第17話 凄さの秘密

と言う訳で俺たちは太平洋ダンジョンを歩いている。

場所は80層。


前回エフィーと2人で到達したのは79層だった。

そこから無理やり空間をこじ開けて東京ダンジョンの60層に移動して遥と横田さんを助けたわけだ。


当然その時マーキング完了している。

別にダンジョンの木陰でおしっこしてきたとかじゃないからな?


魔力で印をつけておくんだ。

そうして、次に来た時にその印を目掛けて飛べば、一瞬でその階層に辿り着ける。


「いまだに信じられないんですが、どうしてそんなことができるんですか?」

この方法は一般的ではなかったらしい。

やったらできたからやっているが、教えてもできたやつはいない。


毎回1層から進んで行くか、魔道具を使って移動するしかないなんて、不便じゃないかな……。

あと、俺にはなんでできないのか分からないから、説明できない。


:きっと沖田さんだからですね。

:沖田さんだもんね。

:沖田さんすげぇ……のか?

:なんで疑問形なの???

:沖田さんはすげぇよ。なんてったって、遥ちゃんをトナカイ衣装のまま連れて来たんだから。


もう言うな。

そのせいで思いっきりひっぱたかれたんだからな?


煽てて着せてから太平洋ダンジョン行くぞって伝えて、戸惑ってる間に抱えて転移したからだけども……。


配信で人気出てて同接増えてる、凄いよ遥って宥めてようやく探索をしてくれてるんだから。

もう一着買ってたスケスケのエロトナカイ衣装渡さなくてよかったと心から思う。


あと、午前中から暖かい部屋の中で昼寝していたエフィと前日も夜遅くまでゲームやってたかなんかで眠そうな横田さんを無理やり連れて俺たちは太平洋ダンジョンに潜り込み、俺の力で一気に79層まで飛び、前回エフィーを襲っていたモンスターを踏みつぶして着地し、先へ向かって歩いているところだ。


"明星"を結成する前にも結成した後にもあまり会話したことがない横田さんが、実は鬼のような速度でチャットしながら神プレイを披露する超絶ゲーマーだと知ったのはつい先日だ。


雑談配信をする前に配信とはどういうことをするのか探っている時に、実はゲーム配信をしたことがあると聞いてアーカイブを見せてもらった。

遥と2人で唖然としたのは言うまでもない。


探索者のスペックもフル活用していて、キーボードタッチは目で追えなかったし、プロゲーマーに圧勝していたし、何より物凄く嬉しそうに笑顔で相手をボコっていて引いた。


今は関係ない話だから置いておこう。

彼女は配信者ではあるが、俗に言うVtuberというやつで、素顔は晒していなかったから。


:那月さんもスタイルよさそうだし、コスプレ希望を……はい、すみませんでした、冗談です

:速攻睨まれてて草wwww

:エフィーちゃんなでなでしたい。

:エフィーちゃんぺろぺろしたい。

:エフィーちゃんかわゆす。


「なんなの? 怖いの」

「お前らエフィーを怖がらせるな」

まったく……実は精霊のエフィーが逃げたらどうしてくれるんだ。


:ごめんなさい。

:すみません。

:消さないでください。

:プレッシャーが……うっ……


「いや、なんもやってないから。そもそも太平洋のダンジョンの中から日本にいるお前らにプレッシャーなんてなかなか厳しいから」


:決してできないとは言ってない件

:雑談配信のときやばかったもんな……いきなり悪寒と頭痛が来て、吐き気が来て、あれ? 俺なんで生きてるんだっけッて

:呪いみたいになってるwwwwww

:沖田の呪い……怖い……

:それで葛野くらいなら消せたんじゃ……


「さすがに探索者にやってバレたら協会追放されると思ってな」


:決してできないとは言ってない件

:葛野は決して喧嘩を売ってはいけない相手に喧嘩を売ってしまったんだな……

:沖田さんどうやってそんなに強くなったんですか?


「俺か? よくわからんな。叔父さんにもらった刀一つで昔からダンジョンに籠ってたらこうなったんだが」

「ある時から急にダンジョンに籠るようになりましたよね」

遥が右手の人差し指を自分のほっぺに押し当てて思い出すポーズを取りながら呟く。

その通りだ。


子どもながらに刀がカッコよくて使ってみたかったとか、強くなる自分に酔ったとか、先に進んでみたことがない景色を見るのが好きだったとか、いろいろあった。そんな中に魔力を使っていろんなことができるようになるのが楽しかったというのもあった。


それである時、がむしゃらに刀を振っていたら切れていたんだ。

なにをって?

空間ってやつをだ。


何もない空間に切れ目が入ってな。

手を入れるのは怖かったから魔力を通してもたら、知覚できたのは同じダンジョン内の通ってきた場所だった。

その後はひたすら魔力を込めながら試行錯誤したら狙った場所に通せるようになって、さらに刀なしでできるようになった。


俺って天才かもしれないとその時思ったね。


:いや、天才すぎて草

:ダンジョンもびっくりじゃないか?

:普通はそのダンジョンでドロップする転移石を使わないと飛べないだろ?

:それでも指定された場所にしか行けないから、狙った場所に移動できる沖田さんが凄すぎる

:だって太平洋ダンジョンの79層から東京ダンジョンの60層だろ?イミフwwww


「遥の魔力は覚えてるから、地球上のどこに居ても行けると思う」

「おに……沖田さん♡」


:完全なるストーカー誕生かと思ったけど、遥ちゃんが嬉しそうだから全く問題ないのがムカつく

:お前、魔力覚えられたら今この瞬間にでも沖田さん来るかもしれないのに、よくそんなコメントかけるよな

:やば……


「やらないからな」

コメント欄の人たちのノリが良くて笑ってしまう。

あと、手をつないでる遥のテンションが戻ったから、こんな雑談でも意味があるもんだなと思った。

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