第25話 沖田さんやべぇ……
□葉隠れチャンネル （高ランク探索者・葉月）
「沖田さんが戦うところを見れるなんて、俺たち幸運だな」
カメラの対象を沖田さんに固定した後、戦士である恭弥が興奮気味に呟く。
彼は昔は沖田さんに突っかかっていくようなやんちゃをしていたのに、ボコられて、アドバイスされてから手のひらを返したように態度が変わったんだ。
今では大ファンの一人。
"明星"の中での沖田さんの扱いに怒り心頭で一時はダンジョン協会に殴り込みそうだった彼だが、沖田さんは自分の手で解決してしまった。
まぁ、殴り込みなんかされていたら僕たちが厳重注意を受けていただろうけど、僕自身も思うところがあって、もしあのまま沖田さんが日本ダンジョン協会を脱退していたら追随していたかもしれない。
沖田さんは最強の探索者だ。
彼を貶めるなんて許せない。
彼こそが伝説の継承者であり、彼こそが最も尊敬と敬意を受けるべき探索者だからだ。
：沖田さんが戦うのか……
：でもあれ、太平洋ダンジョンのボスって話じゃないか？ 大丈夫なのか？
：暴走竜も瞬殺したし、東京ダンジョンの100層ボスもあっさり撃破してるらしいし負けるとは思えないんだが
：頼む沖田さん！
配信のコメント欄では僕の想いが届いたのか、みんな沖田さんを応援したり、心配したりしている。けなすようなことを言ったら許さないよ？
：私はさっきまであのビルにいたんだが、不思議な光を浴びたと思ったら都営の体育館にいたんだ。
「きっと沖田さんの転移だね。魔力を纏って何かしてると思ったけど、そうか。モンスターに倒されたビルの中にいた人たちを助けていたのか」
：まじか……沖田ってすげぇんだな
：沖田"さん"だろ！？
：沖田さん頑張れ！
：沖田さん頼む！！！
沖田さんは息をするように人を助け、モンスターを倒す人だ。
もはや人なのかどうか怪しいくらいだし、自分自身が高ランク探索者になって思うのは彼の背中の遠さだ。
いくら強くなってもどんどん離されているような感覚に陥る。
それはきっと自分自身が沖田さんの凄さを知覚して行っているからだとは思う。
でも、遠い。
彼について行ける那月さんや遥さんは凄い。
僕だったら即自信喪失してしまいそうだ。
それでもいつかきっと、沖田さんと肩を並べて戦ってみたい。
そんなことを想いながら見つめる目の前で沖田さんはモンスターを圧倒した。
なにあれヤバい。
沖田さんが体を揺らすごとに巨大なカマキリが切り裂かれて行く。
巨大なボスモンスターが手も足も出ない……というか、もう手も足も全部切られて倒れそうになったところを魔力で浮かされてさらに切り刻まれている。
沖田さんは『おっかしいなぁ～』とか呟きながら斬り続けているが、どう考えてもおかしいのはあなただと思うんだ僕は。
高ランクダンジョンの100層ボスって話だったよね、そのカマキリ……。
：やべぇ……
：想像した形とは全く違うけど、強すぎる……
：えっと、同じ人間ですよね？
：僕には何が起きてるのか全く見えない
：一瞬キラッて何かが光るたびにカマキリが切り裂かれて行く……
：これ、虫愛護団体から苦情来ないか？
：ねぇよそんなもんwwww
配信のコメント欄も一瞬で空気が変わっていた。
さっきまで悲壮な空気で沖田さんを応援していたのに、今はただのお祭り騒ぎだ。
やはり沖田さんは凄い。
僕の憧れの人なだけある。
「全く問題なさそうですね、さすが沖田さん」
恭弥ももはや剣を鞘にしまって観戦モードだ。
改めて周囲を見渡すと、そんな探索者やギルド職員ばっかり。
退避しようとしていた一般の人たちも口をあんぐりと開けて非常識な光景に見入ってしまっている。
恐らく犠牲者はほぼいないだろう。
0かもしれない。
倒れたビルは災難だったし、道路や周辺の建物も壊れてしまったけど、モンスターが外に出たのに死傷者がいないなんて奇跡はきっと日本でしか起こらないだろう。
：沖田さん、なにかぶつぶつ言いながら切り刻んでるけど、何か気になることでもあるのかな？
：俺、沖田さんたちの太平洋ダンジョン攻略配信見てたんだけどさ。喋るモンスターがいたんだ。
：はっ？
：まじで？
：kwsk
「その配信は僕も見てたよ。驚いたよね。インセクトロードって言うらしくって、喋りながら沖田さんが連れてる妖精と言い争ってたね」
：衝撃の事実じゃね？
：会話できるってことは意思疎通できるってことだよね
：一応、配信コメント欄に日本ダンジョン協会の神谷会長が出て来て、速攻で配信を限定公開に変えたからそれ以上はわからん
「たぶん追って公表される案内があると思うから、それまでは不用意に広めないようにね。まぁ、もう手遅れかもしれないけど」
：ですね。
：ツブヤイタ―のトレンドの1位が『喋るインセクトロード』で、3位が『太平洋ダンジョンの100層ボスが東京に転移』ですね。7位に『100層ボスを沖田さんが瞬殺』、10位に『倒れたビルから沖田さんが全員救出』があるっす
：各SNS見回って来たけど、沖田さんへの称賛の嵐です
：ダンジョン協会が沖田さんが100層ボス部屋に突入するところを流して、入った時にはもぬけの殻だったから慌てて転移で東京を助けに来てくれたって公開してるね
：協会グッジョブ！
：そもそも太平洋ダンジョンに行ったのが協会の依頼だしね
：凄すぎて草
：こんな人を貶めた葛野の罪が青天井で大気圏突破したかな？
：もし沖田さんが自棄になって他国に行ってたらやばかったな……
「そんなことはさせないよ」
：葉月さん？
：ですよね。日本の至宝が失われるなんて許せないですよね
「そういうことじゃないんだ」
：えっ？
：なんかすみません
「いや構わない。事情を知らないんだから仕方がない。でも……僕たちは、乱雪さんの子であり、多くの人を救ってくれた沖田さんが酷い扱いをされることなんて、もう二度と許さないよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます