第二十二話 侵略者

「だったら、嫌われていても納得ですね」

「そうですか?」

「ええ、僕の身体は、ネネ先輩の母星を破壊するために作られた、侵略者のものですから」


 一瞬で、クリスタさんが険しい表情になったのがわかった。誤解を長引かせないために、すぐさま言葉を続けなければならない。


「僕は母星に味方する、鹵獲兵器だったんです。無力化された侵略者の身体をハッキングして、内蔵知能だけを入れ替えた」


 つまり僕は、侵略者の身体で、侵略者と戦っていたということ。陣営的には母星側だとしても、そのガワはネネ先輩からすれば文字通りトラウマものだろう。拒絶するには、それだけで十分な理由と言える。


「……そうですか。失礼しました」

「いえ、僕の言い方も悪かった」


 少し危うかったが、誤解は解けたらしい。

 しかしまあ……ネネ先輩は、愛されているな。


「まあ、なんにせよ、そういうことなら……私たちにできることは、もうありませんね」

「そう……なんですかね」

「ええ、あなたの身体は、ネネットと相性が悪いようです。そうでなければ管轄地域の仲間として、メンタルケアを依頼するところでしたが……」

「…………」


 自分自身の、無理をしたジョークっぽい口調に耐えられなかったのか、クリスタさんは、気まずそうに黙ってしまった。だけどまあ、言いたいことは伝わってくる。


 そう遠くないうちに、僕はN県の担当を離れるべきなのだろう。当たり前だ。入隊したての新人と、数年来のベテランエージェント。どちらを優先すべきかって言われたらそりゃ、僕だってベテランの方を選ぶ。


「元々は、メンタルケアが専門だったらしいんですけどね」

「そうなんですか」


 僕が自嘲気にそう言うと、クリスタさんは気の毒そうに相槌を返してくれた。困ったな、そういうつもりじゃなかったんだけど。


「まあ、AIを移し替える前の話です。母星での戦争が終わる前に聞いたことですから……」

「……どうしました?」


 あ……そうだ。そうだった。

 どうして今まで、忘れていたのだろうか。

 どうして今まで、気がつかなかったのだろうか。

 上っ面だけの目標を掲げて、何故重要なことを、思い出そうとしなかったんだろうか。


「CRR?」

「クリスタさん、今日って何日ですか?」

「一月三十日ですが」

「合星国でも同じですよね?」

「はいそうですが……あ……」


 クリスタさんも気付いたのだろう。彼女が手を添えている、ネネ先輩のプロフィールカード。その、登録日とは別の欄に記された日付。ついさっき、左腕で隠された場所。


「確かに、明後日はネネットの誕生日ですが……なぜそれを?」


 別にさっき目に入ったわけじゃない。ただ、覚えていたのだ。


「クリスタさん、もう一つ……いいですか」


 だったら、僕が今、彼女に聞くべきはコレだろう。


「この辺りに、良い土産物屋はありますか」

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