変態研究員 骸

第16話 「わかってると思うけど」

 四季は、今日の出来事がまだ信じられず、一人ベットの上で天井を見上げていた。


「…………」


 人が死ぬ瞬間を初めて見た。

 縋ってくる元親友、彼女を置いて自分だけ助かろうとした元彼。


 あれが、もしかしたら人間の本来の姿なのかもしれない。

 自分も、二人と同じ立場になれば、どうなるか分からない。


 自分の手を見て、すぐに項垂れる。


「はぁ……。今後、どうなるんだろう」


 考えても意味は無い。

 もう、流れに乗るしかないと思い、四季は目を閉じた。


 そんな時、窓からコンコンと、音が聞こえた――かと思った瞬間。


 ――――ガシャン!!


「っ!? 窓が割れた!?」


 急に窓が割れた理由がわからず飛び起きると、破片の上に一人の男性が降り立った。


「あー……。まぁ、いいか」


 その男性は、復讐代行者である累だった。

 彼は、割れた窓を見つつも、まったく気にしない。


 最初は唖然としていた四季だったが、割れた窓を見て困惑と怒りで叫んだ。


「良くないですが!? 何しに来たんですか累さん!!」


「あー??」


 累が呑気に変えすと、部屋のドアの奥から慌てるような足音が聞こえ始めた。


 窓の割れる音がリビングに居た家族にも聞こえてしまったんだと、四季は顔を真っ青にする。


『四季!? すごい音が聞こえたけど大丈夫!?』


 ドアが開く前に言い訳を言わないとと、四季は頭を抱えた。


「え、えぇと。き、筋トレしてバランスを崩してしまったの! 大丈夫だから」


『そ、そう? あまり無理するんじゃないよ?』


「は、はーい」


 何とか誤魔化せて助かったと肩を落すけど、累を見て再度頭を抱えた。


「それで、どうしてここに来たんですか? というか、窓の弁償してくれるんですよね」


「これからについて話そうと思ってな。窓については知らん」


「え、これからの話? 今からですか?」


 ちらっと時計を見ると、もう二十二時を過ぎている。

 まだ起きている時間とはいえ、四季は今日の出来事に疲れたため一人で過ごしたかった。


「後日では駄目ですか?」


「いまだ」


「…………はい」


 四季は、この短い期間だけで累を少しはわかってきていた。

 ここまで言い切った彼の意見を変えるのは不可能。四季は諦め、頷いた。


「絶対に、窓、修繕費払ってくださいね」


「ちっ。導に払わせる」


 導さん、どんまい。と、心の中で呟き、ベッドに腰を下ろす。


「あの、それで。今後、私はどうすればいいのでしょうか」


 累を見ていて分かる。

 絶対に、今までと同じ生活なんて出来やしない。


 だから、絶対に変えられない学校時間以外なら、累と共に行動できるなと考えながら問いかけた。


 だが、累から返ってきた言葉は予想もしておらず、ポカンとしてしまった。


「何も考えてない」


「……え?」


 まさか、何も考えず部屋の窓を割り、ここまでやってきたのか?

 累の思考が理解出来ず、目眩を起こす。


 壁に手を付き頭を支えていると、累が確認するように問いかけた。


「というか、俺と共に行動するのなら、今までと同じではいかねぇぞ。わかってると思うけど」


 累の言葉に、四季は顔を上げた。

 累の漆黒の瞳は彼女を捉え、離さない。


 体にゾクリと、悪寒が走る。

 けれど、すぐ気持ちを切り替え、横に下ろしている拳を握った。


「それに関しては、分かりきっているので大丈夫ですよ」


「そうか、それならいい」


「でも……」


 頷いたあと、四季は気がかりがあり視線を落とした。


 四季の中にある不安は、家族。

 親にどうやって説明しようかだけが気になり、不安になっていた。


「どこまで、変わりますか?」


「今回のようなことが今後、頻度に起きる。以上」


 簡単すぎる説明だが、逆にわかりやすい。

 四季は、それなら……と、視線を上げた。


「それなら、日常生活に関しては、特に普段と変わらないですか?」


「まったく変わらないわけじゃねぇよ。依頼人が現れたら直ぐに動いてもらわんと困るからな。何時でも動けるように予定は入れるな」


 理不尽ではあるが、四季には友達と呼べる人はいない。

 せいぜい家族との予定が入れにくくなっただけ。特に問題はないと、頷いた。


「あと、変な奴が現れたらしいから、そこは警戒しておけとのことだ」


 目を逸らし、累が言う。

 変な奴と言うだけでは分からない。


 四季は、首を傾げた。


「導の情報だ。詳しくはわからんが、あまり関わらん方がいいらしい」


「わ、わかりました」


 情報が不明瞭すぎるが、ひとまず知らない人に関わらなければいいのだろうと、四季は軽く考えた。


「んじゃ、今後は俺が連絡したら必ずすぐに出ろよ」


「学校の時は勘弁してください」


「抜け出せ」


「無理です」


 その後も累はなにかしらギャーギャーと文句を言っているが、四季は無理なものは無理と言って、却下する。


 めんどくさくなった累は、不貞腐れたまま割れた窓からいなくなった。


 そんな累の姿を見て、これからの生活に嫌気がさしつつも、どこかワクワクしている自分に困惑する。


「────少しでも役に立てるように、頑張ろう」

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