その世界に落ちた物語
二条タカネ
滅び忘れ、捨てられた世界
プロローグ
いつもと変わらない家、いつも見ている風景、いつもの道、自転車を漕ぎ職場へと向かう、変わり映えのない、いつもの光景。
そんな日常に、突如猛スピードで突っ込んで来た大型トラック………
思い出せる。自分が死んだ、あの日、あの時の瞬間が………
「……………で、ここはどこだ?」
目覚めた時、一面が水に覆われ、世界の風景を鏡のように映し出した、とても幻想的な場所に立っていた。
空を見上げてみると、そこには見たことのない鳥が群れを成して飛び、雲の向こう側にはクジラのような大きな生き物がゆったりと空を飛空していた。
もしかして、ここがあの世?っと思ったが、そんな感じはしない。
夢の世界? でもそれも違うような、これは夢じゃないと感じる。
どこなんだろう、ここは?
ピチャッ
「っ!」
突然背後から水音が聞こえ、驚きながら後ろに振り返る。
するとそこにはボロ布で全身を覆った一人の〝少女〟が立っていた。
いつからそこにいた?
さっきまで周りを見ていたが、誰かがいた覚えはない。
「えっと、君は?」
「…………………………」
尋ねてみるが〝少女〟は無言のままで、少しするとこちらに近づいて来た。
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、水の上を音を立てて歩きながら〝少女〟は止まることなく目の前まで歩み寄って来て、目線を合わせるように上げて口を開く。
しかしどういうわけか〝少女〟の声が聞こえることはなく、うん?っと首を傾げる。
ワザと声を出していないのかと最初は思ったが、〝少女〟の口の動きからそれはないと思った。
暫くすると〝少女〟はこちらが声を聞こえていないことに気づき、途端にがっかりするように肩をすくめ、小さく息を吐いた。
「ん?」
その仕草にまた首を傾げ、一体なんだったのか〝少女〟に尋ねようとすると、〝少女〟は再び目線を上げて、また口を開き話し出した。
しかしそれも聞くことができず、何を言っているのかわからなかった。
ただ、今度は〝少女〟の口の動きがよく見えたため、何を言っているのか、なんとなくはわかった。
『そうか、お兄さんも違うんだね』
そう、言っているような気がした。
「っ?!」
次の瞬間、体から力が抜け後ろ向きに倒れたと思った瞬間、先程まで立っていた水の上とは真逆に水中に沈んでいた。
突然のことに驚き水面に上がろうとするが、全く体に力が入らず、どころか意識がだんだんと薄れていき、瞼が重くなっていく。
意識が薄れていくのに抗えず、意識を手放す限界手前まで達した時、水上からこちらを見下ろす〝少女〟と目が合った。
見下ろす形になったことで、ボロ布で隠れていた顔が見えたようだ。
しかし、何故だろう?
別にそういう分野に詳しいわけでも、得意なわけでもない。なのに何故だろう?
その〝少女〟の瞳が、泣いているように見えた気がした………
◆◆◆***◆◆◆
「………ぅん」
頬を撫でるように吹き付ける微風と体を触れるチクチクとした心地よい感触に意識が目覚め、閉じていた瞼を薄く開く。
すると視界一杯に広がる青と白いモコモコとしたモノが映り込む。それが空と雲であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
「………ここは?」
体を起こし辺りを見回す。
そこは見渡す限りの広大な草原の一角で、至る所に遺跡のような物があった。
立ち上がって遺跡らしき建物に触れてみる。見た目通り石造りの建築物で表面がザラザラしていた。しかし同時に石とは違う、とてもツルツルとした別の材質も含まれていた。
なんだか夢のような体験に好奇心が湧き、他の遺跡にも触れてみる。
「………て、夢?」
そこでふと、何か引っ掛かりを覚えた。
なんだか目覚める前に、何かがあったような気がする。
確か大型のトラックに轢かれて死んで、それから………なんだっけ?
そこから先が思い出せず、記憶にモヤがかかったように薄れていた。
なんだったっけ?
「まあいいか」
気にはなるが別にいいかと、いつもの癖で考えるのをやめ、草原を歩いて行く。
少し先まで行くと横に長く伸び、まるでゲートのように建てられた遺跡を見つけ、試しに潜ってみると、その先には絶景が広がっていた。
「すごい………」
ゲートを超えた先、そこにはとても広大に広がる大地が続いており、ここにあるものよりも大きな遺跡らしき物が沢山あった。
空を見渡せば見たことのない鳥達が群れを成し、ゆうゆうと空を飛んでいた。
「はははっ」
気がつくと笑いが溢れ、遺跡を出て見つめる絶景の場所を目指し、駆け出していた。
その世界に落ちた物語 二条タカネ @barubana
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