説得
「っ……ぁ」
意識を覚醒させると、僕の全身には心地良い何かがゆっくりと駆け巡っていた。
この心地良さに身を委ね続けていたら、もっと心地良く、気持ち良くなれる。
何故かはわからないけど、僕の中にはそんな実感があった。
……意識が覚醒したからすぐにでも起きないといけないけど、もう少しだけ、こうして居よう。
今まで、意識が眠りから覚醒した直後にこんな感覚を味わったことはなかった。
そのため僕は寝起きのせいかどこか少し頭がぼんやりとしていたけど、その心地の良さに全身を委ねる。
「本当、昨日はたくさん我慢させちゃってごめんね……ちゃんと、ゆっくりしてあげるからね」
そんな聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。
我慢……?ゆっくり……?
何の話だろう……
思考を回そうとするも、やはり寝起きであることと、この心地良さが邪魔をして上手く思考することができない。
「ん……ぁ」
「やっぱり、ここされると声出ちゃうんだね……はぁ、どうしよ、ルークくんのルークくんを初めて私に見られて恥ずかがってるルークくんのことを見たかったけど、下着脱がせてあげた方がもっと細かく手も動かせて気持ち良くしてあげられるよね」
……僕の、僕?
下着を脱がせる……?
手……?
気持ち良く……?
それらの強烈なワードによって、僕の頭が眠気から徐々に冷めてくる。
「うん!決めた!私のエゴで今ルークくんのことちゃんと気持ち良くしてあげられないなんて嫌だし、脱がせちゃお〜っと!」
「っ!?」
その大きな声と言葉によって、完全に頭が眠気から覚めた僕は、目を開くと声の方向を向いた。
すると、そこには昨日の宿の部屋のベッドの上で、今にも僕の下着を脱がせようとしているセシフェリアの姿があった。
「セ、セシフェリアさん!?」
「あ、ルークくん!おはよう〜!何って、昨日の続きだよ?昨日は中途半端にしかしてあげられなかったから、その続きをしてあげようとしてたの……寝ながらだったけど、可愛い声いっぱい出してたね」
「っ!人が寝てる間に何してるんですか!!」
頬を赤く染めて言うセシフェリアに力強く言うと、セシフェリアは全く反省した様子なく言った。
「だって、昨日宿に帰ってきたらルークくんすぐ寝ちゃったし……それに」
「ぁ……!」
セシフェリアは、続けて僕の僕に触れ直して言う。
「ルークくんのルークくんは、早起きまでして私に触って欲しいって言ってたよ?そんなことされちゃったら、昨日の件も含めて気持ち良くしてあげるしか無いよね?ほら、起きてるルークくんのことも、ちゃんと気持ち良くしてあげるね」
「ちょ、ちょっと待────ぁ……て……っ」
セシフェリアが下着越しに僕の僕に触れながら手を動かした瞬間。
僕は、思わず変な声を上げてしまう。
これは、断じて敵国の女性の手なんかで何かを感じてしまっているわけじゃない!
……というか、本当に僕はこんなことをしてる場合じゃ無いんだ!
ヴァレンフォードに戦争継続をやめさせたり、あとはセシフェリアに……そうだ!
僕は、エレノアード祭の地下闘技場のトーナメント戦に出場し、サンドロテイム王国の奴隷とされてしまった民の人たちを助けるべく。
今から、僕の主人であるセシフェリアに、そのトーナメント戦に出場させてもらえるよう説得を試みることにした。
「セ、セシフェ……ぇ……リアさん、お願いした……っ、い……こ……と、があるんですけ、ど……」
っ……!
別に、何かを感じてしまっているわけじゃ無いのに、上手く喋れない!!
普通に話をするならどう考えたって手を止めてもらったほうが話しやすいけど、手を止めて欲しいと言って機嫌を損ねてしまったら終わりだ。
エレノアード祭まであと二日。
このお願いは、もう絶対に失敗するわけにはいかない。
そのため、僕は込み上げてくる何かをどうにか抑えていると、手を動かし続けるセシフェリアは心底楽しそうに言う。
「お願い、ね……今のルークくん普段にも増して可愛いから、お願いされちゃったらどんなことでもさせてあげちゃいそうだよ」
この僕の姿を、可愛いなんて……!
っ……セシフェリア、本当に絶対に、許さな────
「ぁっ……」
体が言うことを聞かない!
ダメだ、今はとにかく、目的のことを考えるだ……
そうじゃないと、一瞬で意識が持って行かれてしまう。
思い直した僕は、再び口を開いて言う。
「エレノアード、祭の、地下闘技……場のトーナメン、ト……っ、戦、に、僕を……出し……て……っ、欲しい、んです」
相変わらず、セシフェリアは手を止めずに言う。
「トーナメント戦?確か、優勝したら今年は奴隷商から奴隷をもらえるのと、百万ゴールドぐらい出るんだったっけ……でも、どうしてルークくんがあんなのに出たいの?」
百万ゴールドが出るというのは初耳だけど……これは、使える!
そう思い至った僕は、セシフェリアの問いに答える。
「その、百万ゴールドで、普段お世話になってる、セシフェリアさん……に……ぃっ、何か、お礼を……」
「え!?私にお礼するため!?」
「っ……!」
そう言うと、セシフェリアは動かす手の速度を速めた。
何かが急速に込み上げているのを感じるけど、まだセシフェリアの不機嫌を買うわけには……!
説得が完了するまで、我慢するんだ……!
「は……っ、い」
「え〜!でも、私はルークくんが傍に居てくれるだけで十分だよ〜!それに、当たり前だけど、あれって物理的戦うことになるからすっごく危ないんだよ?」
「それでも……っ、セシフェリアさんに、お礼を……返した……ぁ、い……んで、す……」
「っ〜!ルークくん……!」
「っ……!!」
目を輝かせると、セシフェリアは今まで以上に手の速度を速めてくる。
そして、続けて言った。
「ルークくんが危険な目に遭っちゃうかもしれないのは不安だけど、そういうことなら今すぐにでも私がエントリーの手続きしてきてあげる!!」
嬉しそうに言うと、セシフェリアは僕の僕に触れるのをやめて、急いで宿の部屋から出て行った。
一人ベッドの上に残された僕は、体から力を抜くと呼吸を整える。
「はぁ、はぁ……助かった……あと少しで、本当に……」
その後、僕は紳士服のパンツを履き、水を飲んだりして心と体に安寧をもたらした。
「どうにか、セシフェリアの説得は完了した……」
闘技場で僕が優勝できるかどうかはわからないけど、サンドロテイム王国の民たちのためだ……
何が何でも、絶対に優勝してみせる。
とはいえ、二日後のエレノアード祭の地下闘技場で実際に戦うその時まで、僕ができることは精々体調管理ぐらいだ。
そのため、今考えるべきは……
「ヴァレンフォードに、サンドロテイム王国との戦争継続をやめさせること……」
これは僕一人でも行うことはできるけど、行動を起こすなら協力関係にあるレイラには事前に伝えるべき。
と、思い至った僕は、宿を出ると馬車に乗って教会へと向かった。
そして、教会に到着すると────
「っ!!ルーク様!!」
僕の姿を見たレイラは、目を見開いて大きな声で僕の名前を呼ぶと、僕の方に駆け寄ってきた。
その勢いのまま、僕のことを抱きしめてくると、僕の顔を見上げるようにして心配そうな表情で言った。
「ルーク様、あれからどこか怪我などはございませんか?」
「うん、見ての通り無事だよ、心配してくれてありがとう」
「そうでしたか、ひとまず、お怪我など無かったことにとても安心致しました……」
言葉通り安堵した様子で言ったレイラは、続けて。
一度僕の下半身に視線を向けてから、再度僕と顔を合わせて、気まずそうにしながらも先ほどと同様心配そうな声色で聞いてきた。
「その……あちらの方は、何も……ございませんでしたか?もしあられたのでしたら、私はもう……」
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