第75話 俺の青春 キャッキャウフフは何処に行った

 

 できる人たちにお願いしたのだ。

 その後の処理は、早いこと早いこと。

 すぐに治療の医者の予約が取れ、日本での治療は明日からでも始められるとか。

 吉井会長は、彼女たちの日本での滞在先も用意しようとしていたが、かおりさんが丁寧に断っていた。

 治療は東京の都市部で行われるとかで、それなら羽根木が使える。

 当面の彼女たちの滞在先として、インペリアルヒルズに用意してある3戸のマンションの内、未使用の2戸を宛がうことにしたようだ。

 かおりさんも急ぎ羽根木にいる女性たちに受け入れのための準備をこの場から電話で命じていた。


「直人様は、この後彼女たちに御用はございますか」


 かおりさんが急に俺に聞いてきた。

 意図はよくわからないが俺は「別にないな」とだけ答えた。

 かおりさんと黒岩女史とは馬が合うのか意気投合しているようで、何やら話し込んでいた。

 その後、かおりさんが皇太子付き侍従を呼んで何やら手配をしていた。

 その横で、黒岩女史が吉井会長に話し込んでいる。

 漏れ聞こえてくることには、明日にでも黒岩女史は帰国したいようなことを言っている。

 吉井会長の方も、直ぐに快諾したようだ。

 とにかく俺の知らないうちに、事は非常な速さで進んでいる事だけは分かった。

 どうなっているのか少々怖くなってきたところに、かおりさんが俺に説明してきた。


「直人様。

 直人様の承認が取れましたら彼女たちを、明日、日本へ送りたいと考えております」


「べ、別に構わない。

 構わないが、明日となるとえらく急だね。

 ひょっとして、うちの自家用機で」


「はい、自家用機も、ここから飛行場までのヘリも手配は済んでおります。

 よろしいでしょうか」


「そこまで準備されては断れないよ。

 それに、治療は早い方がいいよね。

 是非、そのようにお願いできないかな」


「ありがとうございます。

 それでは、直人様から彼女たちにその件のご説明をお願いできますか」

 そこまでかおりさんが言うと、黒岩さんから声がかかった。


「本郷様。

 明日の移動ですが、私もご一緒させていただけないでしょうか」


「え?

 もう帰るのですか?」


「はい、私は彼女たちの為にここに来たのですから、ここでの用件は済んでおります。

 むしろ、これから日本での仕事が待っておりますので、できればご一緒に帰国したいと思っております」


「直人様、私からもお願いします。

 黒岩様が一緒に帰国なら、色々と手続きなどがスムーズに運びますので」


「そうなると、かおりさんも一緒に帰国かな」


「本来ならばそうしたいところですが、私には別件が控えており、そうもできません。

 ですので、ラナを付けようかと考えております。

 ラナが日本で彼女たちを日本にいるチームに引き渡したら直ぐに戻らせますので、よろしいでしょうか」


「とんぼ返りさせるの。

 ラナに負担が掛からないかな。

 何ならゆっくりと戻ってきても良いんだけれど」


「ラナの方が少しでも直人様の傍にいたいでしょうから、とんぼ返りの方が喜びます。

 帰ったら労わってあげてください」


「それはもちろんだよ。

 それじゃあ、後は頼めるかな」


「いいえ、直人様。

 大事な仕事を忘れています」


「大事な仕事?」


「彼女たちへの説明です。

 このまま連れて行っては不安になりますわよ」


「ああそうだった」


 俺はかおりさんに指摘され、彼女たちへのこれから日本での生活について説明しておいた。

 説明を聞いた彼女たちは一様に不安そうにしていたが、最後に俺が日本を拠点に生活していることを説明して、今ある商談が済み次第帰ることも説明しておいた。


「日本に帰ったら、日本に居る者も集めて一度みんな食事会を開こう。

 その時にきちんと皆に説明するから、みんなは悪いが先に帰って、治療に専念してくれ。

 そこにいる黒岩さんが、みんなを色々と世話をしてくれるので、ここでもう一度お礼を言っておこう」 と言って黒岩女史を紹介しておいた。


 その後はかおりさんや黒岩さんを交えて彼女たちは歓談していた。

 俺は邪魔にならないように、吉井会長と一緒にホールを出た。


「今日は本当にありがとうございました」


「何を言いますか。

 困ったときはお互い様ですよ。

 それに、女性については、私たちは専門家ですよ。

 こういう時には存分に頼ってください」


 その後は、少々下世話な会話も含め雑談しながらラウンジに向かった。

 翌日は、少々忙しかった。

 朝早くからヘリが船にやってきて、俺はアリアさんイレーヌさん、それにかおりさんと一緒に彼女たちを見送りに来ていた。

 今回、彼女たちと一緒に日本へ帰る黒岩女史と外務省から来ていた里中さんも連れ添って帰ってくれるとのことだった。

 里中さんは、殿下やエニス王子とはすでに顔見知りで、今回の訪問も経産省の役人の付き合いのためだったとかで、直ぐにでも帰れることを喜んでいた。

 なにせ、この後の件については外務省の管轄を離れ経産省管轄で、里中さん曰く『やる事が無い』とのことだった。

 それに里中さんはかなり忙しくあるようで、俺が後から合流した女性たちを先に日本に帰らせることを話したら、ここで帰れるのなら急ぎ帰りたいとの希望を言っていた。

 彼女たちは出身こそ世界中バラバラだが、一応スレイマン王国の国籍を有しており、パスポートもスレイマンの物を持っている。

 スレイマンと日本とではビザ申請を相互に免除されているので、今回の日本入国も治療が目的で、保証する人間もしっかりしているので何ら問題はないとは思えるが、外務省の役人が同行してくれると心強い。

 俺は里中さんに、今回の件も併せてお礼を言って送り出した。

 ちなみに、かおりさん達日本出身者については、日本が二重国籍を認めていない関係上、スレイマン王国の国籍を持っていないが、それに準じた待遇を与えられている。

 この措置は30歳で定年?を迎えた後のことを考慮しての配慮だと説明を受けた気がする。

 無事に奴隷を満了したら沢山のお金を貰って祖国に帰れるためだと聞いた。

 とにかく俺の仕事は終わった。

 さ~、梓たちと遊ぶぞ。

 これから俺の青春だ。

 海でのキャッキャウフフが待っている。


 俺は知らずのうちにニマニマしていたらしい。

 かおりさんから声がかかった。


「これで一仕事が終わりましたね。

 直人様、この後は私たちの仕事にお付き合いくださいますよね」


「へ???」


 俺が遊ぶことに心を奪われていることを見越したかおりさんからの絶妙なタイミングでの攻撃が入った。


「え?

 私たちの本来のお仕事は、私たちが引き継ぐ形になった城南島開発の件ですよ。

 そのために吉井会長たちをここにお呼びしたようなものですからね。

 私たち開発の目玉であるアイドルと気軽に触れあえるアミューズメント施設の件で色々と条件などを詰めませんといけませんし、時間はそれほど余裕がある訳じゃありません」


 そういえばそうであった。

 吉井会長は自身のスタッフを引き連れてここに来たのだ。

 昨日は顔合わせのようなもので、これから契約に向けての詰めの作業をしていくことになっている。

 開発の全体像が見えていないうちにとは思うが、逆にアミューズメント施設を中心に開発計画を練っていくようだ。

 俺はかおりさんに連れられ、会議室に向かった。

 今回の旅行?で、俺にはキャッキャウフフは無いらしい。

 その後俺は3日間企業戦士に囲まれて缶詰にあった。

 殿下やエニス王子は必要に応じて打ち合わせに加わっていたので、缶詰には合わなかったようだが、あとで聞いた話では、楽もさせてもらっていなかったようだ。

 なにせこの船は王室専用の船だ。

 通信施設の整備が半端ない。

 当然、ここでのお仕事でも何ら不都合は生じないらしい。

 ということで、彼らも彼ら自身のスタッフに囲まれてお仕事だったようだ。

 納得がいかないのは、外務省の役人である藤村明日香さんの存在だ。

 彼女は俺付きの役人のはずだが、この船に俺がいる限り仕事が無いとぬかしやがり、梓たちとレジャーを存分に楽しんでいたようだ。

 そんなのありかと、俺が彼女にクレームを付けたら、「仁美だって一緒に遊んでいたわよ」と言いだしたのだ。

 仁美って榊原仁美さんだよね。

 あの人は経産省のお役人でこの開発計画担当であったはずなのに、そういえば会議には彼女の上司である大下課長くらいしか見ていない。

 どういうことかと疑問に思っていたら、大下課長の配慮だと。

 彼の優しさから出た話じゃ無く、時間の無い打ち合わせの場で、慣れない新人の面倒まで見れない課長が、体よく彼女を会議の席から外していたようだ。

 一応、頓挫しかかった開発計画の再開にこじつけた功労者ということで、今回のボルネオ訪問が彼女にとっての論功行賞であったと。

 だから存分に遊び楽しんでもいいのだと、彼女の弁だった。

 後で、色々と絡繰りを聞かされたって、俺にはどうしても納得がいかなかった3日間だった。


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