一度目の内乱終結

「……セレスティーネとステレイラちゃん」


 部屋に入ってきた二人の方を見てセシフェリアが小さく名前を呟く。

 すると、セレスティーネはセシフェリアの方を向いて言った。


「クレア様!何をしているのですか!」

「何って、見たらわかるでしょ?ルークくんの下着を脱がせようとしてたんだよ」


 悪びれた様子も無く白のブラウスを羽織って再度僕の下着に触れたセシフェリアに、セレスティーネは声を強めて言う。


「奴隷という立場であることを利用してルーク様に無理やりそのようなことをするなど、決して許されることではありません!今すぐに、ルーク様からその手を離してください!」

「その奴隷所有権争奪戦でルークくんのことを自分の奴隷にしようとしてたのに、よくそんなこと言えるよね」

「私は、ルーク様のことを奴隷として扱わせないために、そして奴隷制度を撤廃するために先のルーク様の奴隷所有権争奪戦に参加したまでです」

「まぁ、セレスティーネがそんな目論見なのはわかってたこと……だけど」


 続けて、セシフェリアはレイラの方を向いて。


「わからないのはステレイラちゃんだよ、どうしてそこまでルークくんに固執するの?」

「それは……以前もお伝えしましたが、幸福を祈ろう会に参加なされていた唯一の奴隷の方────」

「それだと、理由がんだよね……わざわざ夜にルークくんのことを私の屋敷まで送りに来たり、今回もあんなに教会勢力動員させてルークくんのことを手に入れようとしたり、どう考えたって幸福を祈ろう会に参加していた唯一の奴隷だからで説明できることじゃないよ」


 夜に、セシフェリアの屋敷まで僕のことを送ってくれたということだけなら、それだけでもまだギリギリ通ったのかもしれない。

 だけど、今はもうそれだけでは足りないほどに、僕たちの関係性がセシフェリアにも少しずつ浮き彫りになってきてしまっている。


「ていうか、もし仮にそんな軽い理由なんだったら、私どころかセレスティーネにすらルークくんを欲しがる理由としては到底及ばないし、で邪魔されたく無いから、大人しくしてて欲しいんだよね」

「その、程度の……想い?私の、ルーク様への想いが、その……程度?」


 レイラは、声を震わせて小さく呟いた。

 ……数年前。

 僕があの山賊からレイラのことを助けてから、レイラは僕やサンドロテイム王国の事を想って色々な努力をしてくれていた。

 並の相手なら圧倒することのできる武力や、もともと蓄えていたであろう知性をさらに高め、教会勢力を大きくして、サンドロテイム王国との戦争に反対。

 そして今では、それらの末に僕に直接協力してくれている。

 そんなレイラが僕に抱いている想いというのはそう簡単には表せないし、間違ってもその程度と言われるようなものじゃない。

 だから、僕への想いをその程度と言われてレイラは今にも怒────りの言葉を口にしようとしたと思うけど。


「っ……!」


 僕は、首を横に振ってレイラの言葉を止める。

 ここで怒って、セシフェリアにヒントを与えるような真似をする必要性は無い。

 その僕の意図を汲み取ってくれたのか、レイラは開きかけた口を閉じた。

 セシフェリアは二人の方を向いていて、僕のことが視界に映っていない。


「……」


 反対に、僕のことが視界に映っているセレスティーネは、今の僕とレイラの挙動に違和感を感じたのか視線を送ってきた。

 けど、それに気づいていないセシフェリアは、少し間を空けてから言った。


「とにかく、あと一時間後ぐらいだったら話聞いてあげるから、それまでどこか行っててくれない?今から良いところなの」


 セレスティーネは、僕からセシフェリアに視線を移して言う。


「セシフェリアさんにそう仰られただけで引き下がるようなら、元よりこの場に赴いておりません」

「その通りです、クレア様……嫌がっておられるであろうルーク様にそういったことを行ってしまう前に、早く手を離してください」

「行う前に?あぁ、そっか……今はルークくんに下着履かせてあげてるから二人とも勘違いしてるのかもしれないけど────私とルークくんは、ついさっきまでそういうことをしてたんだよ?」

「……え?」


 レイラが困惑の声を上げると、セシフェリアは口角を上げながら言った。


「下着脱がせてあげて、さっきまでルークくんのルークくんに直接触ってあげてたの」

「っ……!」

「二人は触ったことないと思うけど、ルークくんのルークくんって大きくて逞しいのにすっごく可愛いんだよね、こういうのを愛らしいって言うんだと思うよ……あと、ルークくんが嫌がってるって話だけど、それも違うよ?さっきまで、ルークくんは私の手でいっぱい気持ち良くなって、たくさん可愛い声出してたんだから」


 続けて、僕の顔を見ると、セシフェリアは頬を赤く染めながら言った。


「ね、ルークくん?」

「僕は、気持ち良くなんて……」


 顔を逸らして言うと、セシフェリアが言った。


「もう、まだ認めないの?あんなに可愛い声いっぱい出してたんだから、そろそろ素直に────」


 セシフェリアが言いかけた時。

 素早い足音が僕たちの方に近づいて来たため、その方向を振り向くと────そこには、目を虚ろにしたレイラが、今まさに剣を抜いてセシフェリアを斬ろうとしていた。


「ステレイラさん!」


 突然のレイラの行動に、セレスティーネは思わずといった感じでレイラの名前を叫ぶも、レイラはその足を止めずに近づいてくる。

 そして、セシフェリアに斬りかかった……けど、セシフェリアは僕の上から降りると、腰に携帯している剣を抜いてレイラの剣を受け止めた。


「何?ステレイラちゃん、私はただルークくんが私の手で気持ち良くなってたっていう事実を話してただけだよ?」

「ルーク様のお気持ちを無視して、無理やりそう感じさせただけでしょう!」

「やっぱり、ステレイラちゃんがルークくんを欲しがってるのは、幸福を祈ろう会に参加してた唯一の奴隷だから、なんて理由じゃ無さそうだね」


 セシフェリアがそう言っている間にも、明らかに表情に怒りを表しながら剣を押し込むレイラ。


「それがどんな理由なのかはちょっと気になるけど、それはまた今度かな」

「っ!?」


 レイラによって押し込まれた剣を、セシフェリアは弾き返す。


 が、その隙を突いて。


「クレア様!クレア様がルーク様に行ったことは、許されないことです!」


 今度はセレスティーネがセシフェリアの剣を狙って斬撃を加えた。

 隙を突かれたことで反応が遅れるも、セシフェリアはそれを受けて言う。


「ルークくんは気持ち良くなれて、私は可愛いルークくんを見れて嬉しい気持ちになるのに、どこに許せないことがあるの?」

「奴隷という立場を利用して、そのようなことを行なっていることです!」


 さらに、セレスティーネは斬撃を加える。


「……」


 セレスティーネが剣を使うところは初めて見るけど、動きを見る限り、どうやらセレスティーネも幼い頃から剣の鍛錬を積んできているようだ。

 だけど、セシフェリアはそれを全て受けながら言った。


「ここに、さらにステレイラちゃんも加わってくるってなると、流石にちょっと厄介だね……でも────」


 セシフェリアが言いかけた時。


「っ!?こ、公爵様方!?こ、これは……」


 騒々しい物音が聞こえて来たからか、受付で見た女性の人が部屋の中に入ってくると、驚いた様子で声を上げていた。


「……」


 第三者がやって来た状況でこれ以上続けるのは良くないと判断したのか、三人は剣を鞘に収めると、セレスティーネが穏便にすませられるように状況を説明した。

 これにて、エレノアード祭における僕を巡る彼女たちの内乱は終わりを迎えた。

 けど────このエレノアード祭で僕への想いをより強固にしたセシフェリア、セレスティーネ、レイラの争いが、これで終わるはずもなく……僕の貞操は、より危険な状態に陥っていくことになるのだった。

 ────その争いに、近いうちに新しくが加わることになることを……この時の僕はまだ、知らない。



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 この物語の連載を始めてから三ヶ月が経ちました!

 申し訳ないことに返信などはできていませんが、いつもいいねや応援コメントなどでたくさんの方が楽しんでくださっていることが伝わってきて、とても嬉しく思っています!

 改めて、この三ヶ月という節目に、気軽にいいねや応援コメントなどをしていただけると本当に嬉しいです!

 今後もこの物語をお楽しみください!

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