弾撃の魔術師 ~魔法を弾く魔法使い~
カタナヅキ
第1話 約束
「――残念ながら貴方の退学が決まりました」
「……やっぱりやり過ぎました?」
「やり過ぎです!!いくら相手が悪いと言っても、三人とも今だに目覚めないほどの重体なんですよ!!」
魔術師を目指す少年「レイト」は魔法学園の学園長である「アリア」の言葉にばつが悪い表情を浮かべた。レイトは十五歳の少年であり、東方の国の出身で黒髪黒目が特徴的の子供だった。アリアは外見は二十代後半の美しい女性だが、今はその美しい顔が歪むほどに激怒していた。
レイトは魔法学園の一年生であり、先日に昇級試験に合格して来年は二年生に上がれることは決まっていた。だが、入学してから半年を迎えた頃、とある問題を引き起こして学園長のアリアから呼び出されて退学を言い渡される。実を言えば今回の事件の他にもレイトは何度か問題を起こして呼び出しを受けていた。
「はあっ……あなたの性格は把握していましたが、もう少し何とかならなかったのですか」
「でも、先に仕掛けたのはあの連中なんですよ!?」
「知っていますよ。同級生を救うために貴方が戦ったと聞いてます。ですが、あなたならば相手も自分も傷つかずに穏便に済ませることもできたでしょう?」
「そ、それは……」
少し前にレイトは同級生が上級生に絡まれている場面に遭遇し、助けようとしたところ上級生と口論になり、激高した相手が魔法を繰り出した。そこまでは上級生が悪いのだが、レイトは自分と同級生を守るために相手の魔法を防ぐだけではなく、大怪我を負わせてしまった。
「あれはあいつらも悪いんですよ!!」
「ええ、分かってます。ですが、あなたは自分の覚えた魔法を試すために実験台に利用しましたね」
「そ、そんなことは……」
「誤魔化しても無駄です。守るだけならともかく、あなたは上級生を利用して自分の力を計ろうとした。そして他の生徒も巻き込まれてしまったんですよ」
「それは……すいませんでした」
相手が先に仕掛けたとはいえ、レイトの魔法で複数の生徒が怪我を負い、無関係の生徒も何人か被害を被った。いくら相手が先に仕掛けたからといっても怪我をさせたのは問題であり、しかも無関係の人間まで迷惑をかけたのはアリアも見過ごせなかった。
「前にも言ったはずです。次に問題を起こせばあなたを退学にすると……あなたほどの優秀な生徒を失うのは惜しいですが、約束は約束です」
「で、でも俺は!!」
「これ以上に貴方が何を言おうと退学は決定事項です。杖を置いて退室しなさい」
「っ……!?」
魔術師にとって杖とは魔法を発現するために必要不可欠な道具であり、魔法学園の生徒は学園から支給された杖しか持ち歩くことを許されていない。魔術師の杖は簡単に手に入る代物ではなく、これを手放せばレイトは魔術師を目指す事はできない。
「言い訳があるのならば聞きますが、何かありますか?」
「……いえ、ありません。今までお世話になりました」
自分だけが退学されることにレイトは理不尽だと思わなくもないが、彼としても自分の魔法で人を傷つけたのは初めての経験であり、同様のあまりに言い訳をする余裕もなかった。レイトは腰に差していた杖を机の上に置くと、学園長に頭を下げて部屋を体質した。去っていく彼の見送った後、アリアは両手で顔を覆った。
(どうしてもっと上手く助けなかったのですか……)
学園長として将来有望な生徒を退学させるのは心苦しいが、学園の規律を守るためにはどんなに優秀な生徒であろうとも罰せねばならない。無論、下級生を脅迫していた上級生達も相応の罰を与えるつもりだが、一番重い罪を受けるのは魔法を使用したレイトである事に変わりなかった――
――退学が決まった生徒は学生寮から退去せねばならず、レイトは荷物をまとめると学校から出ていこうとした。だが、学校を出る前にレイトが助けた同級生の生徒が駆けつけてきた。
「待って!!レイト君!!」
「君はあの時の……」
レイトが救った生徒は女子であり、一年生の間では悪い意味で有名な生徒だった。彼女の名前は「ハルナ」一年生の中でも成績は悪く、未だに昇級試験が一度も受かっていない生徒である。
魔法学園では年に数回試験が行われ、一年生の場合は一度でも試験に合格しなければ二年生に昇級できない。ハルナは今のところは全ての試験に落ちており、他の生徒からは劣等生として扱われていた。
ちなみにハルナの容姿は桃色の髪の毛を肩まで伸ばしており、他の女子生徒と比べても端正に整った顔立ちをしており、体型も大きな胸が特徴的で男子生徒の人気も高い。上級生が彼女に絡んできた理由は肉体が目的なのは明らかであり、偶々通りかかったレイトが助けなければ今頃はどうなっていたか分からない。
(この子を助けなかったら……いや、今更何を言ってんだよ。悪いのは自分の力を試そうとした俺だろ)
ハルナを助けようとしなければ自分は今も学園の生徒として残れたのかと考えてしまうが、今更そんな事を考えてもどうしようもなく、それに結果的に魔法で相手を必要以上に傷つけたのはレイトである。自分の過ちを他人のせいにしようとする考え方に罪悪感を抱いたレイトは優しく声をかける。
「ハルナさん、頑張りなよ。俺の分まで立派な魔術師になりなよ」
「えっ!?それってまさか……退学の噂は本当だったの?」
「うん、杖もさっき渡してきたよ」
「そ、そんな!?」
自分を助けたせいでレイトが退学になると知ってハルナは涙ぐむが、そんな彼女に笑いかける。
「俺の事は気にしなくていいよ」
「そんなの無理だよ……わ、私が今からでも学園長に掛け合ってみる!!」
「もういいよ。でも、そうだな……もしも俺に対して悪いと思ってるのなら、一つだけお願い聞いてくれる?」
「え?わ、分かった!!何でも言って!!」
レイトの言葉にハルナは真剣の表情を浮かべ、自分にできる事ならばどんな願いでも叶えるつもりだった。
(さてと、何と言おうかな。この際だからエッチなお願いでも……って、それじゃあ
美少女と言っても過言ではない容姿のハルナを見ていてレイトは邪な感情を抱くが、肉体目当ての願い事などすれば彼女に絡んできた上級生と同じクズとなり下がり、真面目に考える事にした。
「そうだな。じゃあ、さっきも言ったけどハルナさんは俺の代わりに立派な魔術師になってよ」
「り、立派な魔術師って……?」
「とりあえず、次の試験に合格しないと昇級もできないんでしょ?だったらまずは試験に突破できるように頑張りなよ」
「う、うん!!」
一年生の間に行われる最後の昇級試験が迫っており、ハルナはこれに合格しなければ二年生へ上がる事はできない。レイトは彼女が試験に合格できるように発破をかけた。
(あ~あ、こんなに可愛い女の子にお願いできる
レイトはハルナの頭に手を伸ばすと、優しく頭をなでながら別れの言葉を告げた。
「もしも学園を卒業できるぐらいに優秀な魔術師になったら、俺に会いに来てよ」
「う、うん!!約束するよ!!私、立派な魔術師になってレイト君を迎えに行くから!!」
「あははっ、そこまで気負わなくていいよ」
まるでプロポーズのような言葉を告げるハルナにレイトは苦笑いを浮かべ、彼女と握手を行う。一年生の中でも成績が悪い彼女が魔法学園を卒業できる可能性は極めて低いと思うが、自分の分まで頑張ってほしいと思った。
ハルナに見送られながらレイトは学園を立ち去り、これから先の事を考えた。実を言えばレイトは両親の反対を押し切って魔法学園に入学しており、退学になってしまった以上は今更顔を合わせる事はできず、他に頼れる人もいないので困ってしまう。
(一応、下級魔法は覚えられたし……冒険者にでもなろうかな)
杖を失ってしまったレイトは魔術師を名乗る事はできないが、魔法使いとして生きていけるため、危険な仕事は多いが収入は期待できる職業といえば「冒険者」が真っ先に思いつき、レイトは家族の元に戻らずに冒険者の職に就く事にした。
「落ちぶれた魔術師は冒険者に就くことが多いとは授業で習ったけど、まさか自分がそうなる日が来るとはね……」
冒険者とは普通の動物とは異なる進化を遂げた「魔物」と呼ばれる危険生物に対抗するために生み出された職業であり、世間一般では冒険者は魔物退治の専門家として認識されているが、実際には魔物を無暗に仕留めるのではなく、生態系を乱す危険性が高い魔物だけを始末する。
魔物は野生動物とは比べ物にならない危険な力を誇り、そんな危険生物を相手にする冒険者は相応の実力を求められる。そこで魔法使いのような魔法の力を扱える存在は重宝され、魔法を駆使すれば大抵の魔物は簡単に始末できるため、魔術師になれなかった人間の大半は冒険者として活動する事が多い。
(冒険者は死亡率が高い分、高収入で俺のような子供でも一人で暮らせるだけの金は稼げるはず……まあ、魔物を退治できる実力があればの話だけど)
冒険者には年齢制限は存在せず、その代わりに難しい試験を受けなければならない。何の取柄もない子供が試験を受けても受かる確率は零に等しいが、魔法使いとなれば話は別である。レイトが家族の力を借りずに一人で生きていくとしたら、冒険者になる以外の選択肢はなかった。
(あ~あ、学園長みたいな立派な大魔導士になるために頑張ってきたんだけどな。まあ、俺としてはよく頑張った方かな)
学園を去る前にレイトは振り返り、最後の見納めとして魔法学園の校舎を記憶に刻む。この時に校門の前で腕を振るハルナの姿も確認し、彼女に手を振りながらレイトは別れの言葉を告げた。
「じゃあ、元気でね!!」
「ぐすっ……レイト君!!必ず約束は守るからね!!私の事を忘れないでね!!」
お互いに手を振りながら別れると、レイトは学園を立ち去り、ハルナは学校に引き返した。この時のレイトは気付かなかったが、後に学園内でも天才魔術師と呼ばれる少女の覚醒の切っ掛けを与えた事に――
――それから時は流れ、魔法学園を退学になった狩人は家に戻らずに山奥に存在する建物で暮らしていた。その場所には彼以外にも大勢の人間が二人一部屋で生活を送っていた。
「おい、起きろよ!!早朝訓練が始まるぞ!!」
「ふがっ……もうそんな時間か」
「たくっ、いつもは僕よりも早く起きるのに何してんだよ。遅刻したら連帯責任で飯抜きなんだから勘弁しろよ!!」
同部屋の人間に叩き起こされたレイトは頭を掻き、魔法学園で暮らしてた頃と比べてみすぼらしい格好をしていた。現在の彼は魔術師を目指す学生ではなく、冒険者になるための訓練生として活動していた。
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