第16話 映画館と五月と六花と 映画前編

 あれがお兄ちゃんの彼女候補、五月ちゃんだね☆


 噂に違わず美人じゃん☆小柄なのが玉に瑕だけど、モデル目指せるよ! 勝手に応募しちゃおっかな☆



◇回想



「わざわざ呼び出してすまない。今日彼女主導のデートでな。誰にも邪魔されたくないんだよ」


「大丈V☆元々ダチと遊びに行くつもりだったし☆映画館で何をすればいいの?」


 映画が上映される直前、ウチは神妙な面持ちなお兄ちゃんに呼び出されていた。緊張しているんだねー。


「ん? 後ろから物音が……いや、気のせいか」


(五月ちゃんに手を出したら殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


 それはマイケルに預けておくとして、なんかお兄ちゃんの背後に眼を血走らせて刃物を持ったおじさんが見えるんだけど?


 強烈な殺意をビシバシと感じるんだけど。怖っ☆


「六花は人の心が読めるんだろ? 怪しいやつを見つけたら警察に通報してほしいんだ」


 六花、お兄ちゃんのストーカー見つけたよ。言っていいのかな?


「お前にしか頼めない事だ」


「分かったよウチら便利部に任せて☆」


「おお! でも危険だと思ったらすぐに逃げろ。映画館近くの交番に駆け込め」


 なんでお兄ちゃん気づかないの? 至近距離だよ? 目と鼻の先に危険な人いるよ?


「大丈夫☆いざとなればオーガニック製の割り箸畑を作ってるから。マジ卍だから☆」


「今回は本気で言ってるんだけどなぁ。今日だけはおふざけ無しでやってくれ」


 どうしたものか。今下手な話題振ったらお兄ちゃん刺されるかもだし。いや、ここは敢えて下手に攻めてみよう☆


 そっちの方が面白そうだしね☆


「……もしかしてお兄ちゃん。今日告白するつもりなん☆?」


「おうよ! 告白成功したら、そこから関係を深めて結婚を申し込むつもりだ! 成功すれば必然的に六花は五十嵐五月と義妹関係。ハッピーエンドってやつさ。だからもしそうなったら酒場で一杯奢ってくれよな!」


 フラグ立てすぎてもはや万国旗みたいになってるよお兄ちゃん☆



          ◇



 ウチの親友も苗字五十嵐だから割と親近感を覚えるんだよなぁ☆


 というわけで、ウチは便利部のダチ達と先程知り合ったティンコラス2世を引き連れて指定席へ座った。


「よろしくだえ~」


(((誰っ!?)))


 ダチのみんな全員ティンコラス2世に驚いている。全身緑色の坊主に、触覚が2つ頭についているティンコラス2世。面白い格好してたから誘ったけど、誰なんだろうねぇ☆


 まっ、ウチ的にはフォックス耳の子とか知ってるし今更感あるけどね。


 さてはて、お兄ちゃんが言っていたストーカーを探すために、とりあえず無差別盗聴してみよう。そーれ☆



(五月ちゃんをあの男から護るんだ!)

(完全犯罪 人殺し 検索)

(穏健派として彼氏の性格を見極めるんだ)

(五月ちゃんはぁはぁ)

(あん時くたばってなかったんか)

(あの男絶対海に沈めたる)

(いゆかんちんちおいゆかんちんちお)

(五月様を映画館に誘う蛮行は、遺憾なことだと言わざるを得ない)

(はよくっつけ)

(五月ちゃんに罵られてもいいって自信が欲しいんだ)

(絶対許さないクソ男!)

(僕達の五月ちゃんを独り占めするな!)

(五月ちゃんに手を出したら殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)



 んーっ? 若干数十名、怪しい思考をしてる男女共がいるなぁ☆どゆこと? 想像の数倍ぐらいストーカーが多いなぁ☆


 ていうかどちらかといえば、お兄ちゃんに向けられてる殺意や嫌悪感、敵意の方が圧倒的に多い気がする。


 大丈夫かなお兄ちゃん。気を取り直して、お兄ちゃんの様子はどうなってるかな。盗聴開始☆


(映画を見終わって、そのあと夜景がきれいなスポットで告白しよう)


 こう見えてお兄ちゃんはロマンチスト。告白場所はちゃんとした所でしたいタイプなのだ。


(彼が王子様候補から王子様になるには告白を引き出すことが必須。なのでこの後、ホテルに行って既成事実を作ります。一樹くんだったら責任取って貰えるはずです!)


 五月ちゃんは……メンヘラだぁ! うん、メンヘラ。


(試しに胸当ててみますか! くっ、なんで私の胸はなけなし程度しか無いのでしょう……)


 ウチの眼から外れた所で色んな混沌振り撒いてそう。なんか周りが殺気立ってるし、怖いなぁ☆


 そんな中でもお兄ちゃんは、映画を真っ当に見て、人目を気にせず、五月ちゃんの色仕掛けにも反応せずに大粒の涙を流していた。


 ちなみに今回観てる映画の内容は、政略結婚されそうな彼女を彼氏が取り返すため奔走する系なやつ。


 そういえばこういう感動モノに弱いんだよねお兄ちゃんは。


 ウチのお兄ちゃんはそういうところがある。そう呆れていた時だった。思いも知らない事が起きた。



「優菜……ッ! 好きだ! 俺と付き合ってください!」



 後方で映画を観ていた男女。その男が映画館で突然告白をしだしたのだ。大胆かつ、軽快!


 女性の反応はと言うと、赤面しながら『このタイミングとかありえないんだけど』とか『少しは時と場合を考えて』だの男を罵っていた。


 罵り尽くして満足したのか、女性は席に座ったあと『生涯かけて償ってよね』と言った。


 途端に沸く会場。祝福ムードな民衆。告白は無事、成功したようだ☆


(ぱ、ぱわわ……!)


 ああ、五月ちゃん。少女漫画展開にめちゃ弱い感じなのか、口元を押さえながらカップル誕生の瞬間を見ているよ☆


 この感じだと、雰囲気便乗告白しちゃえば快諾してくれそうだよ☆


 お兄ちゃん、今がチャンスだ!


(ああ、なんて感動的な映画なんだ……! クソッ、不覚にも涙が止まらねぇ……!)


 ああ、だめだこの人。映画に感情移入しすぎてさっきの出来事、見てないっぽい。我がお兄ちゃんながらめんどくさい性質してるよね☆

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