第38話 バラモス派の企て
ジーク・カイン・イェルガ・シンシアの四人、それにミケを加えて、改めてミケから聞いた話を整理した。
魔人とジーク達が呼んでいる存在は、元はバラモス派の信者だった。彼らは当初、ヴァルベルトが持つ怯者の力で紋章の全てを集めて神界への入り口を開くつもりだった。本当にそれが可能なのかどうかはさて置き、バラモス派はそれが出来ると信じていた。しかしヴァルベルトが討たれて彼らの企ては頓挫した。次にバラモス派が考えたのは、下界=つまりジーク達が住むこの世界に神を顕現させる事だった。神界へ行けないのならば、神に来て頂くしかない。神がこの世界に現れれば全ての人間が救われるだろうと。
そのバラモス派の企てに神界の魔神が介入した。魔神は神界に住む神々の一柱で、魔=下界の自然法則を捻じ曲げる力、つまり魔術や呪いなどを司る。しかし下界では一部の紋章の力を除けば魔術に類するものは存在しない。よって魔神を崇める者もいない。それを変える為に魔神が自ら下界へ赴き、自身の超常の力で下界を支配しようとした。そしてその手段として、神を顕現させる術と偽って、人間を魔神の手先となる魔人へ変える術をバラモス派に与えた。バラモス派はそれを信じてしまった。
魔人と化したバラモス派は魔神の指示に従い、魔神の依代となる下界での肉体の作成と、その作成に必要な贄の収集を始めた。その贄というのが魔獣によって殺された人々の魂だった。依代の作成、魔獣の群れの発生、それらも魔神から与えられた術だった。大きく黒い影は、魔神の依代の試作品で、魔神が直接操るが故にその肉体は神性を帯び、普通の攻撃は効果がない。神性を帯びた存在に攻撃を届かせ得るのは勇者だけだった。
紋章とは、神界に住む神々が下界の人間に対して特別な力を与える為の手段で、魂が新たな肉体に宿る=人間が産まれる際に与えられる。紋章の精霊はその特別な力を与える為の謂わば印で、精霊が魂と同化する事でその人間は神から与えられた力を発揮でき、同化していた魂が滅すれば=死亡すれば精霊は神界へ戻る。なぜ力を与えるのか、どのタイミングで誰に与えるのかは、それこそ神のみぞ知る、だった。
「勘違いしないで欲しいのは、魔神の存在自体は悪じゃないよ。他の神々を出し抜いて下界を支配しようとしたが故に悪なんだ。」
ミケは補足してくれたが、話は理解すれど、腹落ちはしなかった。現時点で真偽を確かめようがない。それに、魔神が悪かどうか以前に、この突拍子もない話を誰が信じるだろうか。普通の人々にすれば、神界の存在ですら神話の中の話で、そこに複数の神が存在するとか、神々が紋章を与えているとか、そして魔神がこの世界を支配しようとしているとか、いずれも容易に受け入れられる話ではない。ジーク達にしても、目の前にミケがいなければ、妄想・空想の類いだと切り捨てたかも知れない。
「いずれにせよ、魔人の企みは止めねばならない。」
それが結論だった。魔人がバラモス派の信者かどうかに関係なく、背後に魔神がいるかどうかに関係なく、魔獣の被害を止める、そして魔人は討伐する、それだけだった。ジーク達はミケの話を直ぐには公表せず、時期を見て、差し障りのない範囲に絞って公表する事とし、当面は魔人討伐を継続する事にした。
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