第34話 魔獣討伐作戦
魔獣の襲撃が数日おきに場所を移動しながら発生する事、その発生に人型の魔獣が関与していると考えられる事はアルムヘイグ王国から周辺国へ伝えられた。人型の魔獣...魔人と呼ばれる事に決まったが、魔人について把握しているのはアルムヘイグだけだった様で、この情報を受け取った各国でその捜索が始まった。
ジョルジアでは、スーベニア神聖国から戻ったジークとシンシア、ハルザンドから来ていたイェルシア、アルムヘイグから来たカイン、その他の国から国軍の軍団長クラス、それぞれの補佐官が集まって会議をしていた。会議の目的は魔獣に関する情報共有と今後の魔獣討伐に向けた協力体制の取り決めだった。
まず始めに大陸地図に魔獣発生地点とその日付が記入された。この時代の地図は各国にとって戦略上の機密情報であり、本来は国外の人間に見せるものではない。その為、この会議では大まかな国境線と主要都市だけを記載した地図が使われたので、正確性は欠いたが、魔獣発生地点を日付順にプロットすれば、カインが主張する通り数日おきに発生地点が移動していると確認できた。そして日付を遡っていけば、魔獣発生が旧ゲイルズカーマイン帝国の北西、現在のライドル共和国という小国の辺りに辿り着く事も分かった。おそらくライドル周辺の何処かに魔人の拠点があり、そこから魔人が大陸の四方へ移動し、魔獣を発生させていると考えられた。
ライドル共和国はゲイルズカーマイン帝国の解体に伴って復活した国で、東は新ゲイルズ王国と、西はハルザンドやジョルジアと国境を接している。ゲイルズカーマインに併合される前は王政であったが、既に王統は途絶え、現在は国内にある都市国家の連合という色合いが強い。そうした政治体制であるが故に、中央政府の権限は弱く、各都市の自主性に委ねられる事が多い。魔獣への対応も都市毎で異なり、会議に参加していたライドルの代表者は国内状況を把握しきれていなかった。
「各国で協力してライドル周辺の調査を進めよう。」
このジークの提案にライドルからの代表は強硬に反対したが、各国の強い意見に押され、最終的に同意した。併合された過去があるライドルとしては他国の兵を自国に入れたくはない、自国だけで調査したかっただろうが、中央政権の権限が弱いライドルで十分な調査が出来る保証はなく、また魔人の拠点が発見された場合にライドル国軍だけで対処できる保証もなかった。ましてライドルは原因と思しき魔人の存在を見逃していた。既に他国の被害が発生している以上、ライドル側は拒否する立場になかった。但し、ライドル側の不安へある程度は配慮する必要があり、ライドル国内への兵の派遣は最少人員とし、常にライドル国軍が同行する事に決まった。
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その後も会議が続き、ライドルの調査にはジークを中心とした先鋭が、大陸内を移動していると思われる魔人の追跡と討伐はカインとイェルガを中心とした2つの部隊が受け持つ事に決まった。イェルシアは後方支援と各国間の調整役を任された。各国の国軍は従来通り魔獣の襲撃に備える事とし、カインとイェルガの部隊が国境を超える際の手続きの簡素化と、魔獣発見の際の情報伝達についても取り決めた。
「ライドルでは私の聖者の力が必要です。」
会議が終わろうとしていた時のシンシアの突然の発言に多くの参加者が驚いたが、カインとイェルシアは予想していた様子だった。魔人の拠点では何が起きるか分からない。聖者の治癒の力があれば助かるのは確かだった。また魔に魅せられた存在が魔獣であるなら聖なる力で対抗できるかも知れない。その可能性をカインとイェルシアが指摘した。しかし戦闘力のないシンシアの同行は危険が伴う。ジークは反対したが、シンシアの覚悟を覆す事ができなかった。結局はシンシアがジークに同行する事で決着した。
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