新しい約束
「っ!!」
セシフェリアさんが、その手で僕の僕に触れ始めた瞬間。
僕の体に、今まで感じたことの無い感覚が奔った。
そんな感覚に思わず声を上げてしまうと、セシフェリアさんが口角を上げて言う。
「アレクくん、さっきよりも可愛い顔になっちゃってるよ?もしかして、石鹸の泡で滑りが良くなったからもっと気持ち良くなっちゃってるのかな?」
「そ、そんなこと、は……ぁっ」
セシフェリアさんがさらに手を動かし始めたことで、僕はまたも情けない声を出してしまう。
……今まで。
エレノアード帝国で、本当に何度もこういった経験をしてきて。
一週間前には、レイラの手で初めて達して、こういった行為はただ避けないといけないものではなく。
大切な人や愛している人に、自らの気持ちを伝えてあげられる行為なんだとも思い始めることができた。
だから、間違いなくエレノアード帝国潜入前よりはこういったことに対する肉体的、精神的耐性はついているはず────だけど。
「ルークくん、そんなにはぁはぁしちゃってどうしたの?私はただ洗ってあげてるだけだよ?」
「そんな、手つきで、洗ってるだけなんて……よく、言え……っ」
声を抑えようとしても、思わず声が出てしまう。
ちょっと石鹸が加わるだけで、こんなに……
それからも数分の間、セシフェリアさんは手を動かし続けた。
────というか、まずい!
「セシフェリアさん、そろそろ、手を、止め……ぇ、て、くださ、っ、い……!」
今の僕にできる最大限、呼吸を整えながら声を発して懇願するも。
セシフェリアさんは、変わらず小さく口角を上げたまま言う。
「どうしよっかな〜」
そう言いながら、セシフェリアさんは一度手を止めた。
……手を止めはしたものの、まだ僕の僕から手を離したわけでは無いため。
セシフェリアさんがその気になれば、僕はまた先ほどのような状態になってしまう。
「はぁ、はぁ……」
とはいえ、一度手は止まったため。
僕は、その間にどうにか呼吸を整えると……
こんなことを言うべきか少し悩みながらも、口を開いて言った。
「セシフェリアさん……僕は今まで、セシフェリアさんが敵国の女性だからという理由で、セシフェリアさんとはこういったことをしたくないと思っていました」
「うん、前はどうしてあんなに抵抗するのかなって不思議だったけど、今だったらそうだったんだってわかるよ」
「────でも、今は違います……セシフェリアさんが敵国の女性じゃなくなったなら、もう憎むべき相手じゃなくなったなら」
僕は……
「僕は、これからセシフェリアさんのことも、本当に大切な人として接していきたいと思っています」
「っ……!」
「……なので、関係性が変わってから初めて行うこういった行為を、軽い感じで遂げてしまいたく無いんです」
「……」
もしそういったことをするなら、こういった場所ではなく。
もっと互いのことを大切に思っていると伝え合える場所や時が良い。
そういう意図で言うと……セシフェリアさんは、やがて僕の僕から手を離して言った。
「アレクくんがそこまで言ってくれるなら、今日はここまでにしといてあげよっかな……でも、それならいつ、私はアレクくんのことが本当に大切で本当に大好きだよってことを、言葉とか想いとかだけじゃなくて、この体でも伝えてあげられるの?」
「……」
この体でも、という言葉の意味は考えるまでもなくわかる。
けど、もうその言葉を聞いて動揺したりはしない。
「何ヶ月後、下手をすれば数年後になる可能性もありますけど……サンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争を無事終わらせることができた時、が良いです」
「……じゃあ、何ヶ月後とか数年後とかじゃなくて、その二国間での戦争が終わったらってことで良いんだよね?」
こんなに長く続いたサンドロテイム王国とエレノアード帝国の戦争が、そんなにすぐ終わるなんてことはあり得ないだろうから、わざわざそこを言い換える必要は無いと思うけど……
「はい、その二国間での戦争が終わって、幾つかしないといけない後処理のようなものを終えたらです」
僕がそう言うと、セシフェリアさんは頷いて言った。
「うん!じゃあ、また新しい約束だよ……この戦争が終わったら、私がアレクくんのこと大好きだって、いっぱい伝えさせてね」
「わかりました」
いくら、今エレノアード帝国の陣形が崩れていて内部状態がボロボロとは言っても、この戦争が終わる日がいつやって来るのか。
それは、まだわからないけど……約束した以上、僕はここまで僕のことを追って来てくれたセシフェリアさんからの気持ちをちゃんと受け取らないといけない。
────サンドロテイム王国やその民たち、父上、レイラやオリヴィアさん、セレスティーネ、ヴァレンフォードさん、スカーレット、そして今新しく交わしたセシフェリアさんとの約束。
僕の中には、エレノアード帝国に潜入する以前よりも、この戦争を終わらせないといけない理由がたくさんある。
セシフェリアさんやヴァレンフォードさんと言った、とても頼もしい人たちも味方になってくれた。
────もう、本当に終わらせるんだ!
僕が、心の中で力強くそう決意していると、セシフェリアさんがそんな僕の目を見ながら言った。
「そうそう、アレクくんのその力強い赤の瞳……今思えば、それも王子様としてこのサンドロテイム王国を助けるっていう強い意志からきてるものだったんだね」
「そう……かもしれません」
自分ではよくわからないけど、もし僕の瞳に力強さというものが宿っているのなら、おそらくそれが理由だろう。
セシフェリアさんは、僕の顔に右手を添えると優しく微笑みながら言った。
「────本当に、綺麗な目」
「……僕は、セシフェリアさんも綺麗な目をしてると思います」
「アレクくん……」
その綺麗な碧眼を自らの目に映しながら思ったことを口にすると、セシフェリアさんは頬を赤く染めて甘い声色で言う。
「さっき戦争が終わったらって言ったけど……もう一度だけ、さっき再会した時の続きってことで、ちょっとだけしても良いかな?」
「それは、またもう一度が続くんじゃないですか?」
「今度はちゃんと我慢するから!ね、良いよね?」
……先ほどの話の流れからしたら、論理だけで考えるならこれは断るべき────だが。
この行為は論理によるものでは無いため、論理的に思考したところで何も意味は無い。
「……はい」
僕がそう返事をすると、セシフェリアさんは嬉しそうに目を見開いた。
そして、僕たちは互いに目を閉じると────顔を近づけて、唇を重ねた。
……セシフェリアさんはまだまだしたいという顔をしていたけど、ここからは戦争が終わるまで我慢するとどうにか自らのことを自制していた。
そして、体を洗い合うという件は────
「こうして本当のアレクくんに初めておっぱいとか触ってもらうなら、やっぱり洗いっこじゃなくてちゃんとした時に触って欲しいから、今日は私の体洗わなくていいよ!その代わり、今度また私の体洗ってね!」
ということで、ひとまず今日は回避することができた。
……また今度しないといけないと思うと少し気が重くなりそうだったが。
今までだったら間違いなく僕に体を洗うよう強要していたであろうセシフェリアさんが考えを改めてくれたところを見て、僕は少し嬉しい気持ちになった。
それから、僕たちは二人でお風呂に浸かると、ゆったりと雑談をしながら過ごした。
……この戦争が終わる日は、セシフェリアと互いに大切だと伝え合える日は。
一体、いつやって来るんだろうか。
僕は、頭の中でそんなことを考えずにはいられなかった────が。
────この戦争は、これから僕が予想だにもしない早さで終わることになるのだった。
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