解体本能
佐々井 サイジ
第1話
あのとき、急に思い出したんだ。自分の小学生のときにやっていたことを。思い出に全く残らなかった記憶。それほど何の感情もなくやっていたんだろうな。でも俺は好きだった。間違いなく好きでやっていたんだよ。本当に好きなことってのは、やってるときに感情が湧かねえんだと思うよ。わかるか? それをやったあと、やりきったあとからじわじわと身体の奥底から喜びが噴き出してくるもんだ。
小学五年生の頃だった。当時は二階建てのアパートに住んでいたんだ。外壁がピンクと青のタイルで覆われていて、友達からよく「トイレみたいだなお前の家」ってからかわれていたよ。俺は昆虫とか爬虫類とか、小さい生き物が好きで狭いベランダにはずらりと虫かごが並べてあったよ。特にカマキリとカナヘビ、トカゲが好きでな。餌がどれもバッタを食うから近くの林に餌撮りに行ってたんだ。カナヘビとトカゲは違う種類なんだぜ。カナヘビってのは撫でるとざらざらするんだけど、トカゲはつるつるなんだよ。見た目も光沢がある。まあそんなことはどうだっていい。
バッタは種類によって捕まえやすいものと捕まえにくいものがいる。ショウリョウバッタは捕まえやすいがカマキリの好みじゃねえんだ。これは正式なものじゃねえ。あくまで俺の所感、経験から得たものだ。カマキリはイナゴやツユムシが好みだったんだ。特にツユムシへの食らいつきが良くってな。ツユムシの体が柔らかいのもあってカマが食い込みやすいんだ。
ただカマキリにキリギリスみたいな強力なアゴを持つバッタ類を餌にするとあぶねえんだ。キリギリスは体も大きくてカマで捕まえたとしても暴れて逃れることがある。逃げるだけならまだいいが、キリギリスのあご付近にカマがあれば食いちぎってしまう。そうなったらカマキリのカマは使いもんにならなくなっちまう。そしたら片方のカマだけで獲物を取らなきゃいけねえんだ。片方だけだと逃げられる確率も高くなって、食える機会が減る。そしたらもうカマキリは弱っちまって死んでしまう。一度、弱ったカマキリをキリギリスが捕食していたことがあったよ。
だから飼っている生き物によって与えるものが違うからエサ取りはいつも苦労したよ。あるとき、気になったんだ。それはカマキリがツユムシの頸椎に噛みついて頭がグラグラしてたときだ。すぐにカマキリは首を噛みちぎって頭部が虫かごの底に落ちた。バッタの頭を引っ張ったらどうなるんだろうって思ったんだ。
エサ取りのとき、一匹目にショウリョウバッタを捕まえた。ショウリョウバッタは一匹無駄にしてもうじゃうじゃいる。俺は頭をつまんで引っ張ったんだ。そしたらわずかな力で頭がちぎれて体の中から黒く長いものが飛び出してきた。きっと内臓の何かだったんだろうが、バッタの体内がこんなになってるなんて知らなくてよ。それをきっかけにカブトムシやカマキリ、ペット以外の昆虫の頭を引っ張るのに夢中になった。頭だけでなく腹を切ってみたり花火であぶってみたりとにかく実験してみた。
虫は実験すればもれなく死んでいく。頭を引きちぎられて生きている虫なんかいない。ただ、わずかな時間だけ、肢が動くんだ。それが不思議でな。小学生の頃は夢中になって実験してた。
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