9-3 白蛇姫
【一太郎二姫、共に白髪が抜けるまで夫婦円満一家平安一族繁栄】
それがシャモが広島の山奥で出会った凄腕霊能者・
シャモは餌の発言により改めてその言葉を意識すると、はっと顔を上げた。
「『一族繁栄』。そう言えば蛇って多産のシンボルだよな」
「そして死と再生のシンボルでもありますね」
松尾の発言を受けたシャモは、死と再生とつぶやきつつ、しほりとシャモをめぐり合わせた元凶・
「ちょっと何そのもの言いたげな目線は。うちがしほりを『みのちゃんねる』の収録に連れて行ったのは偶然なんだってば」
しほりとシャモが出会うきっかけを作った加奈が、いちごソーダを飲みながら頬をぷうと膨らませる。
「駐輪場まで行きながら、五千万円を受け取りながら……。情けない。男になったからには四の五の言わずに腹を括ったらいかがです」
「お百度参り(しほり)に手を出して、証拠のブツまで取られたのはお前だろ。全く往生際の悪い」
「みのちゃんサイテー」
どこかで聞いたようなセリフを松尾と仏像と加奈から聞かされたシャモは、思わず寝ぐせのついた髪を掻きむしった。
「待てって。俺はしほりちゃんとキスどころか、何を話したかすらまともに覚えてねえ。お前ら非モテ野郎どもにうらやましがられる要素はねえ。狐につままれたか蛇に化かされたレベルで美味しくない立場なの」
「それは俺に向かって言っているのか? 俺が非モテ野郎なら世界中の男は全員非モテだぞ」
真顔でハーフアップのセミロングヘアを傾けながらのたまった仏像。
その様子があまりに絵になりすぎて、シャモは思わず仏像の顔にタオルおしぼりを投げつけた。
「みのちゃんひどーい。ゴー様(仏像)は加奈の最愛のお方っ(≧∇≦)。 非モテじゃないもんねーっ。つうかそこの野獣眼鏡(松尾)、いい加減に席変われ」
「非モテ野郎上等。僕は最愛の人にだけ愛されればそれで良い」
仏像はきゃっきゃとにじり寄る加奈に対抗すべく、松尾を隣に据えて盾にする。
「モテとか非モテとか、実はどうでも良いんですよねえ。僕は熟女が好きなだけで、交際結婚は眼中に無いし」
「そうだよ俺はシャモの心配なんてしている場合じゃなかった。彼女いない歴十八年になったのにまだ出会いがねえ。加奈さん、誰か紹介して」
シャモの非モテ野郎呼ばわりにダメージを食らったのは三元ただ一人。
「任せとき! たぬたぬ(三元)にぴったりの子を見繕ってやんよ」
「止めとけ。俺みたいになってからじゃ遅い。白蛇(しほり)の次はろくろ首かそれとも海坊主か」
「みのちゃん(シャモ)ちょっとひどくない? しほりは完全に想定外。それに白蛇姫うんぬんを置いておけば、超大富豪お嬢様かつ和風美人。みのちゃんごときがあれ以上の女を求めようなんて。身の程を知れ」
しほりを紹介した事を暗に責めるシャモに逆切れした加奈は、ずびしと指をシャモに突き付けてまくしたてる。だがシャモも負けてはいない。
「だーかーらー! 俺には一切の映像も音声も感触も記憶にない。美人だろうが大富豪だろうが関係ない。それに、白蛇姫うんぬんを置いておけるか。相手は人どころか
「とは言え五千万円が一気に入るなら……」
「餌、しっかりしろ。結納金だぞ。一回こっきりの金だぞ。五千万円と引き換えに生涯を白蛇の化け物と過ごす気か。金の面からしても割に合わねえだろ」
「えっ、でも蛇って人間より寿命短いじゃないですか。長くてせいぜい二十年ぐらいのはずですよ」
と言いつつ、餌は早速スマホで『白蛇 寿命』とキーワード検索を始めた。
「サイコパスだ、サイコパスが隣にいるうっ怖いいいい!」
「松尾、落ち着け。あれが餌の通常運転だ。蛇は二十年でも長寿の類か……。ならば藤崎家が慌てふためいてシャモを婿に取る気持ちも分からなくはない」
いちごソーダを飲み干すサイコパス(餌)から松尾が距離を取るそばで、アホの子と化した仏像がしんみりとうつむいた。
「仏像さんしっかりしてください。白蛇うんぬんは比喩表現でしょ。何でチョロ仏化してるんですか」
「だったら何で俺がしほりちゃんと会うたびに記憶が消えるんだ。おかしいって」
「おかしくないです」
強い口調で断言する松尾を、シャモが凝視した。
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