第23話 東京に現れたモンスター

突如として現れた巨大な虫型モンスター。



はじめは巨大な震動が巻き起こり、地震かと思った人々は蹲った。


首都である東京の直下型地震なんで冗談じゃない。

ビルが倒れるほどではなかったため、次第に意識を地震後に向ける人々。

被害はどれくらいだろうかと。


さらに、もし巨大地震だったら余震もあるかもしれないし、もし今の揺れが前震であったなら本震が後から来るかもしれない。

しかし、幸いなことに揺れが長く続くことはなかったため、多くの人が今しがたの地震の情報を調べようとするが、軒並み圏外……。


そんな状況を地震による電波障害だと思った人々が、恐る恐る立ち上がり、周囲と不安を語り合う。逃げた方がいいのか……?



そんな彼ら彼女らに向けて、続いてやってきたのは揺れではなく気色悪い金切り声だった。

これは地震じゃない。

そう思った人々が窓の外を覗くと、そこにいたのは見上げるほど大きな虫型モンスターだったわけだ。


当然ながら一瞬にして恐怖にかられた人々が堰を切ったような勢いでビルを駆けおり、逃げ惑い始める。

この世界の歴史の中では小説の中のようにモンスターがダンジョンから出てきたことは数えるほどしかない。


それもほとんどは海外での出来事であり、日本では1度だけだった。

そのスタンピードは7年前。まさにダンジョンが世界に現れた頃に発生したもので、今や伝説として語られる探索者である乱雪が文字通り命を懸けて打倒した。


残念ながらその事件で帰らぬ人となった乱雪だが、一般人にはほぼ被害を出すことがなかったことで、多くの称賛を得た。史上初のS級探索者として今も記録されている。

なにせ、ほぼ同時期に発生した海外の同程度のスタンピードでは数万人の死者を出したのだから。


一般人にはモンスターに抗う力はほとんどない。

重火器を持ってきたとしても、低ランクのモンスターなら倒せる場合もあるが、中ランク以上では全く効かない。


スタンピードを率いるような高ランクモンスターに至っては、かすり傷どころか意識さえ引けない。


つまり、巨大なモンスターを視界に捕えた人々は即逃走するしかなかった。


そんな中、ダンジョン協会の動きは速かった。


神谷会長によって膿を出し切ったダンジョン協会では多くの志ある職員がやる気を取り戻しており、今回の事件についても観測してすぐに連絡を回した。

それを受けて神谷会長は東京近隣にいる探索者に救助依頼を出した。


合わせて沖田達、"明星"に帰還を要請するように手を回し、集まった探索者には避難や誘導、威嚇攻撃などを依頼しつつ”明星"が来たら避難に専念するよう指示を出した。


参戦したのは日本で五指に入る探索者パーティーである"葉隠れ"と"戦天使"。それを中心とした数多くのパーティーたち。

畏れや戸惑いはあっても、モンスターによって街が破壊されることをよしとしないものたちだ。


彼らは現場に急行し、行動を開始していく。


ある者は逃げ惑う人々を誘導し、ある者は襲い掛かるモンスターを打ち倒し、ある者は怪我人の回復や防御魔法を担う。


寄せ集めの集団ではあるが、みなができることをやっていく。

戦う力のないギルド職員たちも誘導や指示連絡のために動き回り、被害を最小限に抑えるべく、行動する。


しかし、出現したモンスターは強力だ。

なにせ高位ダンジョンである太平洋ダンジョンの100層のボスモンスターだ。


いくら探索者の中でも上澄みであるものたちでも、ダメージを通すことすら難しい。

ボスが率いてきたと思われるモンスターは倒せても……。


だが、幸いにもボスモンスターは本格的な破壊活動には入らず、周囲を見渡すように首を振りながら大きなビルに取り憑いた。

何をしているのか、冒険者たちには行動の意味は分からない。

それでも彼らはできることをやった。


沖田たちがきっと帰ってくると信じて。


そして……。




目の前にビルに取りついている巨大なモンスター。

その姿は巨大なカマキリだ。


夢乃さんからの電話を聞いた後、慌てて時空を切り開いて帰って来た俺たち。

道中は一瞬だったが、それでも『Gではありませんように』と100回くらい唱えたと思う。


夢乃さんも慌ててるからって虫型としか言ってくれないからさぁ……。


「おっと危ない」

目の前に飛んできたトンボのようなモンスターを蹴り落とす。



念願が叶ったのか、ボスと思われるモンスターの姿はカマキリ。周囲を飛ぶモンスターもトンボやバッタ、アリとかだ。これなら行ける。

横では俺と同じような表情をしている遥。きっと彼女は『蜘蛛は嫌だ』と頭の中で唱えていたことだろう。きっと。


しかしでかいカマキリだな。

30階くらいありそうなビルにカマを振り上げて取り憑いていて、ギリギリガチガチと嫌な音が響き渡っている。

掴む力が強く、さらに体重もあるんだろう。


なにせ見た感じそのボディは金属だ。

いつかビルが重さに耐えれなくなりそう……


あっ、倒れた……。


俺は魔力を全開にして周囲に行き渡らせ、ビルの中にいた人々を全員安全な場所に転移させる。

たぶん間に合ったはずだ。

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