済む。王さえいなくなればあの連中はすぐに瓦解すだろうからな」


 それだけで済むのなら。でもその殺害には僕が絡むのは必然だ


 東方当主 吉宗(よしむね)


 僕らの祖父であるこの人の能力は二等級「狙撃」


 狙った相手に手に持てる程度の固形物を打ち込むことができる能力だ


 銃火器の使用できないこの世界ではほとんど意味はない


 ただその能力は制御不能の能力者を処理するのに適している


 遠距離からの見えない一撃。どんな異能力を持っていたとしても油断していれば確実に仕留められる


 ただ「自分の直線状にある視認できるもの」にしか行使できない


 壁の裏にある者に充てることができないのだ


 そこで僕の出番だ。祖父の前に立ち視界共有しつつ千里眼と透視を能力行使の瞬間切り替え、主力となる面々に必中の一撃を叩き込む


 それを合図とし革命軍の鎮圧にかかる手はずだ


 それで倒れればよし、倒れなかった場合は力ずくでの殲滅に入る


 「狙撃」が一度ふさがれれば、「断罪」で異能力を使用不能にされかねない。それだけは避けなければ


 「爺さんが失敗した後の僕はどうすればいいのかな」


 「待機だろうな。「断罪」は二十四時間に一回だ。それを使わせてしまえばあとは大したことはない。西方の当主もいる。簡単に鎮圧できるだろう」


 「鎮圧か・・・」


 「貴樹。大丈夫だ、もし望むのなら「忘却」で忘れられる。そう悲観することはない」


 兄さんも僕のことを心配してくれているのはわかる。それでも、それでもだ。


 「それはやめておくよ兄さん。これは覚えて泣くちゃいけないと思うから」


 「そうか、いつの間にか強くなったな貴樹。兄として誇りに思う」


 あまり笑わない兄さんが微笑んでいる


 いい気分とは言えないがそれでもうれしい


 「兄さんはどうするの?」


 「俺はここで待機だ。何もないとは思うが用心しておかなければならない。東方の本分は地区の防衛だからな。父さんと姉さんも残る。すまないな、重責を抱えさせて」


 聞かずともわかっていたし聞くつもりもなかったけど、不安で仕方なくてついきいてしまった


 「・・・大丈夫。僕も本家の人間だから。覚悟はしてた。あれ、でも華蓮は?」


 華蓮は僕の隣で面白くなさそうに窓の外を見つめていた


 なぜかなんて・・・そんなの


 「華蓮にも行ってもらう。何をすべきか、わかっているな華蓮」


 「言われずともわかってるわよ」


 全く目を合わせようとしないけど、兄さんはわかっているならそれでいいといった顔だ


 華蓮はおそらく・・・いや、何もやらせない。それが僕のやるべきことだ


 そのあと空港に着くまで沈黙が続いた

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