広い部屋の中央に卵の様な物体が置かれている。物体は人の背丈の何倍もあり、表面は濡れた肉壁で覆われており、その周囲を血管の様なものが格子状に幾筋も這っている。よく見れば肉壁も血管も僅かに動いて、その物体が生物である事が分かるが、こんな生物を誰も知らない。物体の周囲は石造りの祭壇の様で、その祭壇の周囲では松明が灯され、その淡い光が物体を照らす。部屋の周囲の壁面は岩肌が露出し、ここが地下の空洞かあるいは洞窟の中を広げて作った空間である事を示していた。部屋の湿度は高く、岩壁からは水滴が滴り落ちていた。

時折、卵の様な物体は内側から赤紫色に光り、その光は物体の中に巣食う何かを浮かび上がらせるが、光は弱く、中に何がいるのかは判別できない。何かがいる。分かるのはそれだけだった。

祭壇では数名の人間が動き回り何かの作業をしている。祭壇の周りには広い平な空間があり、そこに大勢の人間が座り、物体に向けて祈りを捧げている。

「まだまだ贄が足りないよぉ。」

何処かから声がして、部屋中に響き渡る。それを聞いてか、祭壇の周りで何か作業をしていた、または祈りを捧げていた集団が一斉に動きを止める。一瞬の静寂の後、祈りを捧げていた集団から数名の男達が離れ、出口へと向かう。男達が部屋から出ていくのを見届けてから、残った集団はまた作業や祈りを続けた。

部屋から出た男達は、マントを羽織り、屋外へと出た。外は新月で、星明かりだけの暗い中を男達は進む。男達の眼は赤く光っていた。