第13話

 敵が一人とはいえ、こちらは手負いの藤十郎と倉田を抱えている。

 おまけに遠野は剣術などからきしで、とても右近の敵にはならぬ。

 このままでは四人揃って右近の刀の錆びになるだけである。

 せめて藤十郎と遠野だけでも先に行かせることができれば、望みがあるかもしれぬ。

 源之進は腹を括った。

(何としても、こいつを斬らねばならぬ)

 喩え、刺し違えても右近をここで仕留めるしか道はない。

「遠野、お前は藤十郎殿と行け。ここは私にまかせろ」

 遠野は頷いた。だが、右近がひらりと跳ねて、退路を断つが如く部屋の入り口に立った。

「勝手に決めてもらっては困るな。皆ここで死んでもらおう」

 源之進は熱気と汗で、じっとりと湿った掌に力を込めた。

「これ以上容赦はせぬ。右近、かかってこい」

 源之進の言葉に、右近が躍るように空を切りながら飛びかかった。右近が振り下ろした刀を己が刃で受けたまま「今のうちに早く行け」と源之進は叫んだ。

 遠野と藤十郎が部屋を出たのを確認すると、源之進は右近の刀を体ごと弾き飛ばした。

 だが、ひょいと身を翻した右近は体勢を崩すこともなく、にやりと笑った。

「源之進、隙だらけではないか。まあ、よい。あんな腰抜けどもよりお前と戯れる方が幾分楽しめそうだ。あいつらはお前を骸にした後、じっくりといたぶってやるわ」

 右近は残忍な笑みを浮かべると、再び剣を振り上げた。

 今度は真っ直ぐに源之進の喉笛を狙って突いてくる。

 躱したつもりの源之進だったが、頬に焼けるような痛みが走った。

 思わず苦痛に顔を歪める源之進を見て、右近は腹を抱えて笑い転げた。

「何と心地よい。まだまだ楽しませてもらうぞ」

 云うが早いが、斬りこんでくる。

 それを躱して源之進も刀を振るうが手応えはない。

 ひらりひらりと舞うように身を躱す右近を、源之進の刀はうまく捉えることができずにいた。

 焔は既に畳を這い、足元にまで来ている。

(くそっ。このままでは右近を仕留める前に倉田諸共、火だるまになってしまう)

 源之進は気が急いていたが、右近は火勢が増すことでいよいよ高揚するらしく、火の粉を巻き上げるたびに歓喜の声を上げた。

「狂っている……」

 倉田の言葉通り、もはや人とは思えない。

 めらめらと燃える焔に照らされて妖しげな笑みを湛える右近の姿はさながら夜叉のようであった。

 舞い上がった火の粉にほんの瞬刻、気を取られた源之進の右腕を右近の太刀が斬りつけた。

 飛び散った血の滴が畳に染みこんでいく。

 痛みを堪えて刀を持つ手に力を込めた源之進だったが、右近の刀に弾かれ、太刀は足元に転がった。

(もはや、これまでか)

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