第84話 愛人同士の顔合わせ

 

 連れて来た大村さん母娘は一緒に移動してきた尚子さんに任せて、羽根木に着いた俺はまず役人たちを交えての会議に臨み、それを終えてから直ぐにエリカさんを訪ねた。

 エリカさんには完全に新たな仲間たちについて任せきりだ。

 任せている女性たちの外傷については完全に治療は済んでいるが、心の問題はそう簡単に治るものじゃない。

 エリカさんには彼女たちの相談相手となってもらい、心のケアを頼んでいる。


「おかえりなさいませ、直人様」


「エリカさん、ただいま。

 彼女たちについて任せきりになってしまい申し訳ないが、その彼女たちの様子を早速だが聞かせてほしい」


 俺は事務所に入り、エリカさんを挟んでテーブルに着いた。

 そのうえで、エリカさんには新たな仲間の10名について状況の説明を求めた。


「直人様が何をご心配なさっているかは分かりませんが、彼女たちは皆大丈夫ですよ。

 女性は強いのです。

 ましてや彼女たちは資質も十分な者たちが幼少より厳しい訓練を潜り抜けてきております。

 此度の直人様の受け入れに際しての心使いに感激こそすれ、仕事に対して不都合などあろうはずがありません。

 安心して仕事を任せてください」


 エリカさんにこのように言われて俺はひとまず安心した。

 そのうえで、かねてからの計画である、パイロット養成計画についてエリカさんを交えてかおりさん達と相談を始めた。


「あの子たちをかおりたちと混ぜて使うことができないことにつきましては理解できますし、かねての同様な事例からも妥当な処置とも思えます。

 しかし、まさか、そのようなお考えがあったとは驚きました」


「ダメですか?」


「いえ、過去にそういうことを試みた人が居なかっただけです。

 一応彼女たちには確認の必要がありますが、私は問題ないかと思います」


「エリカさんに確認が取れ安心しました。

 そのうえで、エリカさんに相談があります」


 俺はコロンビアの件があってから考えていたことについて相談してみた。


「相談ですか、私にできることでしたら…」


「ええ、彼女たちをパイロットだけで使用するのはもったいないかと」


「確かに、資質についてはどこにも引けを取らないくらいのものを持っております。

 しかし、あの第三王子のせいで経験が圧倒的に足りておりません。

 かおりたちとは一緒に使わない方がよろしいかとは思いますよ」


「ええ、一緒には使いません。

 しかし、ここにいる皆全員が経験のない事業を始めないといけない必要が出てきました。

 それなら、彼女たちにも参加してもらえないかと」


「彼女たちに機会を与えてくれると、それは良い事だと思います」


「そこで相談ですが…」


 俺は、エリカさんに例の城南島開発について、先ほど役人との会議にも出ていた交通アクセス事業に加わることについて説明を始めた。

 城南島開発では、アクセスについては全くの未定だ。

 そこで、かつて計画のあったモノレール建設について資本参加することで復活させるだけに留まらず、海上輸送や航空輸送についても乗り出していく方針を説明後、俺らで、海上輸送やヘリ輸送についての会社を作り、その経営を任せてみたいと話してみた。

 しかし、そのためにはしっかり経営を見られる人が頭を張る必要がある。

 その頭である社長にエリカさんに頼みたいと相談してみた。

 今まで彼女たちのメンタルケアをしてくれたエリカさんなら経験も申し分なく、また、彼女たちからの信頼もある。

 エリカさん次第な計画だが、それをあえてお願いしてみた。


「社長ですか……少し考えさせてください」


「そうですよね、先ほど話したアクセスに関する計画は、まだ我々の中だけでの話です。

 海上輸送につきましては、一部水上バス計画として動き出してはおりますが、正直それだけしか動きはありません。

 ですので、先ほど話したヘリ輸送や海上輸送の会社については全くの白紙から始める計画です。

 エリカさんが無理なら正直に断ってくださっても問題は有りません。

 私も、これ以上エリカさんにご無理を頼むのも心苦しいのですが、人材的にもこちらとしても厳しくて、正直猫の手も借りたい心境なのは否めません。

 何より、今まで見てきた女性たちのスペックを考えるともったいないという感情も湧いて来まして、思いついた計画です」


「はあ……」


「その辺りについてはかおりさんとも相談してみてください。

 その上で前向きなご意見を頂けたら幸いです」


 そういって、エリカさんとの会談を終えた。

 エリカさんとの会談を終えても俺は忙しい。

 俺の部屋に尚子さんが入って来た。

 当然母娘も連れてだ。


「落ち着きましたか。

 グアムにあるあなたたちの荷物ですが、来週にでも届く予定です。

 暫くは不自由をおかけしますが、必要なものなどありましたら遠慮なく申し出てください。

 男の俺に言いにくいものなどはこの事務所の女性なら誰に頼んでも……あ、外務省から来ている藤村さんを除きますが、彼女に言っても他の人に伝言してもらえそうですので大丈夫か。

 頼んでください」


「そこまで直人様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「いえ、私が無理やり連れて来たようなものですから。

 あ、荷物が届くまで、あの部屋でなくホテルに住みますか。

 そちらの方が良ければ直ぐにでも手配します。

 ここの羽根木インペリアルには立派なホテルもあるのですよ。

 おまけにかなりの無理が言えるので遠慮なく申し出てください」


「いえいえ、大丈夫です。

 あそこで十分です。

 個室まであてがってもらっておりますから何ら問題は有りません」


「あ、あそこには同居人もいるのですがお会いしましたか」


「尚子様にお話だけは聞いておりましたが、まだあってはおりません」


「ミラ、今日子さんはそろそろ戻るよね」

 俺は、今日の当番として傍に控えているミラに今日子さんの予定を聞いてみた。


「ええ、今日は何も聞いておりませんので、もうすぐ戻るかと。

 ここにお呼びしますか」


「そうだね、呼んでもらった方が良いね」


 俺の奴隷以外の女性が増えてきているので、その調整が忙しくなってきている。

 本来なら修羅場をいくつも経験しないといけないくらいの女性を抱えているはずなのに、幸いにもその経験が無かったのは幸運の一言に尽きる。

 それでも今回はあわや修羅場、それも母娘の修羅場になろうかという危機を経験しているので、愛人同士の顔合わせには十分に気を付けているつもりだ。

 俺と聡子さん母娘は俺のやり部屋となっている事務所でコーヒーを飲みながら今後について簡単に説明をしていた。

 部屋の扉がノックされ、今日子さんが入って来た。


「あ、きれいな人」


 幸子さんが今日子さんを見て思わずつぶやいたのが聞こえた。


「今日子さん、お帰り」


「直人様、ただいま帰りました。

 彼女たちが、お話にあった女性たちですね」


「ああ、話は聞いていたのか」


「ハイ、昨日にイレーヌさんから直接に。

 部屋のシェアについて聞かれましたから」


「いやではなかったの」


「いやではありませんでした。

 私がここに来た時に、不安で葵さんにシェアを頼んだくらいですから。

 今度は私が葵さんの代わりをするわけですね」


「申し訳ありません。

 私の下半身がだらしなくて、このような結果になってしまい……」


「それこそ、今更ですね。

 私の方が先輩たちよりも後に直人様に……ね。

 だから気にしてはいませんよ。

 それよりも私に紹介してくださいますか」


「ああ、ごめん。

 こちらの女性たちは大村さん母娘です。

 グアムで私の飛行教官をしていた関係で知り合いました。

 グアムでマフィアに襲われたので保護したらその……そうなっていました」


「そのことは良いから紹介ください、直人様」


「母親の方が私の飛行教官であった聡子さんで、その一人娘の幸子さんです」


「大村聡子です。

 北海様のことはこちらの方たちからお話はお聞きしておりましたが、本当にお綺麗で驚きました。

 正直これからのことが不安になります。

 あ、こっちにいるのが私の娘の幸子です」


「幸子です。

 グアムで母親がいきなり連れ出されたので、直人様に私が無理やりお願いして助けてもらいました。

 私たちは、その……父親のせいで色々ありまして、殺されるのなら直人様に全てを差し出して助けてもらおうと無理なお願いしたら、私が考えられないくらいの鮮やかな手段で母と一緒に助けてもらい、今の保護されております。

 直人様を責めないでください。

 私の方からお願いしてなのですから」


「え?

 直人様、その、二人共ですか」


「はい、二人共です」


「あの……親子丼っていうやつですか」


「妙齢のレディーがそんなことを言ってはいけません」


「しかし、本当に節操がありませんね。

 今更ですが。

 まあいいです。

 それより、こちらこそよろしくお願いします。

 直人様はお若いので、その、御強いかと。

 これからはご一緒することもあるかと思いますがよろしくお願いします」


 今日子さんは顔を赤くしながら何を言い出すのか。

 しかも聡子さんには通じたようで、今日子さん以上に顔を赤くしていた。

 これ以上俺の下半身事情を暴露するのはやめてくれ。

 俺は、今日子さんに二人を部屋に連れて行ってほしいと頼んだ。


「え?

 これからご一緒でするのでは」


 な、何を言い出すのか。

 今日はやりませんよ、今日は。

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