2章
12月は終わらない
第73話 クリスマスイブとクリスマスの予定
「24日暇な奴挙手!!」
修学旅行も終わり、冬休みまで残すところ僅かとなった日。
一日の全ての授業が終わり皆それぞれ部活やら帰宅やらの準備を行っているころ、いつの間に教卓の前に立った
そんな突然のことに戸惑いを隠せないクラスメイト達を置いて隆貴はさらに言葉を続けていく。
「クラスでクリスマスパーティーしようぜ!」
クラスメイトたちの間にさらにざわめきが広がる。
突然の提案に、驚いた表情を浮かべたり、顔を見合わせたりしている。
「え、クリスマスパーティー?」
「そんなのやるのかよ?」
「でも、ちょっと楽しそうじゃない?」
声が飛び交う中、隆貴はさらに勢いを増して手を叩きながら言った。
「いやいや、お前ら、クリスマスだぞ? このまま普通に冬休みに突入するだけでいいのか? 思い出作ろうぜ!」
「私賛成~!」
真っ先に賛成の旨を示したのは
彼女のその声に押されるように、少しずつ賛同の声が増えていく。
「確かに、クリスマスに何もないのは寂しいかもな」
「で、何するんだよ? ケーキとか用意するのか?」
隆貴は満面の笑みを浮かべて頷く。
「もちろん! 飯も用意するし、ゲームもやろう。プレゼント交換とかも面白そうじゃね?」
「それ、結構ガチでやる感じだな……」
「でも、みんなでやるなら楽しそう」
それからはクラスメイト皆やる気満々で話が進んでいき、クリスマスイブの日にクリスマスパーティーをすることとなった。
会場は流石にシーズン的に隆貴のホテルは使うことが出来ないらしいので近くの大きなカラオケですることとなった。
そんな突然のあれこれが決まった後、俺は彼女である
「なんだか、向井くんらしいね。こういう盛り上げ方」
「そうだな。やるなら、みんな結構本気で楽しむぞって感じだったし」
そんな中、冷たい風が吹くたびに、陽菜のマフラーがふわりと揺れる。
その様子を横目で見ながら、俺は何となく話題を探していたが、自然と隆貴の提案したクリスマスパーティーの話が続いていた。
「本当に隆貴らしい提案だったな。みんなを引っ張るのが得意っていうか」
俺がそう言うと、陽菜は小さく笑った。
「うん。でも、向井君のそういうところ、結構助かるよね。普通だったら、ただの冬休みの始まりになるだけだったかもしれないし」
「まあ、確かにな。ああやって強引にでも盛り上げてくれるのはありがたい……のかもな」
俺が少し苦笑いを浮かべながら答えると、陽菜はふと足を止めた。
「ねえ、輝」
その真剣な声に、俺も自然と立ち止まる。
振り返ると、陽菜が少しだけ顔を赤らめながら俺を見上げていた。
「その……クリスマスパーティー、楽しみだけど……私、やっぱり本当のクリスマスの夜は、特別な人と一緒に過ごしたいな」
その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
でも、陽菜の真っ直ぐな目が、彼女の本心を伝えてくれていた。
「特別な人って……」
俺が聞き返すと、陽菜は恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「輝だよ。私にとって特別な人は……輝以外いない」
その言葉に、胸が一気に熱くなるのを感じた。
寒さなんてもうどこかへ消えてしまったようだ。
「……俺もだよ。陽菜と一緒に過ごせるなら、それが一番特別なクリスマスになる」
そう答えると、陽菜は嬉しそうに微笑んだ。
そして、彼女のその笑顔を見た瞬間、俺は自然と手を差し出していた。
「約束な。クリスマスイブのパーティーが終わったら、二人で過ごそう」
陽菜は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、静かに頷いて俺の手を握った。
「うん、絶対だよ」
それから陽菜を家まで送り届けると、玄関のドアが開いた。
顔を覗かせたのは陽菜の妹、
元気いっぱいの笑顔でこちらに手を振る。
「お姉ちゃん、おかえりー! あ、輝お兄ちゃんも!」
「ただいま、咲音。ちゃんとお留守番してた?」
陽菜が優しく声をかけると、咲音は大きく頷いた。
「もちろん! お姉ちゃんの部屋もきれいにしておいたよ! あと、明日のごはんのリクエストも考えたの!今日はね、ハンバーグがいい!」
「分かった、ハンバーグね」
陽菜は苦笑しながら答えたが、咲音はそのまま俺の方に顔を向けた。
「それよりお姉ちゃん。どうしてお兄ちゃんとおてて繋いでるの?」
そんな純粋無垢な鋭い質問を受け俺たちは咄嗟に手を放す。
「ずるいっ!咲音もお兄ちゃんと手、繋ぐ!」
そうして咲音ちゃんは勢いよく俺の手を掴んでくる。
さっきまでの陽菜の手とは違い小さく、少し冷たくなった咲音ちゃんの手を温めようとしっかり握る。
咲音ちゃんは陽菜の方を睨んで、陽菜は咲音ちゃんと俺を交互に睨んでどうすればいいか俺には分からなくなる。
この空気をどうにかしようと俺は話題を探すが、ここでもまたクリスマスパーティーの話しか出てこないのでとりあえず話してみる。
「そういえば、学校の同じクラスの人たちででクリスマスパーティーをすることになったんだ」
「クリスマスパーティー?」
何とか咲音ちゃんはこの話に食いついてくれたようだ。
「みんなで集まって、ケーキ食べたりゲームしたりするんだ」
俺が答えると、咲音の目がキラキラと輝いた。
「えーっ! いいなー! 私もクリスマスパーティーしたい! お姉ちゃん、一緒にやろうよ!」
「えっ?」
陽菜は一瞬驚いたようだったが、すぐに困ったような顔をした。
「でも、咲音、私たちのクラスメイトと一緒のパーティーには行けないよ?」
「ううん、そうじゃなくて!別の日に家でやるの!ケーキとか飾りつけとかしたいの!」
咲音は小さな拳をぎゅっと握りしめ、力強く訴えかける。
「サンタさんの帽子とかかぶりたいし、お兄ちゃんとお姉ちゃんと過ごしたいなぁ。だめ?」
そんな風に頼まれたら断れるわけがないが、ここは陽菜がどうしたいかも重要だと思ったため彼女に目を向ける。
陽菜は考え込むように少し黙り込んだが、咲音の期待に満ちた表情を見ると、微笑みを浮かべた。
「いいよ、咲音。お姉ちゃんも一緒に考えるから、楽しいクリスマスパーティーにしようか」
「やったー! お姉ちゃん、ありがとう!」
咲音はぴょんぴょん跳ねて陽菜に抱きつく。
その姿を見て、俺もつい笑顔になった。
「じゃあ、何か手伝えることがあったら言ってくれよ。準備から一緒に考えるのもパーティーの一環だからな」
俺がそう言うと、咲音はぱっと俺の方を向いて満面の笑みを浮かべた。
「ほんと? 輝お兄ちゃんも手伝ってくれるの? じゃあ、絶対楽しいパーティーになるよ!」
「まあ、俺で良ければな」
咲音と陽菜のクリスマスパーティーの計画が始まった。
陽菜の優しさと咲音の元気が合わさって、この家でもきっと素敵なクリスマスになるだろう。
「それじゃあ、またね」
「ばいばい、お兄ちゃん!」
「ばいばい」
それから俺はまた歩き出す。
夕日が遠くのビルに沈み、少しずつ夜の帳が下りる中、手の温もりだけが確かに伝わっていた。クリスマスが、俺たちにとってもっと特別な日になることを、心の中で願いながら。
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