第77話 病院の買収話
翌朝は二人の献身によって気持ちよく目を覚ますことができた。
まだ俺の両隣には官能的な姿をさらしているイレーヌさんが眠っている。
かおりさんの方は目を覚ましていたのだろう。
ベッドの近くには見当たらない。
俺の気配を察したのだろうか尚子が部屋に入ってくる。
「直人様、おはようございます」
「尚子さん、おはよう」
尚子さんが俺に挨拶をしたころにイレーヌさんも目を覚まし、恥ずかしそうに部屋から出ていった。
俺はそんなイレーヌさんを見なかったかのように浴場にシャワーを浴びに行き朝の準備を終えた。
浴場ではイレーヌさんを始めグリアさんが全裸で待っており、二人して俺の体を洗ってくれたのだが、ここではその話は省いておこう。
その後脱衣場では尚子さん達が待っている。
「すぐにお着替えの準備をします」 と言って、サラとミラを呼んで俺の着替えを手伝ってくれる。
手伝うと言っても何もすることはない。
Tシャツとズボンを用意して待っているだけだ。
本当は、彼女たちが俺の着替えをしたかったようだが、流石に俺の中に連綿と流れる庶民の血が許さない。
恥ずかしいので、それだけは丁寧にお願いをして勝ち取った俺の権利だ。
彼女たちも、すべてを譲るつもりもなかったようで、今のように着替えの際には洋服を用意して手渡す格好で落ち着いた。
これだって、やめて貰いたいのだが、ここまで譲歩させるので精いっぱいで無理だった。
だいたい、毎朝のルーティーンはこんな感じだ。
変わるのはここにいる女性たちの顔ぶれ位だ。
俺はそのままダイニングに向かい、寛いでいると、女性たちが集まってくる。
浴場や脱衣場で俺の手伝いをしてくれた女性たちも大急ぎで自身の見繕いを済ませて集まる。
そう、俺たちはできうる限り毎朝、同じテーブルで朝食を取るようにしている。
はじめは、彼女たちが難色を示してきた。
自身の身分が奴隷であることで、同じテーブルでのご主人様との食事には同意できないとか言っていたのだが、俺の育った孤児院では貧しいながらも皆で同じものを食べて育ったこともあり、これだけは俺のルールを押し通した。
幸い、今では全員のその日のスケジュールの確認や、何より一人一人の体調の管理ができるので、彼女たちにも好評である。
今朝も集まっての朝食だ。
しかし、今朝だけはいつもの雰囲気ではなかった。
何を隠そう、今朝は新たに加わった10人もここに呼んである。
彼女たちは一か所に固まって怯えた表情を見せている。
何だか俺が彼女たちをいじめているみたいな気持ちになってくる。
しかし、仲間外れはしたくない。
それでなくとも今までいる女性たちとは、色々と違った待遇になってしまうのだ。
できうる限り同じに扱いたい。
かおりさんがそんな空気を察してか、彼女たちに説明しながらみんなが集まっての朝食を始めた。
みんなのスケジュールの確認や課題や規模などを聞いての食事も終え、それぞれの仕事に散らばっていく。
俺は、少し寛いでから、隣のオフィス棟にある自身の事務所に向かった。
イレーヌさんやかおりさんは既にご出勤済だ。
俺は、本日の秘書を務めてくれる尚子さんと一緒の通勤だ。
オフィス棟に着くと、玄関ホールが慌ただしい。
どうも引っ越しの様だ。
どこぞの企業が新たに入るのだろうか、色々と事務用品をエレベーターの一つを占領して運び込んでいる。
俺らは別のエレベーターで事務所に向かいと、このフロアーがとんでもなく騒がしい。
お隣にある海賊興産の関連会社の引っ越しの様だ。
俺は引っ越し作業の邪魔にならないように事務所に入っていく。
「おはようございます、直人様」
なんと事務所玄関で榊さんに挨拶をされた。
「おはよう、榊さん。
お仕事は良いの」
「直人様。
私たちは仕事中ですよ。
今日は、お騒がせしているので、ご挨拶に来ております」
榊さんの説明では、俺らが海賊興産と共同で興した新会社が、なんと隣に作られるらしい。
海賊興産側の組織変更も伴い、隣にあった会社の半分を新会社のスペースとして宛がえ、同時にそこの半数の社員も新会社に出向だとか。
これで榊さんや花村さんもお隣に勤務となる。
常勤役員になるかおりさんの部屋も用意される話があったが、その話は丁寧にお断りしておいた。
なにせお隣なので、かおりさんの部屋がここにあっても何一つ困らない。
唯一かおりさんの机の上に新会社の内線電話が置かれただけだ。
多分、花村さんや榊さんの机も、そのうちこちらに用意されることになるだろう。
そんな説明を聞いていたら、花村さんもやってきたので、そのまま俺の部屋で打ち合わせとなった。
ボルネオでの会議で開発計画の方向性だけは決まっていたので、設計仕様書に落とし込むまでの詳細を決めていこうという話だ。
俺の部屋で、かおりさんやイレーヌさん、それに花村さんに榊さんを交えて入念に打ち合わせを行った。
ほとんどのエリアは、ここ羽根木インペリアルヒルズとそう変わらない。
事務棟や住居棟それにショッピングエリア、などを備える話だ。
デザインなどはコンセプトを元にコンペで決めるという話だが、ここで話し合われているのが開発の目玉であるアイドル劇場などの辺りだ。
ここで話し合われた内容を元に、海賊興産側でバニーガールズの担当者と詰めていくことになっている。
キャッキャウフフのできるメンバーで個室に入っているのに、そういった空気に全くならず、数時間缶詰めになってのお仕事だ。
帰国翌日から、かなりのハードなスケジュール。
世の中の大学生には、まだまだの夏休み期間中なのに、俺はお仕事の最中だ。
確かに、俺のような孤児には、世間一般的な大学生のような生活はできなかったであろう。
貧乏学生と同じように寸暇を惜しんでの仕事している。
お金持ちになったのに、そういう部分では変わらないなとは感じていたが、女性との付き合いを探す手間だけは免除されている分、十分に恵まれているのだろう。
そう自分を納得させながら、午前中の仕事を終えた。
午後直ぐにバニーガールズの黒岩さんとの面会を控えている。
今朝になって、急な面会要請で、俺としてはビクビクものだが、彼女たちの治療を任せているので避けられない。
午後一番に俺の事務所に黒岩さんがやってきた。
このフロアーの引っ越しも、うるさい処はだいたい片付いたようで、今は落ち着いている。
黒岩さんに嫌味でも言われずに済んだとほっとしている自分がいる。
よそ様の引っ越しで嫌味を言うような子供じゃないだろうことは理解しているのだが、どうしても俺はあの人の持つオーラが苦手だ。
この感想は世の男性皆が共通して持つものだろうと思っている。
その黒岩さんの表情が硬い。
事務所応接に通されて黒岩さんは、常識人然としてあいさつを交わしたのだが、彼女が持つ鋭い表情の中にも、焦りのようなものを感じた。
早々の事ではあの黒岩さんが焦るはずが無いのだが、俺の思い過ごしかもしれない。
あいさつの後の本題に入るや否やすぐに彼女の持つ懸念事項が判明したのだ。
「本郷様。
本郷様は、病院を経営する気はありませんか」
「病院の経営ですか?」
いきなりの話題だ。
俺が頼んでいる女性たちの治療で問題でもあるのかと、俺もこの話を聞いて表情が固まった。
そこから、黒岩さんが詳しく説明してくれた。
内容をまとめると、今俺が頼んでいる女性たちはバニーガールズの贔屓にしている病院に通わせている。
個人経営の病院で赤坂にある。
大通りから中に入った料亭などがある閑静な地域の中に問題の病院がある。
町全体が再開発から取り残されたように古くからある建物が多い。
しかし、昨今の災害などで見直された防災政策のあおりで、古い建物から順番に取り壊されている。
件の病院も町一番に古いビルの中にある。
そこの経営者でもあり医院長でもある人が、ビルの取り壊しに伴う病院の立ち退きの要請に伴い廃院する意向だともいう。
かなりご年配の医者で、この機会に廃院を決めたそうだ。
今頼んでいる女性たちについては、すぐに廃院する訳じゃないので、治療までは問題なく終わらせそうなのだが、バニーガールズのタレントたちの今後を考えると、信用が置ける病院が無くなるのが怖いとか。
そこで俺に相談があった。
廃院する病院をスタッフ一同、機材も含めて一切合切俺に引き継いでほしそうなのだ。
引退する医院長についても、今ではほとんど診察すらしていない。
ほとんどが雇われの女医が他の医者を従えて診察をしているので、そのスタッフを丸抱えしてしまえば何ら問題ない。
唯一の問題は、病院建屋だけだ。
そこでの病院の買収話に繋がってくる。
バニーガールズで買収しても維持できないし、何より資金面で苦しくなるのだとか。
そこで、資金面で全く問題なさそうな俺に話を持ってきた。
なにせ、彼女の所のアイドルを美味しく頂いている俺なのだ。
既にバニーガールズとは一蓮托生のようなものの扱いを受けている。
黒岩さんは、俺に話を持ってくるのに相当悩んだそうだが、吉井会長がダメもとで相談してみたらの一言で、俺に相談ではなくお願いに近い形で話を持ってきた。
俺としても彼女たちの面倒をお願いしていることもあり無下にはできない。
よくよく話を聞くと、案外悪い話じゃない。
俺の所にはバニーガールズほどじゃないが多くの女性がいる。
美容整形だけじゃなく、彼女たちの健康管理面を考えると、むしろこれはチャンスの様だ。
いっそのこと将来的には城南島に開発中の計画にアイドルを含めセレブ女性だけの医療から美容までの一切合切をまとめて面倒見る会員制のクラブのような物を作りたい。
そうすれば、医療を受けているメンバー以外にも今日本にいるメンバー全員が気持ちよく綺麗になるために利用できる。
俺は、隣に座っているかおりさんに俺の構想を持ちかけてみた。
かおりさんも俺の考えに同調してくれて、黒岩さんにはすぐにでも病院の買収話を相手側の言い値で進めてほしいと即決した。
その上で、追加の目玉となり得る構想を煮詰めるべく、女性陣を集めて早速プロジェクトチームを作って活動を始めた。
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