第130話 怪鳥の襲撃
ジゼルがスーベニアに保護されて以降、痩せ衰えていたジゼルの体は復調し、同時にジュードだった記憶を徐々に取り戻している。ある程度まで体を動かせる様になってからは紋章の訓練が始められ、その訓練はスーベニアを脱出してからも船上で続けられていた。
「ジゼル君、もう体の方は大丈夫そうだね。」
「はい、体は大丈夫です。だけど、ジュードの記憶が以前より戻って、自分がジゼルなのかジュードなのか...なんだか少し変な感じです。」
「記憶が戻ってきているのは良い事だと思う。元々は1つの人格なんだし、最終的には完全に融合するんじゃないかな。そろそろジュード様とお呼びすべきだろうか?」
「やめて下さい。ジゼルのままでお願いします。」
「分かったよ。」
船上では、勇者の紋章の訓練だけでなく、弓矢と魔術も並行して訓練していた。特に弓矢はスーベニア大聖堂に保管されていた神装具があり、これを使いこなせれば、遠距離攻撃の手段がない勇者の新たな武器になると期待されていた。隠者であるマリウスもジゼルと共に弓矢と魔術を訓練している。2人ともどうにか魔術の矢を放てる様になったところだが、紋章の精霊と出会えておらず、まだ弓の神装具を試した事はない。
「マリウスさんは魔術の扱いが洗練されてますね。僕は矢の形にするのがやっとです。」
「子供の頃から訓練してるからさ。でも弓矢の方はまだまだ。ジゼル君の方が上達してると思うよ。やはりジュード様の戦闘経験を引き継いでいるからだろうか。」
「そうなんだろうと思います。剣も槍も、僕は習った事などないのに、自然と体が動くんです。ジュードの時に弓矢を使った記憶はありませんが、弓を構えると集中力が増すというか、落ち着いてくるんです。」
「興味深いね。また今度...」
「たっ、大変だ。巨大な鳥が5羽、こちらに向かってます。」
見張り台にいた船員が叫んだ。
「鳥人族ですか?」
「違います。人型ではありません。見た事がない怪鳥です。」
船員が指差す方向に目を凝らすと、確かに鳥の様なものが見える。こちらへ向かっているのも確かな様だ。マリウスが指示を出す。
「総員、戦闘体制に付いて下さい。弓と魔術で迎撃します。それ以外の方々は船内に避難して下さい。」
マリウスの指示で神殿騎士達が直ぐに配置に付いた。
「ジゼル君。君には実戦は未だ早いから船内に避難してくれるかな?」
「分かりました。」
ーーーーーーーーーー
怪鳥は船の上空に来ると
「全方位警戒、方陣を組め。」
クリスの指示で神殿騎士達は直ぐに陣形を整える。そこに3羽目の怪鳥が飛来したが、神殿騎士が矢や魔術を向かってくるその怪鳥に放ったので、怪鳥は何もせずに再び上空へと飛び上がった。何本かの矢が刺さった筈だが、怪鳥の動きに変化はない。5羽の怪鳥は暫く上空を旋回していたが、その内の2羽がそれぞれ別の方向から降下してきた。神殿騎士達が矢や魔術を放つが、怪鳥は今度は避けずに真っ直ぐと向かって来ている。
「僕がやります。」
そう言い終わると、船内に逃げていた筈のジゼルが1羽の怪鳥に向けて魔術の矢を放った。その矢は周囲の者が驚く程の速さで怪鳥に向けて飛び、怪鳥の翼の付け根部分を貫通し、翼を射抜かれた怪鳥は体制を崩して海へと落下していった。ジゼルはもう1羽の怪鳥に向けて矢を放つ。しかし1羽目が落とされた事でその怪鳥は回避行動に移っていたので、ジゼルが放った矢は空を切っただけだった。
「ジゼル君...なぜ君がそれを...」
クリスとマリウスがジゼルを見る。ジゼルを覆う光、その中で胸の紋章が一際強く輝いている。そしてその手には船内で保管していた弓の神装具があった。
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