第87話 日本での飛行訓練
俺の事務所の有るフロアは結構広く、広さのわりに人が少なかったので割と閑散としていたのだが、政府の出先機関が俺の事務所の隣にできてからは、人の出入りが多くなってきて今までのような閑散とした雰囲気が無くなった。
出入りする人達には身分証の提示が義務付けられているので、フロアにいる全員が胸のあたりに身分証を着けているが、知らない人が多くなってきた。
ほとんどの人は海賊興産の社員のようだが、政府役人、尤も怪しいダミー会社の身分証を着けているので、ちょっと不安にもなるが、全員が政府役人、外務省、経産省、それに国交省のどれかの役人のはずなので問題なさそうだが、本当に知らない人が多くなってきた。
まあ、俺の事務所周りが少々変わったくらいで俺の生活に変化など起こらない、いや、少しばかりの変化はあった。
新たに来た仲間のパイロット訓練がやっと始められる。
前に里中さんに面倒を見てもらい、ここからちょっとばかり遠いが茨城空港に併設されたところにある自動車メーカーの経営する飛行学校に通わせることになっている。
何故自動車メーカーが飛行学校を経営するかと云うと、この会社が自家用ジェットの開発販売をしているためだ。
自社の飛行機のためのパイロットも養成するために創られた学校だそうだ。
この会社は日本の国策に協力することもある会社で、政府へ色々と便宜も図っているのだとか。
里中さんや国家公安などのお役人のダミーにもこういった会社が協力しているとも聞いた。
尤も里中さんはこの会社関係ではないようだが。
いったいどんな会社を利用しているのか不明だが、スパイ映画を割と地で行くような生活をしていそうでちょっと格好いい。
話はそれたが、飛行学校が決まっても俺らには問題があった。
彼女たちの飛行学校が決まっても、通わせるのが大変だ。
なにせここから遠い。
羽根木から100Kmは越える距離にあり、高速を使っても1時間半はかかる。
それ以前に、俺らには車を持っていない。
買っても良いし、リースでも良いのだが、肝心の運転手に問題がある。
一応初期メンバー全員には自動車の免許は取らせたが、全員が初心者だ。
それに、10名以上にもなる人間に移動だと、ちょっと大きめな車が必要になる。
このような車の運転を初心者にさせるにはきつそうだ。
俺もやりたくはない。
どこかの会社に委託すればいいかと云うと、これもそう簡単にはいかない。
俺らが自家養成でパイロットを育てている理由と同じで、どこで敵対勢力の手が入るか分からない。
しかし、そんな問題も里中さんに解決してもらった。
里中さん達が使う例のバスを俺らが利用できるように便宜を図ってもらった。
里中さん達の事務所経費を俺らが肩代わりする代わりに、バスの件を快く引き受けてくれた。
ここから毎日でも茨城空港までバスを出してもらえることになった。
この件は里中さん達にも都合がいいとも聞いた。
秘密裏に移動するときに自衛隊を使うそうだが、基地までの移動が問題になるそうで、毎日パイロット養成のためのバスが出ていると、それに紛れ込むことができ、便利だとか。
そこまで気を遣うようなことってそうそう起きないような気がするが、里中さん曰く、割とあるという。
そんなスパイ映画さながらのことが頻繁に起こる世界って大丈夫か、日本の安全はと言いたい。
それと、聡子さんも仕事を始めることになった。
まずは、聡子さんのパイロット免許の更新だ。
俺らの使う機種での飛行ライセンスを取得してもらわないといけない。
彼女の飛行時間は問題ないので、俺らの使っている機種と同じ機種での習熟訓練をするだけだそうだ。
俺らの使っている機種はどこの国でも割とよく使われている自家用機の中では割と有名な機種で、日本の国交省や自衛隊でも使われている。
幸いなことに茨城基地でも同型の飛行機を運用しているそうで、今回それを使わせてもらえることになっている。
聡子さんはそれを使ってライセンスを取得することになる。
俺も、ほとんどの訓練を終え、残すところ機種別ライセンスの所得までこぎつけたところで、グアムの事件が起こった。
グアムでの訓練を中止して、俺も聡子さんと一緒に茨城空港で残りを取得することにしたので、今日は皆で茨城空港に向かう。
今回は俺らの初めての登校?になるので、バスには里中さんに藤村さんも同乗している。
また、エリカさんも今回は付いて来てもらった。
なので、バスのなかは賑やかだ。
女性たち10名のほかにかおりさんと尚子さん、それにエリカさんが俺らのメンバーに加え、里中さんに藤村さんと言ったメンバーで朝から空港に向かった。
都内で少し渋滞に巻き込まれたが2時間もかからずに空港横にある飛行学校建屋に着いた。
中の応接で、この学校の校長と、メーカーから来た飛行機部門の責任者というメーカー役員が待っていた。
里中さんが最初に彼らに挨拶をしていた。
「お待たせしました。
これから厄介になります、先輩」
おいおい、またここでも個人的な繋がりで仕事を頼んだのか。
それにしてもさすがは日本の名門校だ。
先輩後輩のつながりだけで、かなりのことができてしまう。
これは俺にも言えることかな。
「紹介します。
彼が俺らの後輩になる本郷直人君です。
彼はスレイマン王国貴族でもあり、此度の件もその関係で必要に迫られたためと聞いております」
「初めまして。
私は本庄飛行機の社長を務めます新庄と申します。
そして彼が、この学校の校長である、木下と言います。
よろしくお願いします」
「校長の木下です」
「こちらこそ、かなりご無理を言いまして申し訳ありませんでした。
本郷直人と言います。
まだ、東都大学に入学したばかりですが、色々とありましてこのようなことになっております。
本庄飛行機様にはこの後、機体導入でも色々とご面倒をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」
そうなのだ、今回のご縁を使って、俺らも飛行機の増強に乗り出すことにした。
機長資格になりえる人材が聡子さん1人しかいないが、新たに訓練を始める彼女たちがライセンスを取得すれば総勢11名のパイロットが在籍できる。
今後の事業展開の件もあるが既に使用している飛行機の運航状況がきつくなってきているので、ちょうど検討を始めたところだったので、本庄飛行機からの購入を決めた。
本庄飛行機側では、現状販売機種では俺らの要求を満たせなかったのだが、ロングボディーを開発していたので、俺らが一号機を購入することにした。
エニス王子の方でも俺らにつられてパイロットの手配を開始するのと同時に新たな自家用機の購入を検討し始めていた。
エニス王子と相談して、俺らの購入する1号機の運用を見て同型機種の購入を決定している。
なので、本庄飛行機には新たに開発されるロングボディーの2号機と3号機の予約もしてある。
ちなみに本庄飛行機が現在販売している機種は
乗員 2名
乗客 5名
だが、それだと俺らは足りない。
幸いなことに本庄飛行機としても、ロングボディーを開発しており、今の飛行機を全体的に一回り大きくしているものだ。
ボディーの長さだけでなく幅も1.3倍くらいまで広くなっている。
そのため乗員数も増え、
乗員 2名
乗客 12名を実現しているそうだ。
今は各方面への許可待ちだとか。
早ければ来年早々に引き渡せるという。
俺らは、当然のように室内のカスタマイズを要求してある。
乗客数を3名減らして、後部に別室とベッドをつけてもらう。
俺が何も言わないうちに俺の処の女性たちが仕様変更を申し込んでいた。
そう、あのお楽しみ使用のための変更要求だ。
話がかなりそれたが、俺らの挨拶も終わり、里中さん達は帰っていった。
夕方に、またバスが迎えに来ることになっている。
それまで俺らはこの飛行学校で訓練をする。
彼女たちは、これから毎日ここに通うことになるので、俺よりも格段に速くライセンスを取得できそうだと、ここの飛行学校の先生に太鼓判を押してもらった。
俺もこれから聡子さんと一緒に訓練だ。
飛行機に乗り込むためにロビーに出ると、そこには藤村さんが居た。
「あれ?
何で藤村さんがいるの。
ひょっとして置いて行かれたの。
もしかしていじめにあっているとか」
「そんな訳ある訳ないでしょ。
私はあなたの担当なのよ。
これからここに通う際に私も付いてくるように上司に言われた為よ。
まあ、事務所に居たって今はそんなにやる事が無いしね」
「お連れ様ですか。
ご一緒に飛行機に乗りますか」
今回の飛行教官を務めてくれる自衛隊から出向している栗原機長が気を利かせて俺らに声をかけてきた。
「良いんですか」
藤村さんは乗り気だ。
まあ、ここに待たされてもつまらないしね。
「やる事が無ければご一緒しましょう」
俺らは、藤村さんを連れて飛行場に向かった。
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