第二十四話 ご当地プリン


 外に出たくないとうめくネネ先輩に、無理やり人の姿を被らせて。

 奈良駅から急行に乗って東福寺へ向かい、K阪本線に乗り換える。

 いつか、僕が開けてしまった大穴は、ちゃんと塞がっているだろうか。

 気になるところではあるけれど、今日はそこまでは向かえない。


 乗車券の要らない特急を降車し、駅のホームに出た。

 人の流れに従って、黄色い線の内側を歩きながら、階段口へ向かう。

 何度か通過しこそすれ、一度もここで降りたことは無かったから、少し新鮮だ。


「えっと……CRR?」

「なんでしょう」

「私たち、一応奈良県のエージェントなのよ?」


 ふむ、なるほど。

 それはその通りなのだけど、一応ちゃんとした理由はある。

 だけど、今説明するのはややこしいから……


「どうせ、例の件の後処理が完了するまでは他県のエージェントがヘルプに入ってくれているんですから。こうして有給休暇としゃれこんでも、問題はないはずですよ」


 ひとまずは、ずらした回答で誤魔化そう。

 ネネ先輩もおかしいと思ったのか、小首をかしげている。

 少し申し訳ないけれど、こればっかりは仕方がないのだ。


 どうせ、この先の改札口に待ち構えている人物の方が、僕よりずっと説明上手だからね。


 そんなことを考えながら、僕は改札機にICカードを触れさせた。

 顔を上げてやると、改札機を通り過ぎる列の先に、ブラウン髪の人影が見える。


「来たか」


 柱の傍で腕を組んでいたその人物は、僕らが近づくとそう言って伏せていた目を開いた。

 相変わらず風貌が様になっているな。


「お久しぶりです、バイン先輩」

「お前にそう呼ばれるのは初めてだな、クラリ」


 ははは……そりゃあまあ、名前を知りませんでしたからね。

 連絡を仲介してくれたクリスタさんが、バラしていなければいいのだけど。

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているあたり、バレていそうだな、これは。


「えっと……あなたは?」

「聞いた通りだ。こいつの先輩だよ」


 バイン先輩がそういった途端、ネネ先輩が複雑な表情になってしまった。

 口の形が筆記体のVみたいになっている。

 どうかしたのだろうか。


「まあ心配するな。先輩は先輩でも今の俺はオペレーターだ。エージェントの先輩第一号はお前だよ」


 その言葉で、ネネ先輩の表情はさらに複雑になってしまった。

 一体どういうことなのだろうか、ちょっとよくわからないのだけど。


「それで、例の物はちゃんと持って来たんだろうな?」

「あ、はい」

「え、例の物って、何のこと?」

「これはですね……」


 今日の僕は、ビジネスバックの中にいろいろなものを詰め込んでいる。

 その一つが、このお土産の入った紙袋だ。


「はい。これです」

「お前……」


 店舗では貰い忘れてしまったので、アウトレットモールのやつなんだけどね。


「一応確認しておくが、中身は何だ?」

「ああ、奈良のご当地プリンです」

「……冗談だろ?」

「失礼な! 車無しで買いに行くの結構苦労したんですよ!?」


 せっかく奈良駅から自転車を出して本店で買ったのに。

 喜んでくれないとは残念だ。


「まあ、冗談はさておき」

「冗談が分かりづらいんだよ」

「……すいません」


 おそらくそれは、僕の日頃の行いのせいなんだろう。

 あんまり小ボケを挟むものじゃないな。

 保護艦隊直営モールでの一件以降、僕の感覚も麻痺してしまっているのかもしれない。


「紙袋の底に、例の物があります」

「そうか。ならいい」

「ちょっと、そろそろ説明してよ」


 まあ流石に、置いてけぼりにしすぎてしまっているな。

 隠すことでもないのだけれど、流石に改札口で話すのは憚られるな。


「一度、どこかに入りましょう」

「おう、だったらいつものイタリアンが近くにあるぞ」


 気取った言い方をしているけど、例のファミリーレストランですよね。

 本当に先輩はあの店が大好きなんだから……

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