第26話 [第一部完] 観覧車と五月と
三回目のデート先は遊園地。お化け屋敷はその中のアトラクションの一つである。
何故遊園地を選んだかと言うと、ここのようなキラキラした場所に寝取り魔やカップルクラッシャーは来ないだろうと踏んだから。
さらに五月親衛隊もこの人の波の中で易々と行動を起こせないはずだからだ。
今回は絶対成功してみせる。今まで散々邪魔されてきた告白を。
◇
夕暮れに差し掛かってきた時、俺は五月を観覧車へ誘った。一世一代の大勝負である。
観覧車が登り始めた。緊張しているのか、俺は言葉が何も浮かびでてこない。情けない事に観覧車が登り切るまで喋れなかった。
とうとう観覧車が頂点へ来てしまった。どうすればいいだろう。そんなときだった。
五月の口からゆっくりと、でもハキハキした声質で語り始めたのは。
「あなたと出会ったのは雪の日でした。それからコーヒを口から出す亀が店長をしているカフェに行きましたね」
「あの時はすまなかったね。あの2人(カップルクラッシャーと寝取り魔)が邪魔して」
「いえいえ、むしろあなたの元カノメガネさんにはお世話になりましたから」
元カノ、ああ鈴木のことか。お世話になったって何されたのだろう。いつの話してるのだろう。まあ、些細なことか。
「雪まつりではあなたの味覚音痴な面が分かり、映画館ではあなたの感受性の高さを知ることができました。それ以外でもプライベートで度々出会いましたね」
あれ、この展開は……
「五月が思いの外寂しがり屋だったからなぁ」
「私は分家筋の人間ですから贅沢者が実際過ごしている生活を知りません。ですが、あなたと過ごした時間は贅沢でした」
それって……ほぼ告白じゃあないか。
「将来はあの豪華なお家に住みたいものです」
五月が見つめている先にあったのは『ザ•和風』みたいな家だった。
「そっか。じゃあ外に盆栽置いたりしたら風情感じれそうだねぇ」
「そうですねぇ。その時、隣に誰かが居たらもっといいのですが……」
「んじゃ、付き合おっか」
「……はい?」
五月はあんぐりした様子で俺の顔を目の中かっほじるように見て、固まってしまった。
何故だろう。告白したのに手ごたえが薄い。
他の殺し文句言ってみるか。
「俺は五月が好きだ。だから俺と付き合ってくれ」
「えっ、え?」
「月が綺麗だね」
「えっと……待ってください。頭の中がグルグルして」
「I love you」
「分かってます! 分かってますから少し待ってぇ!?」
◇
「返事は待ってくれませんか……?」
意外だ。ずっと好き好きアピールしてきた五月が保留を選択するなんて。急ぎ過ぎただろうか。
五月は俯いたまま、何かをボソボソと呟いている。耳を立てて聞いてみるか。
「まず、告白には順路がありまして。風景を眺めながらとか、いや今がまさにそうですね。しかし私の予定だと後何回かデートしてから告白という……」
奥手だ。普段会う時やメッセージアプリとかではむちゃくちゃアピールしてくるのに。
「私は王子様候補が先に告白してくるなんて、想定はしてましたけど、してなかったといいますか……」
「正式に君の王子様になりたい」
「だから告白攻めはやめてくださ~い!?」
◇
「私はあなたのことが好きです。でも、それ以上に不安が勝ってて……」
そうか。彼女はきっと恋愛することに慣れてないんだ。
「お付き合いをすることにどんな不安があるんだい? ちょっと聞いてみたいな」
「ま、まず。わ、私なんかでいいんでしょうか……?」
「そっくりそのまま返すけど? 少なくとも、俺が今まで見てきた中で一番の女性だよ」
すると突然、五月が観覧車の扉に頭突きをガンガンやりだした。観覧車が右に左に揺れ始める。
「お、おい!? まてまてまて、落ち着け。観覧車がぶっ壊れるぞ!」
どうにかこうにか頭突きをやめさせた。よく顔を見てみると、彼女の顔全体が紅に染まっていた。
「は、恥ずか死ぬ……恥ずかしにます……」
◇
「これからはあなたではなく、一樹くんと呼んでもいいですか?」
「ああ、別に構わないけど」
「えっと、不束者ですがよろしくお願いします」
この言葉が君の口から聞きたかった。舞い上がる気持ちを抑えきれない。
待て、まだ叫ぶような時間じゃあない。
叫ぶような時間だろ!
そうだな!
「っっっっっしゃぁぁぁぁぁ!」
今はただ、五十嵐五月という性格もビジュアルも最高潮な子と巡り合わせてくれた神様に感謝を。
◇そりゃあどうも。
ん? なんでナレーションが? まあいっか。
ひとまず、付き合うことには成功した。でも問題はこれからだ。俺は今まで色んな彼女と付き合ってきたが、どれも一カ月以上長続きしたことが無い。もう同じ轍は踏みたくないのだ。
五月親衛隊やらカップルクラッシャー、寝取り魔等不安要素しかない。
だから、改めて気を引き締めよう。可愛い子と末長く過ごすために。
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