ボディーガード

「なに、何言って…そんな筈ない、お姉様は、私を必要って」


お姉様たちとの過去を振り返る。

あれほどまでに自分を必要としていた。

しかし、それは全て道具として必要だったからであり彼女自体を求めているような素振りはなかったと過去の記憶を振り返ってそう感じた。

それでも信じたくはなかった。

うわ言のように言葉を繰り返す鞭野瑪瑙を尻目にしびれを切らした彼女は怒りの形相になりながら舌打ちをする。


「…うっぜ」


その言葉と共に鞭野瑪瑙の方へと近づいていきその小さな体。

胴体に向けて握りこぶしで思いっきり腹部を殴った。

腹部を殴られてくの字と折れ曲がる鞭野瑪瑙。

膝をついて両手でお腹を押さえる。


「ひぎっ…な、んで…」


口から大量に唾液が分泌される。

胃の中に入った早朝に食べたものと遠崎識人の体液を嘔吐してしまいそうだった。

鞭野瑪瑙の疑問に彼女は気分が多少は晴れたかのように爽やかな表情をしていた。


「はあぁぁ…あの、鞭野さんをぶん殴る事が出来るのって、とっても気持ち良いですねぇ…」


嬉しそうに彼女はそう言った。

鞭野瑪瑙によって体を売る羽目になった彼女。

鞭野瑪瑙に対する恨みは誰よりも深かった。


「安心して下さい、顔は殴りませんよ?教師の方に追及されるのも面倒ですし…何よりも、商品になりませんので」


今度はこちらが自分が今まで受けてきた辱めを返す番だった。

先ほどまで校舎裏近くで人が来ないか見張りをしていた男子生徒たちに呼びかける。


「出て来ても良いですよ」


そう言うとゲスな表情を浮かべる男子生徒たちが顔を出した。

彼らの顔には見覚えがある。

お姉様の近くでボディーガードをしていた男子生徒だった。


「な…お姉様の、付き人…どうして」


グループのほとんどにはボディガードを貸し出している。

しかし、鞭野瑪瑙にだけはボディーガードはつかなかった。

重要度が低いからだとお姉様は言っていたが。

なぜ彼女にボディーガードがついているのか分からなかった。

「知らないんですか?お姉様は、使える人間には相応の待遇をしてくれるのです、お下がりとして、私専用の付き人を用意してくれたんですよ」


そのように言った。

まさか自分よりも彼女の方がグループにいた頃よりも立場が上の存在だと言うのだろうか。

そうであれば自分が懸命に尽くしてきたのは何だったのだろうか。

自問自答してしまう鞭野瑪瑙。

だが今はそんな事をしている場合ではなかった。

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