感情
「ルークくんがサンドロテイム王国からの刺客、ね……そういうことなら、今までルークくんが取ってきた行動とか、私がダメって言ってるのに他の女と関わりを持とうとしてたことにも説明が付くね」
話の流れから、その答えをなんとなく察知していたセシフェリアは……
驚くことなく、むしろ、過去の記憶を思い返して納得した様子で頷くと、続けて言った。
「じゃあ、あのマーガレットがルークくんに体を捧げるほどの興味を抱いた理由は?」
「それは単純だ、敵国の人間でありながら、奴隷としてこのエレノアード帝国に潜入するということを思い付き、それを実行」
続けて、ヴァレンフォードは嬉々とした表情で語る。
「さらには、おそらく私が一人になる時間を割り出し、招待状を手に入れ、見事私の元までやって来た計画性……加えて、純粋な剣の腕だけなら私以上の卓越した剣技」
「っ……?剣の腕が、マーガレット以上?」
「あぁ……優しさという精神的な弱点があることは否めないが、剣の腕だけで言うなら私以上と評することができる」
普段の生活や、ルークの絶え間ない鍛錬を積んできた結果できたであろう鍛え抜かれた肉体を見て、ルークがある程度の武力を有していることはセシフェリアもある程度予想できていた。
が、まさかヴァレンフォード以上の剣の腕を持っているとは思っていなかったため、素直に驚く。
すると、ヴァレンフォードはそんなセシフェリアのことを横目に、頬を赤く染めながら息を荒げて言った。
「そんな、以前セシフェリアと例えで話した、私を超えるような知性と剣技、そして戦略を実行に移している、私の予想だにもしない戦略が人間の男の形をして出て来たらという話が文字通り現実となったんだ……この私がそんな男に興味を持たないはずがないだろう?」
「……はぁ」
相変わらずの異常性癖ぶりに、セシフェリアは言葉を失いため息を吐くことしかできなかった。
が、それはそれとして。
「じゃあ、これでマーガレットがルークくんについて知ってることは全部?」
「そうだな、あと強いて言うなら、私の胸に触れた時や私の胸を見た時の彼の反応────」
「ルークくんが私以外の女のおっぱいに反応してる話なんて聞きたくないから……ていうか、下着脱いでたから見せたのは予想ついてたけど、触らせもしたんだ」
一瞬目を虚ろにしたセシフェリアだったが、今はヴァレンフォードよりもルークのことだと、どうにか心を落ち着ける。
そして、続けて聞いた。
「聞き方を変えるけど、そういう話の本筋から離れてる細かいことは除いて、マーガレットがルークくんについて知ってることはこれで全部?」
「あぁ……おそらく彼の思惑としては、自分が敵国の人間であることを知れば、セシフェリアが自らにどんな感情を抱いていたとしても、その感情が全て消え失せると踏んだのだろう」
「……」
セシフェリアの中に、様々な感情が渦巻く。
そんなことで自分がルークに抱いている感情が全て消え失せるわけがない、という怒り。
こんなことだけで、自分がルークに抱いている感情が全て消える……そう思われる程度にしか、自分がどれだけルークを大切に思っているのかが届いていなかった、という悲しみ。
そして、それらの感情の、根底にあるのは────
「……行こっか、マーガレット────ルークくんを追いかけに」
「あぁ……わかっていたことだが、やはりこの程度でセシフェリアが彼に抱いている想いが消え失せることなど無かったか」
「当たり前でしょ?ていうか、言葉と体、心を使ってありとあらゆる方法で今までルークくんが大事だって伝えて来たのに、こんなことで感情が全部無くなるなんて思われてたの心外なんだよね……だから、文句と────あと一つだけ、どうしても伝えたいことがあるの」
「そうか……だが、わかっていると思うが、私たち二人が彼を追いかける間、大きく変わるかも知れないがそれは良いんだな?」
変わる、とは何を指しているのか。
セシフェリアは理解しているため、頷いて返す。
「うん、そんなことよりルークくんが第一だし……むしろ、マーガレットの方こそ良いの?」
「私もクレアと同じで、彼が第一だ……それに、実は彼がサンドロテイム王国の人間であると分かってから、私の中にある面白い考えが浮かんでいてな」
「へぇ……奇遇だね、私も一緒だよ」
「そうか……ふふっ、ならば行こう」
二人は剣を鞘に収めると、ルークの後を追うべくヴァレンフォード公爵家の屋敷の門を出た。
「……」
本当であれば、セシフェリアは今すぐにでもルークへの感情を溢れ出させたい気持ちでいっぱいだった。
今すぐにでも、ルークに自らの想いが伝わるよう、そして純粋な感情として、疲れ果てるまで身を交えたいという欲求が出てきた。
だが、まだそれらの気持ちや欲求は抑える。
全ては、ルークと再会した時に……そして。
再会した時こそ、セシフェリアがずっと真に望んでいた、主人と奴隷では無い、新しい関係へ────
◆◇◆
教会に到着すると、僕とレイラは教会内に居る人たちに挨拶を返しながら、聖女室の中へ入った。
そして、レイラは紅茶の入ったティーカップを差し出してくれると、僕の対面にあるソファに座る。
「ありがとう、レイラ」
「いえ……!このようなことで、アレク様が私にお礼など……!」
それから僕が一口紅茶を飲んで美味しいと伝えると、レイラはまた様子がおかしくなりそうだったけど、どうにか心を落ち着けた様子で言った。
「で、では早速、今後どうするかについて、私からご提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
僕がそう伝えると、そこからレイラは完全に普段通りの落ち着いた様子で口を開いて言う。
「本日ヴァレンフォード公爵家へ向かう前、アレク様が近々帰国することとなるサンドロテイム王国の方々に、アレク様がエレノアード帝国に潜入した結果得た情報をまとめた紙を手渡したいと仰られていたことを覚えていますか?」
「覚えてるよ」
その紙が、万が一エレノアード帝国の人間に見つかったらその民の人がどうなるかわからない。
という理由で、手詰まりになってしまっていたけど……そういえば。
「レイラは、あの時何か良い案があるって言ってたね……確か、父上とも再会できるかもって」
「はい!あの時は、ヴァレンフォードさんの件があり、余計となる可能性があったので発言を控えさせていただきましたが、今はむしろ話すべきことだと思うのでお伝えさせていただきたいと思います!」
「ありがとう……でも、未だに父上と再会できる方法なんて僕には思いつかないんだけど、レイラはどうするつもりなの?」
僕が疑問を呈すると、レイラはその疑問に答えるように言う。
「アレク様が今願っておられることは、お父君にエレノアード帝国についての情報をお伝えすることと、サンドロテイム王国へ帰国する、一時的にエレノアード帝国の奴隷とされてしまったサンドロテイム王国の民の方々の安全、という認識でよろしいですか?」
「うん」
民に犠牲が出るかも知れないことをするのは論外だとしても、僕がエレノアード帝国で得た情報をサンドロテイム王国には伝えたい。
でも、民の安全と情報を伝えること、その二つを同時に成し遂げる方法なんて────
「でしたら、アレク様が直接、エレノアード帝国で得た情報をお伝えすれば良いのです!」
「……え?僕が、直接?」
復唱するも、言葉の意味を理解できない。
そんな僕に対して、レイラは力強く頷いて言った。
「はい、つまり────アレク様が、サンドロテイム王国にご帰国なされる、ということです!」
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