第128話 東廻り航路を北へ

スーベニアの大聖堂は周辺の街は3日3晩、燃え続けた。火が消えてもその熱は残り、連邦軍は容易に近寄る事が出来なかった。街外れには火災で焼け出された町民や宗教関係者が避難していたが、フーゲルやキースが探す紋章持ちや重要人物の姿は避難民の中にはいなかった。火災による熱が冷めて連邦軍が焼け跡の捜索を開始すると、大聖堂の跡地に多くの人々が重なり合う様に死んでいるのが発見された。かろうじて教皇だけは判別できたが、それ以外は誰なのか判別する事が難しかった。


「くそっ、誰が火を付けたんだ。教皇本人もその印章も抑える事が出来なかった。これでは統一教の奴等に命令する事が出来ないじゃないか。それに神装具に使われている鉱石や神樹には期待してたんだぞ。手に入らなければ俺の武器開発に遅れが出る。」


「荒れるなよキース。たぶん教会の奴等が自分で火を放ったのだろう。そうでなければ、これほど燃え広がる事はない筈だ。奴等は殉教者にでもなったつもりだろうが、無茶苦茶しやがる。これだから宗教ってのは厄介だ。まあ、本部が無くなれば、各国の教会は大人しくなる。神装具の材料は焼け跡から探すしかない。」


「は〜ぁ、面倒だな。ところで、勇者と隠者はどうなったと思う?」


「焼け死んでくれていた方が楽だが、この状況では確認できないな。」


この時、彼等が素早く周辺調査や避難民の聞き取りをしていれば船でスーベニアを脱出した者達がいる事を早い段階で知る事が出来ただろう。しかしフーゲルとキースは大聖堂の焼け跡の調査に没頭し、また連邦軍の司令官は2人から指示が出るまで敢えて周辺調査などを行わなかった。彼等が船での脱出を知ったのは随分と後になってからだった。


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スーベニアを脱出したマリウス達は隣国のカーマインを目指していた。但し、日中に近海を航行すると発見される恐れがある。日中は大陸側から見えない島影に隠れ、危険なのを承知で夜間に航行した。月明かりだけを頼りに航行すること15日間、漸くカーマイン沖の小島に停泊する味方の小型船と合流した。小型船から数名を乗せたボートが近付き、大型船に乗り込んできた。


「無事に到着されて良かった。スーベニアからカーマイン教会を経由して指示を受けています。カーマイン教会でお預かりする方々はあちらの小型船に乗船して下さい。カーマイン王国より許可を受けている船ですので、疑われる事なくカーマインへ入国出来ます。」


「ありがとうございます。私がマリウス、隣の女性がクリス団長です。カーマインで下船する人達は隣の中型船に乗っていますので、そちらで乗換え作業を始めて下さい。ところで、連邦軍の動きはどうなっているでしょうか?」


「連邦に潜り込んでいる内通者によれば、連邦軍はスーベニアに留まって大聖堂周辺を捜索しています。船での脱出には気がついていない様です。カーマイン国内も連邦側に動きはありません。」


「内通者のその情報は何日前のものかしら。」


「昨日、早馬で受け取った情報ですが、スーベニアとカーマインの距離を考えると5日遅れです。今頃は船での脱出に気付いて追手が出されているかも知れません。」


「あちらは軍を動かすのだからカーマインへは20日以上、ここで下船する人達が無事に入国さえ出来れば、身を隠す時間は十分にあるわね。ゲイルズで下船する人達も入国さえ出来れば大丈夫だと思うわ。気にすべきはハルザンドに駐留している連邦海軍、そっちはスーベニアから早馬で連絡を受ければ直ぐに近づいて来るでしょうね。」


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カーマインを出てから15日後にゲイルズ沖の小島で味方の小型船と合流し、ここで下船する人達の小型船へと乗り換えと、食料や水の物資補給を行った。その際に得た情報によると、連邦側が船での脱出に気付き、ハルザンドの海軍に出撃命令が出ていた。ハルザンドからゲイルズまでは船で10〜15日間。出撃命令が出たのは10日前だと言うので、いつ海軍が現れてもおかしくない状況だった。

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