第132話 孤島の探査

クリスやマリウス達が乗る大型船はゲイルズ沖での海戦の際に北へ進路をとったが、北の大陸へ向かうのであれば、本来はハルザンドの港から進む必要がある。つまりクリス達は未調査の海域を進んでいる事になる。海流によって思わぬ方向へと流されたり、海面下に隠れた浅瀬で座礁する可能性は十分にあった。怪鳥の存在もこれまで聞いた事がない。


船が航行を再開してから数日経った頃、行手に大きな島が見えてきたと船員がクリスに報告した。


「あの島は海図に載ってないわね。かなり遠くに流されたのかしら。」


「そうですね。日数的には北の大陸が見えてきても良い筈ですが、未だ見えないとなると、おそらく東側にかなり流されたのだと思われます。」


「あの島は無視して西または北西に進路をとるべきなの?」


「物資が、特に真水の残りが心許ないので、あの島に停泊して補給するという手もあります。但し、あの島が怪鳥の棲家である可能性も考えられます。」


「このまま漂流して大陸に着く前に物資が不足するとお手上げね。危険だけど島に上陸しましょう。周囲に注意を払いながら停泊に適した場所を探してちょうだい。」


クリスの指示で船は島の沿岸部に停泊し、クリスとマリウスが10名ほどの神殿騎士と共に上陸艇に乗り換えて島へと向かっていった。大型船では船内から大型弩弓バリスタを運び出して船上に設置していた。波の比較的穏やかな沿岸部であればある程度の精度で使える可能性があり、怪鳥を仕留めるのは難しいだろうが、追い払う事は出来るかも知れない。


この頃にはジゼルも意識を取り戻していたが、念の為に船内で安静にしていた。


ーーーーーーーーーー


島に上陸したクリス達は二手に分かれて探索を開始した。一方はクリスが、もう一方はマリウスが率いている。上陸地点には僅かに砂浜があるものの、そこから先は壁の様に岩がそびえている。その岩には所々横穴があり、クリス達はその中の一番大きいと思われる横穴へと入って行った。マリウスはクリスと別れ、上陸地点の安全確保と、その周囲の探索を開始した。クリスの探索期間は最大5日間とし、それを過ぎた場合は一旦船へと戻ると決めた。


クリス達が長い横穴を過ぎると、そこは深い森だった。南の大陸では見かけない植生、木々はいずれも巨大で、生い茂った枝葉が陽の光を遮り、地面は暗く泥濘ぬかるんでいる。獣道があり、足跡からはそれほど大きな獣が通った跡ではないと分かる。クリス達は沼地を避け、時には倒れた大木を乗り越えて、奥へ奥へと進んだ。


「今のところは単なる深い森ね。人の気配は感じられないわ。沼があるんだから水はあるのよね。どこか高台に登って周囲を確認したいわね。」


「先ほどの沼はかなり濁ってました。我々神殿騎士は森林や山岳地帯での訓練を受けておりませんので、あれが飲み水として使えるか判断できません。綺麗な湧き水か川を探しましょう。あっ、左手に上り坂の様な場所が見えました。」


「ちょうど良いわね。そちらへ行ってみましょう。」


クリス達は左手に進み、坂を登り始めた。長く急な坂だが、登るに従って草木は減り、周囲の見通しが良くなってきた。この辺りはおそらく未だ島の外周部で、島全体を低めの山が囲み、その内側は窪んで森林地帯となっている。島の中心部だけは大きな山となっているが、かなりの高さなのだろう、山頂部分が雲に隠れている。


「クリス団長、囲まれています。」


同行していた神殿騎士がクリスに告げた。見渡すと確かに人影が見える。周囲の岩陰や草むらに潜んでいたのだろう。その後も人影は増えていき、20名程になってクリス達を囲んだ。葉を編んだと思われる衣装、肌の露出が多く、その肌や顔に泥か何かで文様を描いている。未開人、それが第一印象だった。


「あ〜、言葉が通じるかしら。私達は戦いに来たんじゃないの。そちらの代表者と話をさせて欲しいだけなのよ。」


未開人達はクリスの言葉には応えず、片刃の湾曲刀や粗末な弓を構えながら徐々に距離を縮めてきた。

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