9-5 白蛇の塚守り
「三元、俺は今から九州に行く」
「九州?! 何でだよ」
何の脈絡もなく『九州に行く』と叫んだシャモに、三元は思わず狸のような目を見開いた。
「銀の盾を火山口にごにょごにょしてくる。御供はXLサイズの野郎限定。夜行バスの予約を取るぞ」
「行き先は桜島か。それとも阿蘇山か。銀の盾は指輪じゃねえ。しかも何で夜行バス限定? 飛行機の方が早いだろ」
「不法投棄ダメ絶対! そもそも火山に行くなら我が故郷群馬がお勧めです。浅間山に白根山、赤城山に榛名山」
仏像と松尾が諫めるのも聞かず、シャモは立ち上がったままスマホで乗換アプリを検索した。
「飛行機だと夜を徹して火山に行く的な、魔物と闘う的なゾクゾク感が皆無だろ。群馬はありえねえ。湘南新宿ライン一本で行ける場所に行っても冒険感がゼロ」
ちなみに群馬の諸火山には湘南新宿ライン一本で行ける訳ではない。
「だから銀の盾を捨ててどうする気だ」
「俺が銀の盾を手に入れたせいで呪いが、呪いがああああ。サッカー部の呪いがあああ」
「サッカー部の呪いだと思うなら、シャモがやるべき行動は決まっている。サッカー部に土下座。ネットの海をさまよう情報を回収。理事長に
「無理だあああああ!」
「何バカ言ってんだこのトントンちきが!」
無理だああああと叫びながら畳の上を転げまわるシャモを、川崎大師名物のくずもちを運んできたみつるが呆れ顔で見下ろした。
「あんたらは声がデカいから、話が店に全部筒抜けだ」
「面白そうな話だから、仲間を呼んじまったよ」
くずもちを運ぶみつるの後ろから顔を出した
「
「面白そうな創作落語のネタがあるって聞いて、飛んで来たよ」
ステッキを手にした上品な老齢の男性は落語界のレジェンド・
「白蛇は神の使いとは言いますが。さて、話を聞かせて頂きましょうか」
郷土史家の滝沢さんも興味津々に座敷をのぞき込む。
みつるを先頭に、拒否権は無いと言わんばかりに四人の老人は座敷に上がり込んだ。
「『白蛇の塚守り』なる伝承をご存じですか」
シャモの話を聞いて真っ先に反応したのは、郷土史家の滝沢さんだ。
曰く、
その中でも『白蛇の塚守り』なる話は、神隠しの起こった沼地に白蛇が居ついた事から起こった民間伝承。
だが、地域の急激な都市化によってその内容は散逸し、現在では語る人もいないはず。
「『小さな女の子が底なし沼に足を取られて溺れかかった時に、白蛇がその子に巻き付いて近くの土手に引き上げようとした。だが、子供を助けた事で沼の主の怒りに遭い、その地に住んでいた白蛇たちは干からびて亡くなった。その子とその母親は丁重に白蛇の塚を作って祭祀を行った。その結果、その沼周辺には白蛇が戻って来た』。私が調べた話をまとめると、大体このような筋になるのですが」
『白蛇の塚守り』役は白蛇の塚を立てた女の子孫、しかも娘にしか出来ない。
それと引き換えに、藤巻家は白蛇の加護と霊力を得ている。
まだ身分制が色濃く残っていた時代には、古老の間でまことしやかにささやかれていたのだと。
「それで、その『白蛇の塚守り』の末裔が、美濃屋の若旦那(シャモ)にほの字って訳かい」
ウクレレ漫談の松脂庵うち身師匠がにやにやとシャモを見る。その隣で、『ほの字』だ何て今どきの高校生には通じねえよと三元は呆れたように笑った。
「『ほの字』はともかく、これがどうにも変わり者の女でさ。シャモに一目惚れしたって言うのに、シャモが話しかけてもうなずいてばかり。そうかと思えばいきなり結婚だ何だで。周りから見てても何がしたいのか良く分からねえ。条件は最高だと思うけど」
どうにも腑に落ちないと首をかしげる三元に、老いも若きも眉根を寄せる。
「男ってのは本当にどいつもこいつも……。何も分かっちゃいないね」
そんな中、一人したり顔で男達を見回したのが、みつるであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます