内容
「っ!?えっと……そ、そっちの方も、一応大丈夫だよ」
「っ……!良かったです、ルーク様……!」
安堵したように僕の名前を呼ぶと、レイラは僕の体に顔を埋めるようにして力強く抱きしめてきた。
……下着越しに僕の僕に触れられて、正直かなり危うい状況だったけど、そのことを伝えてもレイラにとって刺激になるだけのため、このことはわざわざ伝えなくても良いだろう。
その後。
このまま信徒の人もいる教会内で深い話をするわけにもいかないため、僕はレイラと一緒に聖女室に入った。
そして、紅茶を僕の前に差し出してくれると同時に、レイラは申し訳無さそうに言う。
「以前は、紅茶に睡眠薬を盛り、アレク様のことを眠らせてしまうなどということをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「気にしなくていいよ、あれも一応レイラが僕のことを想ってくれているからこその行動だったし、レイラには普段からとても力になってもらっているからね」
紅茶の入ったティーカップから手を離したレイラは、両手を合わせると頬を赤く染めて感激したような声色で。
「あぁ……!アレク様……!そのお優しさに、私は感服致します……!アレク様のご慈悲に報いることができるよう、今後はよりアレク様の目的のための力となることを、ここに誓わせていただきます……!!」
「う、うん、頼りにしてるね」
「っ……!アレク様に、そのようなことを仰られては────」
「レイラ、今日は真面目な話をしたいから、一度落ち着いてもらっても良いかな?」
「っ!た、大変申し訳ございません!!」
再度力強く謝罪したレイラは、僕の対面にあるソファに座った。
相変わらずなレイラだったけど、その相変わらずさにどこか安心感を抱いた僕は、一度レイラの淹れてくれた紅茶を飲んで「美味しい」と感想を伝えると、ティーカップを置いて当初の予定通り話を始めた。
「今日話したいのは、ヴァレンフォードの件と、エレノアード祭中のことなんだ」
「ヴァレンフォードさんの件、というのはペルデドール侯爵から聞き出した、ヴァレンフォードさんが一人になる時間帯と、ペルデドールさんに書かせた招待状を利用してヴァレンフォード公爵家に潜入し、サンドロテイム王国との戦争継続を停止させること……という理解で問題ありませんか?」
「うん、問題ないよ……今日はそのことに関して一つの決めたいことと、一つの伝えたいことがあるんだ」
「決めたいことと伝えたいこと、ですか?」
聞き返してくるレイラに頷くと、僕は口を開いて言う。
「まずは、決めたいことだけど……単純に、この潜入をいつ決行するのかを決めるのに、レイラの意見を参考にしたいんだ」
サンドロテイム王国との戦争継続を停止させるための潜入。
早ければ早いだけ良いのはもちろんそうだけど、今このエレノアード帝国内はエレノアード祭というあと二日後に行われる祭りで活発になっていて、イレギュラーなことも多い。
だから、僕だけでなく、エレノアード帝国に長い間住んでいるレイラの意見を参考にして決行日を決めたいということだ。
その意図を理解してくれたのか、レイラは頷いて言った。
「そうですね……エレノアード祭当日はもちろんのこと、その前日や二日前の今日なども、街や、場合によってはヴァレンフォード公爵家も普段とは違う動きを見せている可能性があります」
ですが、と続けて。
「エレノアード祭が終わった翌日に街の片付けを終えれば、その後は完全に通常通り……いえ、場合によってはエレノアード帝国全体の雰囲気が少し緩んでいるかもしれませんが、私たちにとっては好都合ですので、問題なくヴァレンフォード公爵家への潜入を行うことができると思われます」
「ヴァレンフォードも、エレノアード祭終わりで気を緩めていて、夜眠る前一人で戦略を考えるという習慣を疎かにする可能性は?」
「一時の祭り事で自らの決め事を破るような性格の方でないことはもちろん、何よりも戦略というものを好まれている方ですので、そのようなことはあり得ないと考えても良いと思います」
確かに、今まで得てきたヴァレンフォードの情報をまとめると、そんな印象だ。
今聞いた話を元に、僕は口を開いて言う。
「それなら、ヴァレンフォード公爵家への潜入はエレノアード祭の二日後……今からだと、四日後にしよう」
「わかりました」
こうしてヴァレンフォード公爵家への潜入日が決まると、僕は続けて言う。
「次に、レイラに伝えたいことだけど……ヴァレンフォード公爵家に潜入する際、レイラには屋敷の外で待っていて欲しいんだ」
「屋敷の外で……ですか?」
「うん、これは潜入任務だから、二人で屋敷に入ることのメリットよりもデメリットの方が大きいと思うんだ」
「確かにその通り、だと思われますが……でしたら、より危険となる潜入する方は私にお任せください!必ずや、ヴァレンフォードさんにサンドロテイム王国との戦争継続を停止していただくよう説得して見せます!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、これはサンドロテイム王国のための重要なことだから、王子として僕がしないといけないことだと思う」
「アレク様……」
「でも、もし一時間経っても僕が所定の位置に戻ってこなかったら、その時はもし可能そうなら様子を見に来てくれるかな?」
「……わかりました、アレク様の仰られる通りにさせていただこうと思います」
「ありがとう、レイラ」
僕が危険な目に遭う可能性があることに変わり無いからからか、レイラは少しだけ不安そうだったけど、それでも僕の意思を尊重して頷いてくれた。
これで、ヴァレンフォードの件について事前に話さないといけないことはもう無くなった。
あとは本当に、その日が来るのを待つだけだ。
僕が心の中でそう思っていると、レイラが少し重たい声色で言った。
「アレク様……私は先日、アレク様がセシフェリアさんに連れ去られてしまった時、改めて深く認識致しました……私は、アレク様がいらっしゃらないと、この世で生きていくことができないのだと」
「生きていけないなんて、そんなことは────」
「いいえ!そのようなことがあるのです!もしもアレク様に、アレク様に、何かあってしまったらと思うと、私は、それだけで……」
顔を俯けて言ったレイラは、顔を上げると自らの胸元に手を当てて力強く言った。
「アレク様!どうか、私とお約束してください!この先何があっても、無事に私の元まで戻ってきてくださると!」
「……」
僕は、ソファから立ち上がると、力強く訴えてくるレイラの隣に座って、その目を真っ直ぐと見て言った。
「約束するよ……今回の件が無事に終わったら、前に言ってた通り、二人で食事をしに行こう」
「っ……!はい……!」
レイラは、嬉しそうに頷いて言う。
「……そうだ、それこそ、今回の件が無事に終わったら、またレイラに何かご褒美をあげるね」
「っ!本当ですか!?」
「うん、ご褒美の内容は、どんなことでも良いよ……って言っても、僕にできる範囲でってことにはなっちゃうんだけどね」
「っ!?ア、アレク様のできる範囲で、どのようなことでも良いのですか!?」
「もちろんだよ」
僕が頷いて答えると、レイラは目を輝かせていた……
と同時に、何故かとても頬を赤く染めていた。
「レイラ……?どうかしたの?」
そのことを不思議に思った僕が疑問を投げかけると、レイラは、はっとした様子で首を横に振って言う。
「い、いえ!なんでもありません!そういうことでしたら尚のこと、今回の計画も絶対に成功させましょう!」
「そうだね」
その後、僕とレイラは二人で雑談をして穏やかな時間を過ごした。
こんな時間がずっと続けば良いと思ったけど、そういうわけにもいかない。
それから時間が流れると……いよいよ。
────僕と、そして僕を巡る彼女たちの、波乱のエレノアード祭が幕を開けた。
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